261. サラーブさんはいつも通常運転
魔石剣の準備ができたので、早速ラエドさん達に渡すことにした。
「こえ、たしゅ。こえ、だんばったちと、プエジェント」
「こちらはマジックバッグ機能付きなので貸し出しになりますが、貴方に渡すそうです。悪意あることに使用すれば返却してもらいます。子々孫々に伝えるように」
あと王都全てではないけれど結界が張れること、魔力を補充すれば繰り返し使えることも説明しておく。
「ゆき殿…。ありがたき幸せ。必ずや子々孫々に伝承いたします」
ラエドさんも納得してくれた。
「こちらは武勲を立てた者に下賜するとのことです」
「!!!」
ダガー型魔石剣はマジックバッグなしで結界3のみ。
こちらはプレゼントすると説明した。ラエドさんやリーフさん、サラーブさん、アースィファさん分も作ったから受け取ってね。
「何という……その御心がありがたく、感謝しかございません」
ラエドさんは少しだけ涙ぐんでいた。
喜んでもらえたかな?
するとリーフさんが私達の前に跪く。
「ゆき様。無礼覚悟でお願いがございます」
「なあに?」
「もしできることならば、戴冠式の日にゆき様より陛下に大剣を手渡していただけないでしょうか?」
ん?
シュレおじいちゃんみたいな感じに大剣を渡すの?
「重い、持てにゃい。ハユパ、ちて、ちゅえゆ?」
残念ながら、重いから持てないなあ。
代わりにハルパが渡してくれる?うん。ハルパの方が良い気がするよ。
「わかりました。では魔石剣授与は私が行います。でも兵士達への授与は貴方達で行ってください」
「御意に」
わあっ!
楽しみ楽しみ!威厳たっぷりにやってね、ハルパ。
色々準備があるということで今日は解散となった。
私達は貴賓室にお泊りです。
猫足金模様付きバスタブで湯浴みをしたあと、美人なお姉さんに香油マッサージをしてもらいました。
お姫様になった気分で楽しかった♪
翌朝聞いたんだけれど、私が眠ったあと魔石剣(大剣)を見せて欲しいとサラーブさんが来たらしい。魔石剣は戴冠式の時に渡すことになったから、無限収納に仕舞ってあるんだよね。
皆はお断りをしたみたいだけれど、そこをなんとか!と縋るサラーブさんに困ったみたい。
お怒りモードのリーフさんが駆け付けて、サラーブさんの耳を引っ張りながら帰って行ったので問題なかったみたいだけれど。
ラエドさんに話している時は大人しかったから油断していたよ。
やっぱりサラーブさんはサラーブさんだね。
翌日はラエドさんと夕食を一緒にする以外特に予定が入らず、夜まで暇になっちゃった。
「それでしたら、王宮の厨房見学は如何ですか?」
「わあっ!いいの?」
「もちろんです。話を通しておきますね」
「あとで、いちゅね」
昼時は忙しいだろうからあとで行くね!
なに着て行こうかなあ。ふんふーん♪
割烹着とかどうだろう?ふんふんふーん♪
再構築・再構成をしようと無限収納を開くと、[New]と表示されているフォルダがあった。
あっ!アンゲリカさん!
若者達の死の森体験が終了したのでそろそろ帰ろうと思う。と書いてある。
そういえばテントとか貸し出ししてあるんだったね。
出発はミールナイト時間で明後日の早朝と言うことなので、それに合わせて冒険者ギルドに行かなくちゃ。
ミスティルにお願いして明後日早朝テントに行くねと返事を書き、フォルダに入れる。
わ、忘れていたわけじゃないよ?うんうん。忘れてないよ?
お昼も過ぎて落ち着いたであろう時間に厨房へ向かう。
「お待ちしておりました!」
「お待ちしておりましたっ」×全員
何ごとぞ!と思ったら唐揚げを提供していた優秀商と聞いていたらしく、料理人さん達にめちゃめちゃ歓迎されました。
「あの味はどうしたらだせるのでしょうか!」
「我らが調理すると、似て非なるものとなります」
そう言いながら作った唐揚げを食べさせてくれる。
香辛料やハーブを使った塩唐揚げ。いや揚げ物というより普通に両面焼いた感じ?これはこれで美味しいと思うけれど、唐揚げではなく鶏肉料理かな。
あとお肉が野性味溢れてる気がする。味が濃いのは良いとして少し臭みがある。
討伐した鳥?と聞いたら、迷い砂漠でドロップするサンドルッフという鳥のお肉なんだって。
迷い砂漠?サンドルッフのお肉はドロップしていないよ?
「サンドルッフは中層に出現するんだよ。だから俺達は討伐していないかな」
そうなの?レーヴァ。
前回はたぶん最奥(と思われる)辺りを狩りまくっていたからドロップしなかったんだね。
この鳥を調理するには……まず臭みを取りたい。
鳥肉の臭み取りは、調理酒やお湯、牛乳、長ネギ、大蒜や生姜を使う方法がある。
この国にありそうなのはお湯、大蒜、生姜かなあ。
ビールに漬けるって手もあるけれど、この世界だとエールになるからどういうお肉になるかわからないもんね。
私が作るものは、この国……世界にない調味料を使っているから同じ唐揚げは作れない。調味料を売るって手もあるけれど…うーん。
魔石剣の共有でやりとりする?国王陛下が醤油や料理酒のやりとりをすることになるけれど、料理人さん的にそれでも良いのだろうか?
ラエドさんはOKしそうだな。でもリーフさんが止めるよね。
サラーブさんが俺が大剣を預かってやりとりするよ!(その代わり解析させて!)と言って、リーフさんとアースィファさんに怒られそう……。
提案するのやめよっと!
とりあえず、今は塩唐揚げに近い物を作ろうか。
料理人さん達にちょっと待ってもらい、皆にはどこまで美味しくなるかわからないけれど試しに作ってみたいと説明する。
作り方は以下の通り。
フォークで穴をあける、若しくはナイフを刺して穴をあける。
50度くらいのお湯に数分漬ける。
表面の水気を取ってから、お肉を食べやすい大きさに切る。
擦った大蒜、生姜をたっぷりめ、塩、あれば胡椒を揉み込んでしばらく漬ける
片栗粉は無さそうなので諦めて、今回は小麦粉のみで作ります。
料理人さん達にはこの地方で揃えられない調味料なので同じものは作れないことを説明。そして下拵えを実演してみせた。
「このあと油で揚げます」
「はい」
この地方に揚げるという調理法はあるみたい。
ただし油をふんだんに使うのは金額的に高くなるらしく、揚げ物は祝い事などの時のみなんだって。
お祝い事だから戴冠式に揚げ物を出すことは決まっていたんだけれど、何の料理にしようと話し合っていたら、あちらこちらから唐揚げの要望が多く寄せられたんだって。
うーん。戴冠式に振る舞うほど大量の唐揚げを揚げるには、油も沢山必要となってしまうよね。金銭的な問題があるなら、やっぱり揚げ焼きの方が良いのかな?って思う。
「満遍なく小麦粉をまぶします。衣をつけるのは揚げる前にしてください」
ハルパが揚げ物用のフライパンに、お肉が半分隠れるくらいの油を入れて温める。
お肉を投入し、表面が白っぽく固まってきたら裏返す。
2、3回繰り返し、キツネ色になるまで揚げる。
まあこんなもんかな。
出来上がった塩唐揚げを鳳蝶丸に小さく切ってもらい、いざ味見!
うんっ、これはこれで美味しい!
先ほどあったお肉の臭みは大分取れたし、お湯につけたから身の柔らかさとジューシーさが増している。私達の唐揚げとはちょっと違うけれど、でもかなり美味しくなったと思うよ。
「確かに臭みが抜けています」
「肉のパサつきもなく、肉汁もたっぷりです」
「皆様がご提供くださる唐揚げとは違いますが、満足できる仕上がりだと思います」
今後この調理法を使用して良いかと聞かれ、もちろんと許可する。
いつもの作り方を教えてあげられなくてごめんねと告げると、調味料が手に入らないのだしこちらの方法だけでもありがたいと喜んでくれました。
良かった!
「こちらの揚げ焼きは、テントにも振る舞いますね」
「テント?」
料理人さん達の話を聞いて王都がスカスカだった理由がわかった。
戴冠式に国民も参加できるよう、お城近くの土地に国がテントを用意したらしい。希望者は申請書を出し、滞在許可が下りた者はそのテントに寝泊まりしているんだって。
文字が書けない人は、お城の文官さんが代筆してくれるとのこと。
「滞在中は食事を提供されますし、戴冠式の後は少し豪華な食事が振る舞われるんですよ」
「ふとっぱや!」
ふおぉー、太っ腹!
でも国民の皆さんにまで食事を振る舞うとなると、この人数では大変なんじゃない?今10人くらいしかいないよね?
「ご心配ありがとうございます。今いるのは料理人の中でも特に腕のある者達だけで、働いているのは他にも沢山いるのですよ」
「しょうなの」
お城の関係者、国賓、要人、貴族。そして滞在許可が下りた国民達の食事を作らなきゃならないもんね。大忙しだね。お疲れ様です。
「いえいえ。以前よりずっと働きやすくなったんですよ」
新しい雇用形態になって給金もしっかりもらえているし、無理難題は言われない。何より新国王陛下はすでに我らにもお気遣いくださっているのですよと、素敵な笑顔を浮かべた料理人さん達。
国が新しく変わろうとしているもんね。
サハラタル王国皆さんの喜びが伝わってきて、何だか私も嬉しいよ。
よしっ!
料理人さん達が疲れちゃったとか、今までの唐揚げがどうしても食べたいという場合はお手紙をください。次回から販売になるけれど大量注文だったらおまけするよ!と後ほどラエドさん達にお話しておこうっと。
翌日は戴冠式の打ち合わせとリハーサル。
私達はラエドさんが国王となったあと、魔石剣の授与をすることになったので軽く参加した。
ダガー型魔石剣の授与は別日に執り行うらしいので、私達は人数分の魔石剣を置いたらお家に帰る予定です。
リハーサルが終わり。夕食の時に戦の様子などを聞いた。
結界に何度も助けられ、魔石剣を持たない兵士達もポーションで助かったとのこと。
良かったねえ……。
アースィファさんが何となくフラグを立てていたような気がしたので、怪我は無かった?と心配したら、結界の発動もないほど快適に戦っていたので問題なかった言われる。
「心配してくれてありがとう。あたしはそれなりに強いから大丈夫。それより、ヤツを思いっきりブン殴っ…………頬を叩いてスッキリしたわ!」
わあ!アースィファさんカッコいい!
宣言通り、アレしたんですね?
「まあ、危なかったと言えばサラーブ兄上ね」
おおう!フラグ回収はサラーブさんだった。
敵兵と戦っている時魔獣まで出現し、味方兵を庇ったらしい。
「そこで魔石剣の結界が作動したんです!衝撃はありましたが全く痛みなく怪我もないですし驚きました!ガジガジ齧られながらトドメを刺してやりましたよ。あれは凄い!結界体験できて本当に良かった。滅茶苦茶楽しかったですよ。ありがとうございます、師匠!」
うん。
いつものサラーブさんだ。
「それから事あるごとに突っ込んでいってハラハラしました」
リーフさんが苦笑する。
「兄上が自身で魔力充填しながら[ラサーサの一撃]みたいに突っ込んで行く姿、皆引いていたわ」
「超笑顔で突っ込んでましたからね」
[ラサーサの一撃]とは、ラサーサと言う小鳥型魔獣が羽を閉じ、凄いスピードで突っ込んでくる姿のことを言うんだって。
サラーブさんって魔法関連のことになるとサイコパ……ゲフンゲフン。
………研究熱心になるよね。
そんなサラーブさんの活躍もあり、以降はスムーズにことが進み、聖杯の隠し場所にたどり着いたらしい。
「やはりと言うか、追い詰められた公爵達が聖杯を叩き割ろうとしてな」
ラエドさんがクックックと笑う。
「ゆき殿に結界を張ったと聞いていたので、リーフとアースィファとサラーブで容赦なく突っ込んだら、最後のあがきか聖杯を床に叩きつけたんだ」
「割れず傷付かずで驚愕したアレらの顔がとても面白かったですよ」
「刑に服すため生かしたまま捕らえたのだが、その時にアースィファがな」
グッと拳を握り、素早く突き出すラエドさん。
うんうん。
アースィファお姉さんが成敗したんですね?
「聖杯は無事取り戻し、問題ある貴族達は捕らえた。全てゆき殿と皆様のおかげです。深謝いたします」
「なにも、ちてない」
「そんなことはない。沢山ご提供いただいた品々。皆の士気も高まり無事国を奪還できた」
「国を立て直すのはこれからです」
「ああ、ハルパ殿。肝に銘じ、精進します」
我らも父も兄を支えていく所存ですと、リーフさん達が強く頷いた。
私に話をしているよりもずっと、苦労や怒り、辛さが連続する日々だったろうと思う。
でもそれを乗り越えて頑張ったんだろう。
兎にも角にも国を取り戻せて良かったね。お疲れさまでした!




