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23. 綺麗なお兄さんは多少の棘がある、バッチコイ!

 ヒュ~~~ウ。



 ズボッ!

 ガガガガガッ

 ガクッ!



 落ちた場所は湖からそう遠くはない。

 結界でノーダメージだから怪我はないけれど、何やら思いっきりハマっている。


 薔薇の茎と棘が複雑にからんで周りがどうなっているのか把握できないのだ。

 上を見るとジワジワ茎が伸びて完全に囲まれたみたい。

 これも魔獣?って一瞬思ったけれど、悪意を感じないし地図にも赤い点表示がない。


 ん?んん?

 それどころか[?]マークが表示されている。


「鳳蝶まゆ、同じ」


 意を決して、下方に降りる事にした。すると不思議なことに私が進む方向の茎が開いて通してくれた。



 絶対そうだ。

 私は確信する。



 やがてポッカリと開けた空間に出た。


「わあ、きえ~い」


 そこには色とりどりの美しい薔薇が咲き乱れていた。

 上を見上げると荊棘のドーム。茎の間から光が漏れてまるで天使の梯子のよう。

 そして、ひときわ輝く光の中にたくさんの薔薇に囲まれた展示台があった。


 やっぱり。鳳蝶丸と同じ。


「でんしぇちゅ、ぶち?」


 シーンと静まり返った空間に私の声が響く。

 浮遊で近づいてみると、瑞々しい若葉を2枚つけた綺麗で細い小枝が1本、展示台に横たわっていた。


「でんしぇちゅ……ぶち?」


 困惑していると、声高めの男性か声低めの女性かわからない、優し気な声色が聞こえた。


「そうですけれど、何か?」


 わあ、怒ってる?


「遅いですよ」


 はぁ、と溜め息が聞こえた。



 あ、前にも体験!

 咄嗟に目を瞑ると同時に小枝から物凄い光が放たれる。



 パアッ!



 やがて収まると、そこには二十歳を過ぎた位の艶っぽくて美しい男性が立っていた。

 いや、たぶん男性………で、合っているよね?


 細くてスラリと背が高く、中性的な顔立ち。

 薄いストロベリーブロンドの髪は輝き、サラサラ真っ直ぐで、腰の辺りまで伸びていた。


「わたしはミスティル。ウルトラウスオルコトヌスジリアス神につくられし伝説の武器です」

「ゆちでしゅ。よよちく、おねだい、ちましゅ」

「ご丁寧にどうも」


 ガーネット色の瞳で私を見つめるミスティル。本当に、艶っぽくて美人なお兄さんだな。


「それで?」

「ん?」


 はぁ、と再び溜め息。


「あなた、ウルトラウスオルコトヌスジリアス神にわたしを仲間にするよう言われて来たのでしょう?」

「半分しぇいかい」


 怪訝そうな表情。


「半分?」

「仲間になってほちい、ほんと。半分、浄化」

「浄化?ああ、最近瘴気漂ってましたね」


 腕を組んで首をかしげる。


「誰か戦っています?」

「鳳蝶まゆよ」

「そう。まあ、彼なら大丈夫でしょう。それで?わたしを従者にしますか?」

「うん。従ちゃ、なって、くだしゃい」

「嫌だと言ったら?」


 う~ん。

 私の傍にいて欲しいけれど、無理矢理、強引に従者にするのは気が進まないなぁ。

 ……残念だけれど仕方ない。


「強引、ちない。あちやめゆ。お邪魔ちまちた」


 バイバイと手を振って、上昇し始めたら、ガシッと両手で結界を掴まれた。


「ならないとは言ってないでしょう?」

「ん?なってくえゆの?」

「良いですよ」

「本当!?」

「ここにいても暇なので。……ただ、強引だったら断ろうかと」


 うんうん、分かる。無理矢理は嫌だよね。

 例え伝説の武器達を従者にするのがウル様の命でもそれはしないつもり。

 それに、従者になっても我が一家は基本自由なので拘束しない。心配しなくても大丈夫だよ。



 ではでは、ミスティルの了解を得たので早速縁を繋ごう、そうしよう。


 気が変わる前に。


「じゃあ、神力、しょしょぐね」

「ええ、どうぞ」


 ミスティルは片膝をついて片手を胸に当て、私の瞳を見つめた。

 何だか王子様みたいに優雅な動作だった。う、うつくしい!

 私は神力を意識して手から放出する。



 淡く優しい光が部屋中に満ちた時、優し気な声が響いた。



「ウルトラウスオルコトヌスジリアス神につくられし伝説の武器が一張、ミスティル。生涯、御神子(みかんこ)ゆきの従者であることをここに誓います」



 鳳蝶丸の時と同じような光に包まれて、絆のようなものの繋がりを感じる。



「よよちくね、ミシュチユ」

「ミシュ……、まあ、良いです。こちらこそ宜しくお願いします」



 ちょっと困ったような顔をしてそれでも少し微笑んでくれた。



「じゃあ、鳳蝶まゆ、ところ、行こう」

「ええ。何やら一人で楽しそうにしていますが、私達も参戦しましょうか」


 そう言うと、私を抱えて飛躍する。荊棘のドームが行く先を開いて外に出ることが出来た。

 ドームの上から周辺を眺め湖を探す。



 ドオオン!



 その途端、森をなぎ倒してホネホネの1匹がバラバラと崩壊しながら倒れた。

 近くに鳳蝶丸の姿が見える。


「周辺の魔獣は大方片付いたようですね」


 そう言うと、左手を伸ばした。パアッと光り現れたのは大きな美しい弓。


「ミシュチユ、弓何だねぇ」


 手に何も持っていなかったのに弦を引く動作をすると、そこには薄緑に輝く矢が現れた。そして流れるような動作で矢を放つ。



 ヒュンッ



 空気を切り裂くような鋭い音がしてすぐ、もうひとつのホネホネの頭が粉砕された。


「しゅごい!」


 ちょっぴり得意気に笑うミスティル。

 あ、この人も鳳蝶丸に負けず劣らず戦闘好きだ。



 ガガガガガ

 ゴゴゴ……。



「あっ!」


 せっかく二人が倒したのに、ホネホネの頭が不気味な音を立てて再生してしまう。


「やはり」

「しぇっかく、やっちゅけた」

「想定内です。アンデッドは聖魔法か炎系の魔法しか効かない事が多いですから」



 鑑定


 名称 ラングベインドラゴン

    死の森ラストボス(アンデッド系)

 説明 食用不可

    多頭竜のアンデッド系モンスターでスケルトン最上クラス

    物理攻撃は再生してしまうため通用しない

    弱点は聖魔法か炎系の魔法

    御神子(みかんこ)の浄化は最上級の効果あり

    ダンジョンモンスターなので倒しても骨は残らない

    ドロップ品はドラゴンの牙、ドラゴンの血液、ドラゴン肉、

    ドラゴンの鱗、ドラゴンの爪などがある



 ホネホネのドロップなのに血液とか肉とか鱗とか…これ如何に。

 まあ、貰えるモンだったら何でもいいや。


「ホネホネ、浄化しゅる」

「ここから出来ます?」

「まだ慣れてにゃい。近く行く」

「どうやって?」


 ミスティルがちょっと困った顔をする。


「抱っこちて?」

「それは出来ません」

「どちて?」


 ちょっと悲しい。


「……………。わたしは弓なので交戦時は両手が塞がります。貴女を抱いて飛べません」


 何故か耳を赤くしてそっぽを向くミスティル。


「しょっか」


 確かに弓をひきながら私を抱っこするのは難しいよね。


 浮遊は移動が遅く、水ジェットを使うと細かいコントロールがきかない。

 うーん、どうしよう。

 名案は浮かばないけれど、少し投げてもらって勢いをつけたら多少早く飛べるかな。


「わたしは先に行きます。あなたはここから何とかして浄化してください」

「あ、まって!」


 さっと飛び立とうとするミスティルを止める。

 結界3。怪我しちゃいけないからね。


「これは……。便利そうですね」


 細く長い指を閉じたり開いたりしている。

 うんうん、そうでしょう。私の結界は鳳蝶丸のお墨付きだもんね。


「やっぱい、わたち、行く」

「抱いて飛べません」

「わかってゆ。投げて」

「は?」

「わたち、ホネホネ、投げて」


 私は真剣に訴えた。

 大して変わらないかもしれないけれど、ゆっくり浮遊していくより多少でも勢いつくかなと思って。


「……わたしの主は面白いですね。わかりました。結界の許可を解いてください」


 クスッと笑うミスティル。

 私は従者になったと同時に受け入れていた結界をまた拒否にした。


「ミシュチユ、届くとこまえ、良いの。よよちく」

「では」


 すると、私の結界を片手でムンズと掴んで、


「はいっ」


 軽いかけ声とともに私の結界をブン投げた。



 ビュッ!



 速ぁ!!



 あんなに軽く投げた感じなのに、私は弾丸みたいな速さでホネホネに向かって飛ぶ。



 ヒュンッヒュンッヒュンッ!



 と、同時にミスティルの矢が私の横をすり抜けて行く。


 私の存在に気が付いたホネホネの一匹が、私を噛み砕こうと大きな口を開けたが、ミスティルの放った矢が先に当り、



 パァン!



 と弾ける。



 ガンッ!キュッ……。



 そして私はその向こうにいたホネホネ頭の眼窩にズボッ!とハマったのだった。


 今日はハマる日か……。

 いや、今度は生きている目玉か!

 少々自虐気味に笑ってしまう。


 目玉は置いといて、とにかく浄化しなければ。

 私は集中し体中の神力を集め始める。


 神力に気付いた他の頭がおもむろに私がいる頭に噛みついた。

 それに怒った私入りのホネホネが反撃する。

 反撃されたホネホネが他のホネホネにガツン!と当り、怒って暴れだす。

 何か全部の頭が喧嘩始めたんですけど。



 うねうねうねうね。

 ガブガブガブガブ。

 ガツンガツン!



 いやー!

 何この混沌(カオス)

 集中出来ないよ!



 スタッ……。


 戸惑っていると、誰かが音もなく近づいた。


「鳳蝶まゆ!」

「お嬢っ」


 暴れているホネホネ頭に掴まって、片手を私に差し伸べる。


「俺の手に触れたらすぐ結界3に切り替えてくれ」

「うん」


 私の手が鳳蝶丸の手に触れたと同時に結界の種類を切り替える。

 すると、グイと引き寄せられ気が付くと鳳蝶丸の腕にスポンと収まっていた。


「安心して浄化に集中な」


 ホネホネから飛行(ひぎょう)で素早く離れる。

 ミスティルがあちこち飛びながら攻撃してホネホネの気を逸らすけれど、神力に惹かれてか結局私に向かってしまう。


「仕方ありませんね」


 結局、私達の傍に来てどんどん矢を射っていた。



 砕けて、再生。

 弾けて、再生。

 爆ぜて、再生。



 そりゃあ、しつこい。


 物理攻撃が効かないのはもちろんわかっているよ?浄化までの時間稼ぎだしね。

 でも約1名、ちょっとイライ…、いや、熱くなったらしい。



「いい、加減、に、し、て、ください!」



 バキャッ!ズガン!



 何度砕いても襲ってくる敵に、弓を仕舞ったミスティルが拳で殴り付けた。



 あの細腕にどんな力を秘めているのか。ホネホネ頭が地面に叩き付けられ飛び散っていた。


「おお、久し振りに見たぜ、ミスティルの鉄拳」


 そう言いながら、ホネホネ頭の攻撃を避け、なるべく近くを飛んでくれる鳳蝶丸。


「でちた!」


 お陰で高まって参りましたー!神力充填、準備完了!



「浄化!」



 キンッ



 一瞬の静けさ。

 ホネホネの首元に星の詰まった丸い玉がキラキラ輝いた。



 パアアァァアアァァァ!



 すぐ光の輪になって、凄い勢いで広がって行く。

 どこまで行ったかわからないけれど、沢山神力を込めたから森の端まで届いていると良いな。

 町で怪我してる人がいたら、治癒出来てたら良いな。


 金と銀のキラキラが森中に輝き、とても綺麗な光景だった。



 あ……ちょっと眠……い……………。

 沢山の力を使った私は睡魔に耐えられず、鳳蝶丸の胸にカクリと頭を預けた。


「これが神子の力なんですね」

「ああ、俺達の主は凄いだろ?」


 気付けばラングベインドラゴン(ホネホネ)は消え、森に清浄な気が満ちていた。



 一部を除いて。


「少しばかりの猶予はあるだろう?」

「ええ、今は寝かせてあげましょう」


 不穏な会話に気が付かず、鳳蝶丸の腕の中で数時間の眠りについたのだった。






「んにゅ……」

「目が覚めたか?」

「う…ん」


 目覚めると夜だった。

 私は鳳蝶丸の腕の中、あの荊棘ドームで眠っていたみたい。

 辺りはシンと静かで動いているものの気配を感じない。


 ………訂正。

 ある一ヶ所を除いては。


 起きたと同時に私の地図が開き、湖の大体真中に赤い点がチカチカ光っている。


「お嬢、動けそうか?」

「うん」


 まだ完全回復はしていないけれど神力は40万弱残っている。


「わたち、みじゅうみ、ちゅえてって」

「わかった。本当は休ませてあげたいが、時間がない、すまんな」

「だいじょぶ」


 もしもの為に、タープテントと2ルームテントを鳳蝶丸に預けた。

 そして白色LEDのランタンに結界3をかけて握りしめる。

 自分達の結界はそのままキープしているので、従者達と自分をお互い許可にした。


「じゃあ、出っぱちゅ!」

「了解」

「わかりました」


 鳳蝶丸は私を抱いたまま飛行(ひぎょう)で荊棘ドームを抜ける。

 ミスティルもその後に続いた。


 夜の森はとても不気味で怖かったけれど、二人がいるから大丈夫。

 私達は暗闇を横切って湖に向かったのだった。

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