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24. 意思の疎通、難ちい

 夜の湖は真っ暗だった。

 聞こえるのは岸に当たるチャプチャプという水の音、ヒュウという風の音。

 夜の海も怖かったけれど、賑やかな波の音がない湖の方が更に怖い。

 思わず鳳蝶丸にしがみつくと、背中をトントンしてくれた。


 地図を見るとやはり真ん中辺りが赤くチカチカ点滅している。

 この湖は一番深いところで水深800m近くあった。海並みに深いな、ここ。

 まあ、あれだけ大きなホネホネが潜んでいるんだからあたりまえか。


「潜ゆ」

「そうだな」

「湖に魔獣の気配はありません」

「灯い、ちゅけていい?」

「問題ないだろう」


 ランタンのスイッチを入れる。周りがぼんやり明るくなった。


「行きましょうか」


 まずミスティルが湖の真ん中まで飛んで、チャプンと水に入る。

 私と鳳蝶丸もそれに続いた。



 水中は更に暗かった。生き物の気配がなくとても不気味。

 800mほど深く潜ると、微かに光る岩場のシルエットが見える。

 近付くと岩が光っているのではなく、人一人通れる位の縦穴が開いていて、そこから光が漏れていることがわかった。



 鳳蝶丸が私をミスティルに預け穴に近付く。そして頭を下にしてゆっくり潜っていった。

 緊張しながら待っていると、入った時と同じ状態で足から出てくる。


 そして私とミスティルの腕に触れた。


「これで声聞こえるか?」


 お互いの結界を許可しているので触れれば話し声が聞こえるようになる。


「ええ、聞こえますよ」

「何か、あた?」

「ダンジョンコアの部屋だった」

「様子は?」

「かなり誤作動起こしているな」


 中はとても広い空洞になっていて、真ん中にダンジョンコアが存在するらしい。そしてその空間は荒れ狂っていて嵐のようだということだった。


「中入ゆ。結界張ゆ。行こ」

「ああ」

「わかりました」


 鳳蝶丸、私、ミスティルの順で頭を下にして進む。

 やがて見えてきた出口からビリビリ、パンッ!という音と振動が伝わって来た。



 私を中心に結界1半径5mを張る。三人とも結界内に入っている。

 まず鳳蝶丸が出て、私に手を伸ばした。私はその手に掴まって穴の外に出た。



 グリン!

 ん?何か変な感覚。



 頭を下にして入ったはずなのに、逆さまじゃなく普通に立っている。

 この空間に入った途端天地が逆転した。



 ビリビリビリビリ!

 パンッ!!



「ぴゃっ!」


 思わずしゃがみこむ。

 その空間は静電気の様な青い放電と落雷で荒れ狂っていた。

 部屋の真ん中に物凄く大きな魔石があって、そこからビリビリと光が発生し空間中を攻撃している。

 何か、科学の実験みたい。


 部屋の中にデザイン画用のポージング人形みたいなやつがいた。木製ではなくて泥で出来ているみたい。

 あの魔石を守っているのであろう人形は狂ったように手当たり次第攻撃している。

 腕が剣みたいな人形は仲間を切り、土魔法を放つ人形は壁や守るべき魔石を攻撃し、反撃を喰らっている。倒されて消えても補充分が土から新たに生まれる(?)為、減ることはなかった。



 私は浄化に集中を始める。

 気配完全遮断をしているけれど、やはり神力で異物を感じたらしい。

 惹かれるようにワラワラと集まる人形。

 魔石からの雷も私の周辺に落ち始めた。

 このまま放っておいても問題ないけれど、結界に攻撃が当たる度に気が逸れる。


「うるちゃい」

「俺達がアレ近づけないようにするから、浄化頼むな」

「うん」


 二人が結界から飛び出して人形を次々倒して行く。

 また生まれちゃうから終わりがないんだけど、結界周辺に近づけないようにしてくれた。

 その間神力を高める。



 ピシャッ!

 ドーン!



 魔石から一際大きな雷が落ちた。

 その場所に、他のとは明らかに違う人形が立っていた。

 形は同じだけれど、材質がつるんとしたダークグレーの鉱石みたい。


「おやおや、お出ましですか?」

「最後まで大人しくしといて欲しかったんだが」


 え、なになに?

 うわあ、鑑定したい。

 いや、そんな暇はない。とにかく浄化だよ!



 ガン!

 ドドド!

 キンッ!


 ヒュン!ヒュン!

 ザクッ



 いや、音が凄すぎてつい見ちゃう。

 私の武器達はダークグレー及び泥の人形と余裕で戦っている。

 ただ、ダークグレーには相手にしているけれどあまり攻撃していないみたい。



 むむ。

 自分の内なる神力をガンガン集めないと。

 みんな!おらにげんきをわけて………ゲフン、ゲフン。


「よち、でちた!」



 大きな魔石の上でキラキラ星の玉が膨れ上がる。



「浄化!」



 キンッ!

 サアァー………。



 星の玉が弾けてこの空間一杯に広がった。



 キラキラキラ・・・



 静電気の放電も落雷もなくなり、辺りがシンと静まっている。

 泥人形たちは力を無くして倒れていき、地面に吸い込まれていった。

 ダークグレーは倒れずその場に佇んでいる。


 あれ?倒せなかった?

 神力少なかった?


 でも、私の武器達は特に身構えることなく様子を見ているみたい。

 地図の赤いチカチカも無くなっているのでもう大丈夫かな?



 ギギギ…ギギギギ…



 ダークグレーがゆっくり私の方を見た。目がないから見たってのも変だけれど。

 何もないのっぺりしたその顔がちょっと怖くて思わず固まってしまう。

 しばらく見つめあっていると、いきなり滑らかに動き出した。


「いやあ、どうも!いやいやいや、どうもどうも~!」



 ぴゃっ!



「私、この森のダンジョンコアです!いや、本体はアチラなんですけどね。コアだと話せませんからね。私は分体です~。初めまして~、あ、貴方は何度目かまして~!」

「はあ、まあ」


 ミスティルが困惑している。って言うか、軽いな。死の森ダンジョンコア。


「コア瘴気無くなった?」

「ええ、ええ、おかげさまで!すっかり落ち着いてホラ、この通り」



 グルグル回って踊るダンジョンコア(分体)。不規則に動く人形がやっぱり怖い。

 近くにいた鳳蝶丸にしがみ付いたら抱っこしてくれた。


「主が怖がっているので止まってもらえませんか」

「え?あ、これはこれは、すみません~。怖かったですか?いや~嬉しいな~」


 何故か喜んでいる。

 人間じゃないから当たり前なんだけれど感性が独特で通じ合えないのはわかった。


「私は小さな森だったんですがね。魔力を吸収するうちにどんどん大きくなって、こうして広大な森となったんですよ。でも強くなればなるほどエサが入ってこなくなりましてね。いや、入ってはくるんですよ?でも、入り口でウロチョロするだけなんですよ。湖のあたりに珍しい薬草や高クラスの魔獣には高価なドロップ品や宝箱も用意して待っているんですが、ここまでちっとも入ってこないんですよ。この辺りまで来られる人間などはきっと高い魔力を持っているでしょうから、それを吸収してもっともっと大きくなりたいって思っていたんですけれど、思うようにいきませんね」



 一気にまくし立ててしゃべるダンジョンコア(分体)。ちょっと様子がおかしい。

 先程の瘴気は浄化したけれど、またダークグレーに瘴気をまとい始めている。


「いえね、実はちょ~っとばかり、貴方の神力をもらっちゃおうかな、って思ったこともあるんです」


 ミスティルにそんなことを言い始める。


 地図に再び赤いチカチカが表示された。



 ググググググググ…。



 地鳴りとともに再び泥人形が地面から湧き始める。


「でも、あの忌々しい荊棘の壁。強い防御力でどうにも破れなかった。残念です~」


 そしてゆっくり私を見る。

 顔はないのに、ニタアと笑ったように感じた。


「私は幸運ですねぇ。あの荊棘の中から貴方が出てきてくれただけではなく、このちびっちゃい魔力の塊まで私の元へやって来てくれたんですから」



 カクン



 首をかしげる。


「では遠慮なく、いただきます♪」



 一斉に泥と分体人形が襲い掛かってきた!!

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