259. 眷属(きみ)の名は………
【虹の翼】のお姉さん達から、私達と一緒なら楽しそうだしぜひ行ってみたいと返答があった。
でも今の依頼があと2週間くらいかかるのでその後で良ければ、とのこと。
ミールナイトに帰って来て、休んで、支度して……ならやっぱり3週間後が良いのかな?
フィガロギルマスに依頼を出すよう伝えること、3週間後に出発を予定していること、それから支度ができたら連絡をくださいとお手紙を入れておいた。
お姉さん達との旅行、楽しみね♪
あとはフィガロギルマスに連絡を、と。
もう色々面倒くさいので(ごめんなさい)、フィガロギルマスにもダガー君……いや、もっと面倒くさくなりそうなので、以前【虹の翼】のお姉さん達が持っていたポーチを改造して貸し出そう。
これって一度解除できる?
『ウル様、こんにちは』
『教えていただきたいことがあります』
『うむうむ(スタンプ)』
『なにかの?』
『マジックバッグの収納庫管理を』
『解除することはできますか?』
『マジックバッグを普通の袋に戻したいのじゃな』
『はい』
『空間操作で容量を戻すことはできますが』
『収納庫管理はどうしたら良いでしょう?』
『うーむ』
『マジックバッグを解除するなど』
『考えたことがなかったのう』
『ちと待っておれ』
最近貸し出しとは言えバンバン作っているから感覚が鈍っているけれど、確かに希少なものを無くしたいって考える人はいないよね。
何か、本当にごめんなさい。
『今夜中にあっぷでーとすることになったぞ』
『楽しみにしておれ』
『ありがとうございます』
『お手数をおかけして申し訳ありません』
『よいよい(スタンプ)』
『もちろん出来ぬこともあるから』
『そこは了承しておくれ』
『はい!ありがとうございます』
『なにか思いついた時は』
『確認の連絡を入れるのじゃ』
『暇を持て余しているでな』
『待ってるぞ!』
『ではの☆』
『感謝いたします』
暇を持て余してるって、ウル様………。
翌日の朝、[収納庫管理]のアイコンがチカチカ光っていたのでタップしてみる。
■作成する / ■解除する
以前はタップすると■表示方法はどうしますか?という画面が表示されていたけれど、その前に選択画面が表示されるようになっていた。
■解除するをタップすると<しばらくお待ちください>と表示される。
そして、3分ほどしてから<収納庫管理>アイコンの上に<完了>という文字が浮かんで消え、その横フレームに小さなCDが追加された。
自分の無限収納から小さいCDを取り出してお姉さん達が使っていたポーチに近づけると、スゥッと吸い込まれて消える。
すると、ポーチの上に「10」と表示され、9…8…とカウントダウンが始まった。
「わあ、ももちよいっ」
わあ、面白いっ。じーっと見ちゃう。
3…2…1……。
ファンファンファンファンファワワワ~ン♪
☆ただのバッグ戻ったヨ☆
一瞬ピカッと光り、ゲームオーバーみたいな曲とともに文字が浮かび上がる。
ポーチを2回叩いてみたけれど何も起こらないので解除成功かな。
「戻しぇゆ、ねえ」
これで元に戻せるね。
空間操作で広くした容量を普通に戻し、大きさ通りのポーチとなった。
そのポーチと手元にある皮を合わせ、小さくて薄いベルトポーチを作る。
次は空間操作で8畳部屋ほどの容量に広げた。
そして再び[収納庫管理]!
いつものようにサクサク選択していき、出来上がったCDをベルトポーチに近付け吸い込ませる。
すると、またしてもカウントダウンが始まった。
3…2…1……。
トゥルルル♪パパパパン♪パンパンパ~ン♪
☆管理できるようになったヨ やったね!☆
レベルアップの時みたいな音楽が流れ、いつも通りのマジックバッグ(マジカルラブリン無しバージョン)が出来上がった。
「こえ、ヒナヨ、ギルマス、渡しゅ」
「商業ギルド長に渡すのですね?」
「あい」
【虹の翼】のお姉さん達が参加してくれるので、冒険者ギルドに指名依頼を出すようフィガロギルマスに伝えたいということと、やりとりが面倒く……便利なのでマジックバッグを貸し出したいと皆に説明する。
「わかりました。では私が渡してまいります」
「俺も行く」
もろもろの説明とマジックバッグの説明をしてくれるとのことだったので、ハルパとミルニルにお使いをお願いする。これでいちいちギルドまで行かなくても連絡がとれるね!
それにしても、3週間近く何していようかなあ。
どこか近場に行く?
マカマカ部屋でのんびりしていたら、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「あい、どうじょ」
入ってきたのは氷華。少し緊張した表情を浮かべている。
「ひょーた、どちたの?」
「ああ……。あのな、とにかく抱っこさせてくれ!」
え?抱っこ?氷華の抱っこ、嬉しいな!
「あいっ!」
両手を広げると、ヒョイッと抱き上げられる。
「わーい♪」
「怖くないか?痛くないか?」
「ううん。こわないよ。痛ないよ」
「そうか……」
ホッとした顔をする氷華。
「これからは、抱っこしてや……させてくれ」
「うんっ」
そのまま皆のいるリビングに行った。
皆がオッと言う顔をして笑顔を浮かべる。
「ひょーた、だっと、うえちいっ」
氷華の抱っこ、嬉しいよっ。
「良かったな、お嬢」
「うん!」
氷華は真っ赤な顔でうーっと唸った。
「そ、そうだ。聞いたんだが、皆の眷属に名前つけたんだって?」
「あいっ」
「なら、俺の眷属にも名付けて良……ん、んん。名付けて欲しい」
おや?ツンデレ終了?
もちろんいいよ!
シュルリ
途端に現れる氷華の眷属ちゃん。
真っ白でお目々が澄んだ黒玉で、とっても可愛らしい。
「御使い様。お久しぶりにございます」
でも見た目のイメージと違って落ち着いた大人の男性の声色なんだよね。
「とんにちは。あやためて、なたまになて、あにあとう」
こんにちは。
改めまして、仲間になってくれてありがとう!
「こちらこそ、ありがとうございます。名前をつけてくださるとお聞きしました。どうぞよろしくお願いいたします」
「あいっ」
すると他の眷属ちゃん達も姿を現す。
「命名式って聞いたわよ。良かったわねっ」
フルフルフルフル
「これで全眷属が揃いますな」
パチパチパチパチパチ
「良かったでちゅう!」
エメル、イバヤ、スザク、ピヨコ、テイルが皆で氷華の眷属ちゃんを囲んでいる。
やはり仲間が揃うのは嬉しいよね。
ではでは。
見た目はオコジョっぽくて、動きは管狐っぽい。
氷雪の精霊って聞いているし………。
あっ!
六花なんてどう?
雪の異称。雪の結晶を表した名前。
リッカ。うん、いいかも!
「ちめた!イッタ!」
「イッタ?あ、リッカか」
氷華が嬉しそうに笑う。
私の頭上の通訳ちゃんはちゃんとリッカにしてくれたのね。
「ゆち、てっしょう、のたってい」
「雪の結晶が六角形で、姫さんの国で六の花と書くんだな?」
「あいあい!」
「リッカ……美しい名です。とても気に入りました。ありがとうございます」
眷属ちゃん、喜んでくれたみたい。
良かった!
「リッカと名をいただき皆さんの仲間入りを果たせました。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願い申し上げます」
「ええ、よろしくネ☆」
スザクやエメル、他の皆も力強く頷いた。
リッカは眷属達の輪に入って嬉しそうにしている。
よしよし。ではお近付きの印ということで、ご飯を食べよう!
「イッタ、何、食べゆ?」
「食べる?」
「主様の魔力、とっても美味しいのよ」
エメルには美味しいお水。イバヤちゃんには肥料。
スザクには麻婆豆腐、ピヨコちゃん達には金平糖。
テイルにはレバニラ炒め。
リッカはなにがお好みですか?
「では遠慮なく。冷たい料理が食べたいです」
冷たい料理。
スイーツならアイスとかこの間作った結晶ガジガジ君とかあるけれど、料理………おかずじゃなくてメインになりそうなものが良いよね?
冷やし中華、素麺、お蕎麦、冷製パスタ、冷やしジャージャー麺、冷たいうどんくらいしか思い浮かばないなあ。
うん。じゃあ、我が家で作っていた冷やし中華を再構成しよう。
「冷やし、中たよ」
他の眷属ちゃんのお水や金平糖他も用意。もちろん鳳蝶丸達にも冷やし中華を用意した。
「皆も、食べゆ、しゅゆ」
テーブルに出すと、いただきまーす!と言いながら皆が嬉しそうに食べ始める。私は鳳蝶丸の分を小さなお椀に分けてもらった。
「鳳蝶まゆ、おたわい、ちてね」
私に分けてくれたけれど、足りなかったらおかわりしてね。
「ああ。お嬢のメシは美味い。沢山食べるから心配すんな」
そして冷やし中華を少しずつ口に入れてくれた。
「しゃっぱい、おいちいっ」
「程よい酸味がサッパリしていて、なかなか美味いな」
皆もウンウンと頷きながら頬張っている。
「キュウリの食感も良いですね」
「これ、ハムとチャーシュー?美味しいね」
ミスティルが何故か妖艶にキュウリを食べている。
ミルニルは嬉しそうにチャーシューを口にしていた。
我が家は父の希望で肉多めだったの。
細長く切ったハムとチャーシュー入りだよ。もちろん紅生姜とカラシはタップリね!
「ちと足りんな」
冷やし中華を何杯か食べた鳳蝶丸が、マジックバッグから麻婆豆腐とレバニラ炒めとご飯を取り出す。
「おっいいね」
「それもいただきましょう」
「俺も」
「わたしもそうします」
レーヴァ、ハルパ、ミルニル、ミスティルがそれぞれのマジックバッグから同じセットを出す。
「それまだ食ってないな。俺もそれにしよう」
氷華も麻婆豆腐、レバニラ炒め、ご飯を出して食べだした。
「ウッ!かっらっ!」
氷華は辛すぎるのが苦手なようなので、ミスティル達と同じマイルドな麻婆豆腐に変更したよ。
冷やし中華、麻婆豆腐、レバニラ炒め、ご飯をモリモリ食べる我が家の皆。
眷属ちゃん達は、それぞれが気に入っている物を食べている。
「イッタ、しょえ、だいじょぶ?」
リッカは冷やし中華で大丈夫?
「はい。とても美味しいです。少し酸味のあるサッパリとしたソースが気に入りました」
「よたった!」
気に入ってくれて良かった。
「この赤いのは何ですか?」
「べに、しょうだ、言うの」
「べにしょーだ?」
あ、そうか。
眷属ちゃん達は通訳文字が見えないんだね。
「これは紅生姜という。簡単に言うと生姜を梅酢に漬けたものだ」
「ありがとう存じます、鳳蝶丸様。私はこの紅生姜がとても気に入りました」
そうなの?
焼きそばにも合うし、お好み焼きにもたこ焼きにも、それからちらし寿司にも合うんだよ!
ちらし寿司なら熱くないし、今度食べてみる?
一生懸命説明したら、楽しみにしております、とリッカが嬉しそうに笑った(たぶん)。




