242. 不思議な物体を作る幼女とファンタジーな世界
<魔力をいただき我らの力となりました>
<余った分は他の精霊達に分けてもよろしいでしょうか?>
疲弊していたところに私から魔力を分けてもらい、力が戻ったと言う。
もちろん分けても良いよ。
それよりキングの魔石よりもっと大きなものを作って、精霊達の力になりたいな。そうだ!ここにアレを作ろう。
キングの魔石をいっぱいつなぎ合わせてから1枚の板にする。
魔石に魔力をフル充填する。
結界4(立体)で地中深くまで囲って転倒防止する。
結界4を通り魔石に触れられるのは精霊のみ。この世界にとって悪影響を及ぼす精霊は触れられない。
いかなる物理・魔法攻撃も結界内に通さないとした。
魔石は透明だから、この雪の世界でも違和感ないよね?
見よ、わたちの力作!
ジャーーーンジャーーーンジャーーーーーン、ジャジャーーーン♪
デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン♪
某宇宙の旅的な謎のモノリス!
ドヤア…。
精霊達がポカンとモノリスを見ている。
「主殿は君達に力を貸すそうです」
「氷竜を押さえられる精霊達と力を失い消えかかっている精霊達は、この魔石から魔力を取り込んでくれ」
ハッと我に返った精霊達が膝をつく。
<御心に深謝いたします>
<救われる精霊達も多いことでしょう>
「ひとい、ほたの、しぇいえいしゃん、ちやしぇゆ。ひとい、おしぇんちた、いじゅみ、行く」
「1人は他の精霊達にこのことを知らせ、1人は汚染された泉に案内して欲しいと姫さんが言っている」
<承知いたしました>
女性型の精霊さんは他の精霊さん達を呼びに行き、男性型の精霊さんが汚染された泉まで案内してくれると言うことになった。
泉を綺麗にしてお水を飲めるようにするよ!
「氷竜達にダメージを与える毒。火竜果かい?」
<……はい。そうです>
火竜果?
火竜果ってドラゴンフルーツだったよね。健康食品となるくらい栄養素が豊富な果物じゃなかったっけ?
薄めの優しいお味だったと思うけれど、毒になるの?
「この世界の火竜果は食べると体が熱くなるんだ」
レーヴァ曰くこちらの世界の火竜果も薄く優しいお味。
でも飲み込んでしばらくすると、体中が熱くなる果物らしい。
人の子達には害がなく栄養価の高い果物。でも氷系の魔獣や精霊には毒となる果物なんだって。
若い氷竜達がその果汁を泉に垂らしたため泉の精霊達が消滅してしまい、更にその水を飲んだ長一族が瀕死状態に陥ったとのこと。
今まで後継者となるものは正々堂々と戦っていたので油断したのかな?
いや、知力とか関係なく、そんな卑怯な手は使わないと仲間を信じていたのかもしれない。
でも、そんな氷竜が長となったとして、能力も無いのに他の皆を束ねられるの?
うーん。
人の世界では、毒を盛って暗殺なんて聞いたことがあるけれど…もしかしたらそれに感化されたのかも。
もしそうなら隷属うんぬんと言いながら人のマネしてどうするのよ、ってちょっと思う。
氷の洞窟はこのまま先に進むと外に出られるとのことだったので飛行で進み、やがて氷の割れ目から外に出ることが出来た。
ここは星凍りの谷付近の山で、天辺がすり鉢状になっている場所だった。
すり鉢の底は凍り付いており、その中に先ほどの氷の洞窟がある。
「ここに姫の魔力の塊を感じると破壊に来るかもしれないね」
「あい。わたた」
モノリス自体に結界が張っているけれど美しい景色を壊されるのはいやなので、もう山全体に結界を張っちゃおう。そうしよう。
私は洞窟のある山全体に結界3を張る。そしていかなる物理・魔法攻撃も通さない。山を破壊する者は入れないを設定した。
うん。これで大丈夫。
もしも精霊達が攻撃されたら、この山の洞窟に逃げ込んでね?
<御心に感謝いたします。後ほど皆に知らせます>
「あい」
では汚染された泉に向かおう。
場所は連なる山向こうの深い森。今現在長一族は山の中腹におり、精霊さん達が結界を張って若い氷竜からの攻撃から守っているとのこと。
案内している精霊さんは汚染された泉に近付けないということなので、上空からその場所を教えてもらう。
「終わたら、おしゃしゃん、会う。待てて」
「終わったら長に会うそうです。そこで待っていてください」
<承知しました>
あとで合流する約束の後、シュッと消える精霊さん。
私達はそのまま一番大きな泉に向かった。
降り立ってみたものの、ただの綺麗な泉だった。
でも、火竜果の果汁でこの泉の精霊さん達は消滅してしまったのだ。
せっかく生まれたのにこんなことになるなんて。消滅した精霊さん達を癒せるかはわからないけれど、元のお水に戻そうと思う。
まずは鑑定ちゃんでお水を確認する。
鑑定ちゃんは飲める水と表示していた。ミルニルにお願いしてコップに少しお水を汲んでもらう。
「味、無い。おみじゅ」
「俺達にはね」
肩をすくめるレーヴァ。
鑑定ちゃんに[もっと詳しく]したら、火竜果の果汁が入っていると表示された。
「果汁、なちゅなやない?」
果汁は水に溶けて無くならないの?
「果汁が薄まらないように、今も入れ続けているのかもしれない」
「しょったあ。清浄ちて、いえやえない、しゅゆね」
清浄した後、もう入れられないようにするね。
火竜果の果汁が無くなりますように。
泉の水が綺麗になりますように。
美味しい水になりますように。
泉の精霊さん達が戻ってきますように。
清浄!
いつもより力を込めたからか、泉がキラキラと光り輝いていた。
「これまた派手にやったな」
「癒しの水に変化していますよ」
鳳蝶丸とミスティルが泉を覗き込む。
「でもこれなら近い未来、精霊達が生まれるんじゃないか?」
「そうですね。問題ないでしょう」
氷華とハルパが笑顔を浮かべていた。
「お疲れ、主さん」
「流石我が姫君。お疲れ様でした」
ありがとう!
さっき果汁入りの泉は3か所と教えてもらったから残り2か所。
もう開き直ってキッラキラにしちゃうよ!
3か所目を浄化している時、様子見なのか氷竜が上空すれすれを通り過ぎた。
「おっちい」
姿かたちはいわゆる西洋の竜。背中の鱗は真っ白でお腹は薄い青。
背には蝙蝠のような形の大きな白い翼がついていた。
一瞬だったから良く見えなかったけれどギロリと睨まれたような気がする。
地図で表示されたのは赤点だし、あれが人の子隷属化計画の若い氷竜かな?
うーん。一時的にこの森全部に蓋をするか。土壌汚染までされちゃうと面倒くさいし。
そこまで阿呆じゃないと思いたいけれど、自分達がいずれ飲むであろう飲み水に果汁入れちゃう程度には阿呆だし、何するかわからないもんね。
まずは森全体を清浄してから結界4(平面)を敷く。
森の木は通すにしたから、土地全体と泉や川の上に結界が張られた形になった。
そしていかなる物理・魔法攻撃も通さないを設定。火竜果とこの土地にとって毒となる全ての物は、結界に触れると清浄にしておいた。
よしっ。
当面はこれでいけるかな?では氷竜の長さんに会いに行こう。
<こちらです>
一通り終わったので山の中腹に向かい、先ほどの精霊さんと合流する。
そこには大きな洞窟の入り口があり、この中で氷竜の長一族が横たわっているとのこと。
<この辺りに結界を張っております>
「わたち、てったい、はゆ。しぇいえいしゃん、解いて」
「お嬢が結界を張る。旦那達の結界を解いてくれ」
<はい。承知いたしました>
精霊達が張る洞窟入り口の結界を解くと同時に、私が結界1を張る。
そしていかなる物理・魔法攻撃を通さないに設定した。
<わたくし達は、氷竜達の吐く息も毒となるため中には入れません>
「うん。だいじょぶ。わたち、なた、入ゆ」
「姫さん。ちょっと待ってくれ」
中に入ろう。
皆にそう告げたら、氷華に待ったをかけられた。
「状態はわからねえが、長かその一族にまだ意識がある場合警戒して暴れだす可能性もある。まずは俺達にまかせてくれ」
……ん?俺達?
「大丈夫だ。おい」
「およびでしょうか?」
どこかから、落ち着いた優しそうな成人男性の声が聞こえた。
しゅるん!
「俺の眷属。氷雪の精霊だ」
氷華の服の袖口からしゅるんと現れたのは、小さな小さな真っ白いオコジョだった。
「初めてお目にかかります。わたしは氷雪の精霊。氷華様の眷属です」
「はじめまちて。ゆちでしゅ」
天使みたいな愛らしい見た目から想像できない、成人男性のような耳に優しいイケボ。
ありがとうございます。
「中の様子を見てきてくれ。話せるようなら姫さんが会いに行くと告げて欲しい」
「承知いたしました」
サッと駆け出して洞窟へ消えていった。
ハッ!さっき精霊さんが氷竜達の吐く息も毒と言っていたけれど、眷属ちゃんは大丈夫?!
慌てて氷華に聞いたら、伝説の武器の眷属は普通の精霊とはまた違う存在なので問題ないとのこと。熱は苦手だけれど支障はないんだって。
はあ、良かった。
「ただいま戻りました」
おっおう!早っ!
またしても袖口からしゅるんと現れた眷属ちゃんに驚く私。
「長のみ意識があり、他の氷竜達はもう意識がありません。御使い様がいらしたと伝え、了承を得ました」
「わかった。お疲れさん」
「それでは。御使い様、氷華様。御前を失礼いたします」
「あにあと」
そしてしゅるんと袖の中に消えた。
「大丈夫そうだな」
「では行きましょう」
皆で氷竜に会いに行く。
そこには一際大きな氷竜と、複数の氷竜達が横たわっていた。
恐らく一際大きな氷竜が長なのだろう。ゼエゼエと苦しそうに息を吐きながらも長い首を持ち上げようとしていた。
「しょのまま、良いよ」
「そのまま動かなくて良いとのことだ」
氷華が声をかけると、力尽きドオンと地に頭が落ちる。
「ちゅやしょう。まてて」
とても辛そう。今すぐ何とかするからね。
治癒のみだけじゃダメかも。解毒すればいい?
この場所にいる氷竜達の体内にある火竜果成分が対象です。
[無毒化]!
からの、
[治癒]!
シュワワ!
今この洞窟にいる全ての氷竜が2度光り、しばらくしてキョトンとした表情(多分)を浮かべながら皆頭を持ち上げた。
「く、苦しくない…。身体が軽い…」
長さんが体を起こす。
そして自分の家族達を眺め、嬉しそうに(多分)目を細めた。
「お助けいただきありがとうございます、御使い様」
「どう、いたちまちて」
他の氷竜さん達は、苦しさからあっけなく解放されビックリしている。
でも体力は落ちていると思うので無理しないでね?
「我ら一同、この御恩は生涯忘れません」
そこまで考えなくていいよ。気持ちだけ受け取っとくね。
「で、若いのはどうすんだ?」
「無論、制圧いたします。……いや、もう手遅れかと思いますが」
「手遅れ?」
長の言葉に眉をひそめる氷華。
手遅れって、若い竜達をもう止められないの?
「アレ達は火竜果を前足で握りつぶしていたようですからな」
「ああ、そうだね…」
え?何がそうだねなの?レーヴァ?
「さて。長としてアレらを戒めなければなりませぬ。時間もありませんのでこれにて。御前を失礼いたします」
私が?を浮かべているうちに、長が立ち上がり、洞窟の出入り口に向かう。
一族の皆さんもドオン、ドオンと足音を立てながら出入口に向かった。
「行こう、姫さん」
「あい」
私達も飛行で後を追う。
ゴオオォォオオォォォアァァァァァ!!!
長達が出入口の境に前足をかけ、大きく咆哮する。
空気がビリビリと震えて大迫力!
私は思わずレーヴァにしがみついた。
大きな翼を広げて飛び立つ氷竜達を見送り、出入口の近くにいた精霊さんに声をかける。
「いじゅみ、清浄ちた。土地、てったい、張った。おしゃ、ちゅたえて」
「泉の毒は全て清浄し取り去ったし、土地に結界を張ったからもう毒の混入は出来ないよ。水を飲めるようになったと氷竜の長に伝えてね」
<承知いたしました>
「あとは皆で解決するように」
<もちろんです。長が復活したことですし、もう問題はないでしょう>
我らも手助けいたしますので、と精霊さんがシュッと消えた。
「森自体を守るサポートをするつもりなんじゃないかな」
そっか。
皆で力を合わせて解決するならもう大丈夫だね。
「でも、手おちゅえ、どちて?」
長が言っていた、手遅れってどうして?
「若いのは火竜果を前足で握りつぶしていただろう?そして姫みたいに手を洗う習慣がない」
彼らにとっての毒素が、微量ずつ皮膚から浸透しているだろうと思われる。
それから獲物を狩る時に前足を使えば、掴んだ獲物に毒素が付着する。それを食べれば微量の毒素を体に取り込むことになる。
ミイラ取りがミイラになる的な?
うーん。若い彼らが苦しむのはちょっとって思う。
でもここから先は私の出る幕ではない
氷竜も精霊も人の子らも、一部犠牲は出たけれど…大勢の犠牲者は出ず、土地の穢れを回避できたんじゃないかな。
この件に関してはひとまず引こうと思います。
時間が無かったので氷竜とあまりお話が出来なかったけれど、今回の件がひと段落すればゆっくり会えるだろうと氷華が言っていた。
最後の咆哮、格好良かったなあ。ファンタジー映画を見ているみたいだった!
次回会えることを楽しみにしていよう。
洞窟探検も綺麗で楽しかったな。
精霊達はモノリスから魔力を吸って元気になっただろうか。
次回来た時はモノリスを回収しなくちゃ。魔力が無くなったらただの魔石の板になっちゃうもんね。
「たえよう?」
「ええ、主。テントに帰りましょうね」
たぶん1年後くらい、ソールヴスティエルネ連合王国にまた来よう。
ワインがどうなったか知りたいもんね!
本作をお読みくださり、評価、ブックマーク、いいね、感想をくださりありがとうございます。
執筆意欲が湧いてきます。とても嬉しいです♪
誤字報告もありがとうございました。
そしてこれからも応援をよろしくお願いしますっ。