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241. 観光のはずだったのに お仕事モード!

「地震、でんいん、ちってゆ?」


 地震の原因は知ってる?

 リビングで寛ぎながら、先ほどの大きな音と地鳴りのことを氷華に聞く。


「あれはたぶん、氷竜達の(おさ)争いだな。前回が2百十数年前だったから、世代交代には早すぎるのが気になるところだ。詳細はわからねえ」


 通常氷竜の(おさ)が決まると、5、6百年は世代交代しないらしい。


「確認したいが、今は会うのも難しいと思うぜ…」

「会う、はなしぇゆ?」


 会えれば話せるの?と聞いたら、氷竜は他種族の言葉を解する知的な種族なんだって。


 氷竜、カッコイイ!

 お話してみたいなあ。



「主さん、目がキラキラしてる」

「姫の輝く瞳は綺麗だよ」

「好奇心を持つことは良いことですよ、主殿」

「恐らく氷竜達は今かなり荒れている時期だ。姫さんに危険がおよぶかもしれないから落ち着くまで待とう」

「あい。そうしゅゆ」


 私が行って氷竜達の気が散るといけないしね。

 少し様子を見て、落ち着いてから会いに行くことになった。






 おはようございます。

 今日は星凍(ほしこおり)りの谷周辺の洞窟探検をするよ!

 人と会うつもりは無いので普段着のまま結界3を張り、上空の転移の門戸から飛行(ひぎょう)で山に向かう。


「ふわあ…」


 まずはあの滝の下に降り立った。


「ほんと、おみじゅ、無いねえ」


 滝の水は霧散して、本当に滝つぼらしきものはない。

 空からひっきりなしに氷の粒のようなものが降ってきている。

 見上げると粒がキラキラと輝いていて、とても綺麗な景色だった。


 滝つぼの横には高低差のあまりない、横長の滝がある。

 洞穴から流れ落ちる滝で、表面が見事な氷瀑となって迫力満点だった。

 氷瀑の裏からは豊富な量の水が流出し、やがて川となって南東へ流れていく。



 ゴオオォ……



 水が流れゆく音と振動が心地よい。

 手つかずで自然豊かな土地なんだなあ。私は美しい景色を存分に楽しんでいた。




「姫、こっちだよ」 


 レーヴァに導かれ、飛行(ひぎょう)で向かう山の麓に洞窟の入り口があった。


「ああ、ここか。途中暗い所や狭い場所があるけど、姫さんは大丈夫か?」

「洞窟は初めてじゃないから大丈夫だろう」

「あの場所より広いので、問題ないと思います」


 そういえば、死の森でモチモチの木とモコモコ草を採取した時洞窟に入った。

 伝説の武器達は戦うため暗闇でも見えていると聞いて、私も見えるようになりたい!と願った時、半神スキルに[暗視]が加わったんだ。



「こわないよ」


 暗いのは怖くないよ。

 モノクロだけど見えるし、何よりも皆と一緒だもん!


「んじゃ行くか」

「あいっ」

「手、繋ごう。主さん」

「あいあいっ」


 ミルニルと手を繋ぎ、洞窟入り口を覗く。

 大地の小さな裂け目から5、6m下に降りるみたい。中は割と広そうかな?


 飛行(ひぎょう)で下に降りると明るいのは裂け目の下だけで、その先は真っ暗な洞窟が続いていた。暗い場所は[暗視]に切り替えて進む。

 しばらくは緩やかな下降が続き、やがて広い場所に出る。


「お嬢、[暗視]にしているか?」

「うん」

「では一度通常に切り替えてくれ」

「あい、わたた」


 鳳蝶丸に言われて通常モードに戻すと途端に真っ暗で何も見えなくなる。

 ちょっとだけ不安になって、ミルニルの手をキュッと握った。


「主さん、大丈夫。そばにいるよ」

「うん」



 カチッ



「わあっちえい!」



 ミルニル以外の5人が一斉に灯りを付けた。

 皆バラバラに広がり、白色のLEDランタンで辺りを照らしてくれている。


 天井の氷柱(つらら)が長く伸び、ランタンの光でキラキラと輝いていた。

 地面は真っ白く凍っていて、天井から伸びた氷柱(つらら)と地面の氷が繋がり、柱になっている場所もある。

 氷筍もにょきにょき伸びて面白かった。


「しゃかしゃま!」


 クリスマスツリーが逆さまになったみたいな、雪の結晶型の氷もあった。



「綺麗だね?主さん」

「うん、ちえい」

「楽しんでいただけましたか?我が姫君」

「あい、楽ちっ」

「でも、まだ終わりじゃないよ?」



 さあ行こうとランタンを消す。


「抱っこするから目を瞑っていて」

「うん」


 ミルニルに抱っこされ先に進む。

 言われた通りしばらく目を瞑っていると、やがて抱っこからまた手を繋ぐ形に戻った。


「さあ姫。目を開けて」

「うん」


 そっと。そーっと目を開ける。



 !!!



 天井から光が降り注ぐ、それはそれは美しい氷の洞窟。

 青白く光る氷の世界は息をのむほど美しかった。


 おそらくここは山の洞窟内ではなく、氷の上は空が広がっているのであろう。

 氷の層が薄い個所は特に明るく、キラキラと輝いていた。


「わあ!ちえいね、ちえいねえ」


 私は思わず歌い出す。

 アイルランド出身の歌手が歌う美しい調べの雪の歌。


「綺麗な曲ですね」

「踊ろう、主さん」


 ミスティルが耳を澄まし、旋律を辿っている。

 ミルニルは私の手を取り、楽し気にクルクルと回り出した。


 私も歌いながら、飛行(ひぎょう)クルクルで一緒に踊る。

 舌足らずだから全然歌えていないけれど、楽しいからいいの。


 気が付くと私達の周りがキラキラと光り出した。そして楽しそうな小さな笑い声が聞こえ始める。


「精霊達だよ、主さん」

「わあ、たわいいね♪」


 精霊達、可愛いね♪

 小さな精霊達は私と一緒にクルクル回り、楽しそうに踊っているようだった。




 突然小さな精霊達の笑い声が止み、辺りがシーンと静まる。


 あっ、何か近付いてきた…。

 この力は神力でも魔力でもない……?


 なにも無い空間から白い靄のようなものが現れ、少しずつ形になる。

 それはやがて、淡く光る人型の美しい男女の形となった。

 2人が私の前に膝をつき、祈るような姿勢をとる。


「この一帯を守る上位の精霊達だ」


 氷華が私の隣に来て、彼らを紹介した。


「しぇいえい、しゃん?」

「ああ」

「おはよ、ごじゃいましゅ」

<………>


 深々と頭を下げる2人。


「発言を許す」


 じっとしている精霊達に、氷華が声をかけた。


<お目文字失礼いたします。我らはこの一帯を守る者にございます>

<お目通りが叶い恐悦至極に存じます。大いなる力を感じご挨拶に参りました>


「はじめまちて、たみしゃま、みと、でしゅ」

「我が主、神の御神子(みかんこ)様だ」


 精霊達は一層深く頭を下げた。


 じゃ、このくらいにして普通にお話してもらおうかな。

 氷華に合図すると、ちょっと渋られる。


「氷華の気持ちはわかるが、こればかりはお嬢の性質なのでな」

「わかってる」


 氷華としては、神子であり自分の主である私を精霊達に敬って欲しいという気持ちがあるのだと、ハルパが教えてくれた。


 氷華は私からちょっと身を引いているなって思うことがあるけれど、大切にしてくれているのは常々感じている。

 ありがとう、氷華。

 でも特別扱いは苦手なんだ。


 もちろんぞんざいな扱いを受けるのは嫌だけれど、傅かれたり頭を下げられるのはあまり好きではないの。日本にいた時普通の人だったからね。



「挨拶は叶った。お嬢とは普通に会話してもらってかまわない」

<ですが……>

「主は特別扱いを好みません」

「主さんが嫌がることしなければいい」


 精霊さん達はちょっと戸惑っている。

 私は白く丸いテーブルを出して、椅子に座るようにと告げた。


 と、言っちゃったけれど座れるかな?

 精霊さん達は実体が無いみたいなんだけれど……。

 心配したら、座ったり寝そべったりする動きは出来るんだって。良かった!


 じゃあ、どうぞお座りください。


御使(みつか)い様とご一緒できるとはなんたる幸甚>

<失礼申し上げます>

「あい、どうじょ」


 嬉しそうに席についてくれました。

 私はミルニル抱っこで席に座る。他の皆は後ろに控えた。



「何、食べゆ?」

<わたくし達は人の子のように食事をせずとも問題ございません>

「ピヨコたん、達、食べゆよ?」

「主殿。精霊たちは大気に漂う魔素を取り込んでいるので、食事をせずとも過ごせるのですよ」

「ピヨコ達は、主さんの作った物だから口にしているんだ」

「主の清浄な神力や魔力をいただいているのです」


 そうなんだ。

 じゃあ、町で買った物は食べないの?と聞いたら、普通は食べないという答えだった。

 不純な物が混ざっていなければ口にできるけれど、微量な瘴気が混ざっている場合もあるので滅多に口にしないということだった。


「みんにゃは?」

「俺達は精霊達とはまたつくりが違う。何を食べても問題ない」

「主と一緒ですよ」


 そうなんだ。

 精霊達って繊細なのね。



 私の魔力なら取り込めるならこれはどう?

 何度も改良して私の魔力だけ満杯にしたキングの魔石を2つ出す。


<こ、これは…>

御使(みつか)い様の魔力で満たされていて素晴らしい>


 私はお水のストローマグを出し、まずは魔石をどうぞ、とおススメした。


<ありがたく>

<遠慮なく>


 精霊さん達が両手を魔石にズボッ!と突っ込んだ。

 はわっ!ビックリした!


<これほどまでに清浄な魔力は初めてです> 

<わたくし共は幸運ですね>


 あ、魔石の魔力が減ってる。の、飲んでくれているのね。




<最近力を使うことが多く、疲弊しておりました>

<魔力が巡り力が湧いてきます>

「何かあったのか?」


 精霊たちの言葉を聞いて氷華が反応する。


<はい。この辺りの精霊達は氷竜達の騒ぎに巻き込まれ疲弊しております>

<統治している氷竜の(おさ)が謀られ、現在瀕死となっております>

<この謀のせいで泉の小さき精霊が数体消滅いたしました>


 詳しく聞いてみるとこうだった。


 人や他の種族をも支配し、我が竜族の隷属とするべきだ!という氷竜達が一部いるそうで、今まで通り共存し互いを尊重しようという(おさ)と対立していた。

 声高に叫ぶ氷竜たちはまだ若く、(おさ)の力の方が数段上で今までは抑えられていた。

 それに業を煮やした若者達が(おさ)一族の水飲み場に毒を盛り、瀕死状態となった(おさ)が彼らを抑えきれなくなってしまった。


 氷竜達の(おさ)は、腕力や魔力、知力で一番優れている竜が選ばれるものであり、毒を盛って陥れる竜がなれるものではない。

 他の氷竜達が怒り狂う中、全ての泉に毒を入れて汚染すると脅し、好き勝手を始めようとしているのだと言う。


 このことによって氷竜達や精霊達、人の子らに被害が及べば、この地は瘴気や穢れで汚染されてしまう。

 そうならぬようにと力の強い精霊たちが(おさ)一族を守り、若者達の行動を何とか抑えているが、日を追うごとに抑えきれなくなっている。

 彼等が完全な自由を得て動き出すのは時間の問題だろう、と言うことだった。


 瘴気や穢れでこの地域が汚染されると言うならば、放ってはおけない。

 本来の(おさ)争いだったら手助けしないけれど、今回のケースは補佐的に多少の介入をした方が良いだろうと思う。


 後ろを振り向くと、皆が私を見てゆっくりと頷いた。

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