244. 人ダメソファに沈む人々
「ゆき殿じゃないか」
そろそろテントに移動しようかと話をしていると、私を呼ぶ声が聞こえた。
ん?あ、アンゲリカさん!
そっか。ここは【堅き門】の拠点に近いもんね?
「おはよ、ごじゃいましゅ」
「ああ、おはよう」
するとそこに、ティア・ソニアンさんとニイナさんもやってくる。
「みつふぁいふあふあ」
「おい、ティアッ」
ニイナさんが、ティア・ソニアンさんの口を慌てて塞ぐ。
今、御使い様って言ったでしょう?
「シーよ」
「も、申し訳ありません」
人差し指を口に当てシーッのポーズをする私を見て、首をすくめ縮こまるティア・ソニアンさん。
大きな声で言っちゃダメだよっ。
「ゆきちゃんの知り合い?」
リンダお姉さんがアンゲリカさん達に体を向ける。
「あい。たいたんちち、会った」
戴冠式の時に会ったんだよ。
「へえ。あの時に?」
「うん。とちや、【虹の、ちゅばしゃ】しゃん。とちや、【たたち、もん】しゃん」
紹介しなくちゃ!
こちらは【虹の翼】さん。こちらは【堅き門】さんです。
「お初にお目にかかる。【虹の翼】リーダー、ローザリアと言う」
「……ン、ンン、お初にお目にかかる。俺は【堅き門】リーダー、アンゲリカ。お会いできて光栄だ」
どちらも私達の正体を知っているよ。と告げると、ローザお姉さんとアンゲリカさんが笑顔で握手した。
これから私達のテントに移動するんだけれど、もし良かったら【堅き門】の3人も来る?と聞いてみる。
「いいのか?」
「うん、いいよ!」
3人は冒険者ギルドへ依頼を見に来たところだったんだって。
でも今日は中止にして、一緒に来てくれるとのこと。
仕事の邪魔してごめんね?と告げたら、予定を変えられるのが冒険者の良い所だと笑った。
「それに多少の余裕が出来たしな」
パッチンとウインクをするアンゲリカさん。
大きい体躯の爽やかイケメン、アンゲリカさんからウインクいただきました!
以前は怪我をした子供達のポーションを買うために無理して仕事をとっていた。
でも今は全員完治したので少し余裕が出来たんだって。
良かったね!
「さて。旦那らが良いんなら移動しよう」
「更に目立っちゃっているしね」
そう。【堅き門】はランクBのパーティーで、アンゲリカさん、ティア・ソニアンさん自身はランクS。ニイナさんはランクA。
上位冒険者の彼等もまた王都の北門では有名なのだ。
「そうだね。ゆきちゃんのテントは野営地にあるの?」
「あい」
私達とローズお姉さん達が立ち上がり、野営地に向かおうとする。
何人かの冒険者も立ち上がって私達の後を追おうとしたけれど、アンゲリカさんがひと睨みして止めてくれた。
我が家の皆?
安定のスルーですよ?
カモフラテントは結界張ってあるから許可した人以外入れないし、触れも出来ないし、中からの音も聞こえないしね?
冒険者ギルド裏手の野営地にある、私達のカモフラージュテントに到着。
「えっ、この人数がここに入るのか?」
ニイナさんが首を傾げている。
「ちょとまてて」
【堅き門】の皆には転移の門戸を見せられないので、ここで少し待っていてもらう。
ミスティルと私だけテントに入り、開けたままの転移の門戸でミールナイトに戻って戸を閉じる。2ルームテントをミスティルのマジックバッグに仕舞い、転移の門戸でカモフラテントに戻った。
「こえ、ちまってえ。こえだしゅ」
ミスティルがカモフラテントを仕舞って2ルームテントを出すと、鳳蝶丸達がペグ打ち。新たに結界1を張ったら完成です。
「………」
ニイナさんはあんぐりと口を開けて固まり、その他の皆さんはウンウンと頷いている。
「神…いえ、魔力の動きを見ました。感激です」
「ああ、俺にも感じられた。何をやったかまではわからんが、物凄い力の動きだ」
感じたのは、転移の門戸じゃないかな。
【虹の翼】のお姉さん達は知っているから良いんだけれど、【堅き門】のお兄さん達にはまだ内緒にしておきたいんだ。ごめんね。
「テント、どうじょ」
「お嬢のテントに招待する。ここから入ってくれ」
「ゆきちゃん、お邪魔するね」
「久しぶり!お邪魔しまーす」
ローザ、レーネお姉さんが素早く中に入る。
他のお姉さん達もそれに続いた。
「だっ!」
「どっ!」
「!!!」
アンゲリカさん、ニイナさん、ティア・ソニアンさんは入り口でカチンと固まっている。
「驚くよね?わかる。あたしもそうだった」
「靴を脱いで、こちらの棚に置きますのよ」
「アレの問題は解消してるから」
リンダ、エクレール、ミムミムお姉さんが入り方を指南すると、【堅き門】の3人がぎこちなくテントに足を踏み入れた。
「空間操作か?これほど広いのは初めて見た」
「うがっ!言葉にならねえ!」
「ゆき様の魔力に包まれて幸せです」
うーん、ティア・ソニアンさんって、初めて会った時とは別人だよねえ。
「ごあん、食べた?」
皆は朝食済んでる?
「いや、まだ食べていない」
「私達もまだだよ」
アンゲリカさん達も、ローザお姉さん達もまだなのね?
じゃあ、すでに清浄で綺麗になっているけれど、習慣づけるためにまず手を洗ってもらいまあす。
うがいもね?
皆さんをお客様寝泊まり用の部屋に案内する。
「ここで手を洗ってくれ。手拭きはこのタオルを使うといい」
「客間まであんのか」
ニイナさん達がキョロキョロ見回している。
「とにかく、手を洗ってくれ」
「あ、スマン。凄すぎてついつい見回してしまった」
やっと手洗いうがいを始めるアンゲリカさん達。
時間がかかりそうだったので、お姉さん達にはもう1つの部屋で手洗いしてもらいました。
「朝、ごあん、食べゆ」
ではでは、寛ぎの間に戻って朝食にするよ。
今日は私がどうしても食べたかったやつ!
焼きたて、作りたてのホットドッグやクロックムッシュを再構築。どれも日本で大好きだったお店のもの。
それから細かく切り目のついた厚切りバタートーストは以前作った物を複製した。
食べたかったのはホットドッグ。絶品なの!
小麦を感じるフランスパン系のパン。シャッキシャキなレタス、香ばしくて塩加減も丁度よいパリップリな大ぶりソーセージ、自家製ケチャップと粒マスタード。
頬張ると"美味しい"の幸せに襲われるホットドッグがどうしても食べたかったんだ!
トースト用のジャムは以前作ったイチゴとオレンジ。メープルシロップと蜂蜜も出しておくね。
珈琲(冷・暖)、紅茶(冷・暖)も用意。砂糖、珈琲フレッシュ、ミルク。全てご自由にどうぞ。
「どうじょ、めちあだえっ」
「どうぞ、召し上がれ、だそうだよ。好きなだけ食べるといいよ」
お姉さん達が気になる物を選び始める。
「ああぁ、美味しい朝食、久しぶり。いっただっきまあす」
「幸せの食事、いただきますわ」
「ゆきちゃん、いつもありがとうね。いただきます」
「師匠、いただきます」
「コレコレ!ゆきちゃんありがとう。いただきまーす」
勝手知ったるリンダ、エクレール、ローザ、ミムミム、レーネお姉さん達が、好きな物を食べ始めた。
「お兄しゃん、どうじょ」
「悪いな。では遠慮なく」
皆、飲み物や食べ物を自分で選んで食べだす。
「んー!んまいっ。マジで美味い」
「この肉のプリッとした歯ごたえ。本当に美味しいです」
「こんなに美味いジャムを食べたのは初めてだ」
ニイナさん、ティア・ソニアンさん、アンゲリカさんが頬張って食べだした。
「さっきは話し中邪魔してすまん」
「だいじょぶ」
「立冬祭のことで話していたんだよ」
私の代わりにローザお姉さんが説明した。
「もうそんな時季か……」
王都も立冬祭があって、とても賑やかなんだって。
【堅き門】は毎年屋台を出しているらしい。
「今年も申し込む、とか言っていたな」
「しょうなの」
「ゆきちゃん達はミールナイトで屋台を出すんだよ。アタシ達が手伝うとして、他は冒険者ギル………」
「馳せ参じます」
「ん?」
「私とティティがお手伝いに伺います」
ティア・ソニアンさんがめっちゃ笑顔で立候補した。
アンゲリカさんとニイナさんも手伝おうか?と言っている。
「でも、王都の、てちゅだい?」
「ミールナイトの立冬祭は王都の祭が終わってからだから問題ない」
「ミールナイトの立冬祭が終わったら、死の森に潜っても良いしな」
「私はゆき様のお役に立ちたいです」
ティア・ソニアンさん、ありがとう。
【堅き門】の皆は、子供達の怪我が治り、気持ちにも資金を集める時間にも多少の余裕が出来たと改めて報告してくれた。
そして現国王や良心的な貴族達、教会関係者は、困窮している者達への炊き出しと、[天罰]で手薄になった教会には新たな神父やシスターを派遣するなど、速やかに手配を行ったらしい。
そのおかげで【堅き門】の拠点にいた孤児やシスター達は、すでに元いた教会に戻っているんだって。
「しばらくの間留守にしても問題ないと思う。ミールナイトの立冬祭後、ダンジョンに潜っても良いだろ?リーダー」
「そうだな。他の奴らもいるし留守にしても問題ないだろう。………だが屋台に関しては問題がある」
「問題?ってあったか?」
「ティアはともかく、俺達は不器用、と言う問題がな……」
「ああ、それな」
ええええぇ……。
それはちょっと困るなあ。
「何人か連れて行くか」
ニイナさんが思案顔で呟く。
【堅き門】のメンバーで売り子経験のある者、それから調理を得意とする者を何人か連れ行けば良いと言う。
「立冬祭が終わったら、若いのに死の森ダンジョンの経験をさせてもいいかもな」
「ああ」
それを聞いていたローザお姉さんが、少しだけ、とアドバイスをする。
「君達は死の森に潜ったことある?」
「だいぶ昔にな」
「以前とは色々仕様が変わっている。潜る前に情報収集してからを強くオススメする」
「仕様が変わった?」
「セーフティエリアに見せかけた、魔獣が出現するただの広場ができたりね」
「えっ!そうなのか?スタンピードから?」
「ああ、まあ、うん」
そして【虹の翼】のお姉さん達が苦笑しながら私を見る。
うん。セーフティエリアを作らせた時、本体が色々追加してたねえ。
「魔獣の出現エリアも変わった。等級が低めの魔獣相手にどんどん進み、気が付くと奥だったなんてこともある」
「なるほど。以前と変更があるなら、潜る前は詳しい情報を仕入れた方がいいな」
「仲間に無茶はさせられねえ」
「肝に銘じます」
アンゲリカさんが今聞いた情報を羊皮紙に書き込んでいた。
「で、旦那達はお嬢の屋台を手伝えるのか?」
「別に死の森に行ってもいいけど、手伝えないなら姫の屋台をどうするか考えなくちゃいけないからね」
「すっすまん!もちろん最後まで手伝う」
「私は死の森には行かず、ずっとおそばにおります」
ティア・ソニアンさんの愛が重い……。
立冬祭が終わったら、【堅き門】の皆様とダンジョンに行ってくださいませ。
調理経験や売り子経験のある子は中の仕事。
アンゲリカさんやニイナさんは会場整備や見回り、護衛にあたるとのこと。
では、正式にお願いするけど良い?と確認すると、もちろんだと快諾してくれた。
「でもさ。屋台を手伝うなら、早くしないと宿屋がとれないと思うよ」
レーネお姉さんが宿泊場所の心配をする。
「参加人数が多いなら尚更。今から考えたほうが良いんじゃない?」
「確かにそうだ。早急に人数を決めて予約せんといかんな」
うーん。
でも手伝ってもらうのに宿代を出させるのもねえ。
「おてちゅだい、何人?泊まゆ、用意、しゅゆ」
お手伝いを何人にするか話し合って、私に教えて欲しいなあ。
「泊まる場所を用意してもらえるのか?」
「あい。テント、泊まゆ、しゅゆ」
寝泊まりできるお着替えブースは現在4人部屋。
それをもっと広げて6人とか8人、沢山来るなら10人部屋にすればいいよね?
立冬祭が終わって少しの間滞在するなら、冒険者ギルド・死の森支部の野営地を借りて、テントに滞在すればいいんじゃないかな?
「旦那らの泊まる場所を、お嬢が用意するそうだ」
「ダンジョンに行く間も貸し出しするそうだよ」
「快適」
鳳蝶丸、レーヴァ、ミルニル。通訳ありがとう。
「い、いいのか?」
「うん、いいよ」
お給金を払うから、料理が得意な子も連れてきてね!
「人数が決まったら連絡するが、どうしたら良い?しばらくここで野営しているか?」
「ううん」
お姉さん達に会うためと、シュレおじいちゃんにお土産を渡すために王都に来ただけだから、明日には帰っちゃうよ。
どうやって連絡を取ろうか?
お姉さん達みたいなポーチを渡す?でもアンゲリカさんがあの大人可愛いポーチを持つって、ちょっと…。
あ、ダガー君を貸し出しすればいいんだ!
いや、ダガー君は宝石だらけだった…。いくら手元に戻るとはいえ危険だよね?
「どうしたの?主さん」
無意識にミルニルを見つめていた私。
部屋の端っこに連れて行ってもらって、ダガー君の宝石無しバージョンが欲しいとお願いしてみる。
「うん、いいよ。1時間くらいあれば作れると思う」
「おねだい、しましゅ」
「了解」
ミルニルが自分の作業部屋に向かったので、私は皆にゆっくりしてもらおう。
お姉さん達とアンゲリカさん達に、1、2時間ほど時間をもらいたいけれど良い?と聞くと、特に問題ないと言うことだった。
「こえ、どうじょ」
身体が大きな人でもゆったり横になれる人ダメソファを無限収納内で再構築する。そして複写と再構成で色違いを沢山作り、寛ぎの間に出した。
「変な形のベッドだな?」
「うおっ!何だ?へ、へんな手触りだ」
「素晴らしいです」
ニイナさん、アンゲリカさん、ティア・ソニアンが指で押したりしている。
「これってゆきちゃんが死の森で使っていたベッドだよね?」
「前から興味あったんだ!」
「このような手触りですのね?」
ローザお姉さん、レーネお姉さん、エクレールお姉さんも手触りを確かめていた。
「寝ゆ」
「こうかし…ら……ああっ」
エクレールお姉さんが人ダメソファに沈みながらちょっと色っぽい声でため息をついた。
「面白い」
「睡魔に襲われそう」
ミムミムお姉さん、リンダお姉さんが後に続いた。
「すやあ…」
「身体に力が入らなくなる…」
レーネお姉さんはもう寝ちゃってるし、ローザお姉さんもトロンとした瞳をしている。
さあ。
ここで大白雪鵞鳥の羽毛布団ですよ。
ハルパとレーヴァにお願いして、お姉さん達に羽毛布団をかけてもらった。
「みんにゃ、よとになゆ」
「君達も横になってと主殿が言っていますよ」
「わ、わかった」
緊張の面持ちで人ダメソファに身を預ける3人。
羽根布団をかけるとあら不思議!
ンガア、ンゴウ!
アンゲリカさんとニイナさんに音が漏れ防止の結界を張りましょうね?
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執筆意欲が湧いてきます。とても嬉しいです♪
誤字報告もありがとうございました。
お待たせいたしました。まだ追い付いていませんがお直し頑張ります!




