228. 「その銘は どうかと思う そりゃないよ」ルミケアルメ心の川柳
「いぱぁーい」
おはようございます。
朝早く目覚めたら、枕元に宝石が散らばっておりました。
やっぱりピヨコちゃん達に聞かれてたよ。
わあぁっ顔の周りがキラッキラ!
前に沢山はいらないよって言ったけれど…。宝石のプレゼントって実は嬉しい。
日本にいた時、宝飾や宝石、硝子などの美術館に何度か行ったりした。
自分でアクセサリーとして身に着けたいとかじゃなくて、美術品として好きだった感じ。
ああ、美しいな。このデザイン好みだなって。
元々鉱石を眺めているのが好きだったっていうのもあるかな。
あとはアクセサリーを作るのが好きで、天然石を所持していたよ。
翡翠と水晶、ガーネット、アメジスト。
あくまでも趣味で作っている範囲のド素人だけれどね。
そういった経緯もあって、ピヨコちゃん達からのプレゼントを強く拒めない私なのです。
ただ、ピヨコちゃんからのいただき宝石が多いので、採り尽くしちゃいそうでちょっと心配とは思っているよ。
……大丈夫だよね?
「主さん、起きてる?」
ミルニルが起こしにきてくれました。
「あい。おはよ」
「おはよう。あれ?ピヨコ達来たんだね」
「うん。あにあと言う」
「今休んでいるかも。伝えておく」
ええっ!ずっと採掘してくれていたの?お、お礼しなくちゃ。
ピヨコちゃん達ってお酒平気?って聞いたら大好きだよとのことなので、金平糖の他に砂糖菓子のウイスキーボンボンをミルニルに渡す。
「これ、綺麗だね?」
「ウィシュチー、ボンボン」
「ウイスキーってあのお酒?」
「あい」
「へえ……」
ミルニルが食べたそうにしているので味見にどうぞと1袋渡す。
「味見、どうじょ」
「いいの?ありがと、主さん」
早速開封して口に入れた。
「んっ、甘い!でもウイスキーの香りがする。美味しい」
もっと欲しかったら言ってね?
複写して共有フォルダに入れるからね。
「いけない、本題。出来たよ」
ミルニルがマジックバックから魔石剣を取り出した。
形はダガーっぽく、かつ柄に荒削りの宝石が散りばめられている。
めちゃくちゃゴージャス!
「しゅどい、ちえいねえ」
めちゃめちゃカッコイイし、とっても綺麗!
ラエドさん達に渡した剣もとても綺麗だけれど、あちらはちょっと武骨で、今回のダガーは美術品と言う感じ。
「ミユニユ、あにあと」
「うん。仕上げしたいから来てくれる?」
「あいあい」
ミルニルの作業部屋に行き、これから最終的な仕上げを行います。
まずは、荒削りの宝石達。
[彫塑・成形]でオールドヨーロピアンカット風に削り、形を整える。
「この凹みの上からサファイアで蓋をして、ポケットにするよ」
見ると鍔すぐ近くの柄に直径1cmくらいの凹みがあり、ここにサファイアで蓋をするんだって。
うんうん。了解です!
凹みの部分の空洞をマジックバッグ化すればいいのね?
空間魔法で8畳の部屋ほどに広げました。
次はミルニル。
サファイアをオーバルブリリアントカット風にして渡すと、カンッカンッと鎚を打つ。
そして凹んだ部分にサファイアの蓋が成された。
次は魔石剣に結界を付与。
持ち主に悪意、敵意、物理攻撃、魔法攻撃の存在を察知した場合、また持ち主に危険が生じた場合は結界3を発動する。
[解除]と念じれば結界は解除される。
中側からの攻撃は通す。
そのあと魔石剣に魔力フル充填。
鞘もミルニルが作っておいてくれた。
こちらも宝石が散りばめられてゴージャス!金剛鋼鉱石で作られているから物凄く重いけれど。
魔石剣と鞘、合わせて1.5kgくらいに浮遊をかけておく。
本物のダガーがどれくらいの重さかわからないから適当です。
今作った魔石剣と鞘を一旦無限収納にオリジナルを仕舞い、複写する。
ではでは。識別するために複写した魔石剣に名前をつけよう!
………どうしよう。
思いつかないから[ダガー君1号]で良いかな。
メモしておかなくちゃ忘れそう。
「収納庫管理」でマジックバッグと同じような管理画面にし。呼べば戻るを設定する。
セリフは「召喚、ダガー君1号!」
はい、出来上がり♪
時間停止にはしないから、マジカルラブリンはありません。
「でちた」
「仕上げありがと。主さん」
「おちゅたえ、しゃま、でちた」
所有者をメインは私、サブは家族全員にする予定。
早速皆に見せよう!
「こりゃ、凄いもん作ったな」
「間違いなく、人の子には作れません」
「これがマジックバッグだって、誰も気づかないと思う」
「マジックバッグで、結界付きで、呼べば戻る魔石の剣。十分証拠になるでしょう」
皆にもお墨付きをいただきました。
じゃあ、早速私と皆の魔力を魔石剣に登録して、ルミケアルメさん達の後を追うよ!
転移の門戸とヘデルマタルハ村上空をつなぎ。飛行でルミケアルメ部隊の後を追う。
地図で確認すると、すぐに彼らを見つけることができた。
あ、サトゥさんの部隊もいる。一緒に王都へ行くのかな?
ルミケアルメさんが乗っているであろう馬車近くに、騎乗のヤッティライネンさんとケイユクッカさんがいる。
気配完全遮断のまま彼等に近付き少しだけ神力を出すと、ケイユクッカさんがすぐに視線をめぐらせた。気が付いてくれたみたい。
「おねしゃん、わたちたい、あゆ」
「侯爵に渡したい物があるんだけれど、隊を止めてもらえる?」
小さな声で囁くと、ケイユクッカさんが深く頷いた。
そしてヤッティライネンさんに声をかけてから馬車の窓に近付く。
「公爵閣下。御使い様がいらしています」
「あいわかった。隊を止めよ」
「はっ!」
ヤッティライネンさんが片手を伸ばし、大きな声を出す。
「歩みを止めよ!騎士団はその場で待機!動いてはならん!攻撃も無用だ!」
「はっ!」
ヤッティライネンさんの掛け声で、馬車がゆっくりと止まった。
馬車の扉が開いたので、今度はルミケアルメさんに声をかける。
「姿を現すけど、いいかい?」
「はい。ご尊顔を奉りたく…」
飛行のまま私とレーヴァだけ気配完全遮断を解除して、馬車の横に浮かんだ。
「再びお会いでき、光栄にございまする」
ルミケアルメさんが馬車から降りようとしたのでそれを止め、窓からでいいよと言葉をかける。
窓からのやりとりはちょっと窮屈かもだけれど、終わったらすぐに出発できるでしょう?
「まずは音漏れの結界を張っていいかい?」
「問題ございませぬ」
直ぐに私達と馬車を結界で囲む。
そしてレーヴァが概要説明した。
証拠になるかもしれない品を用意できたので持って来た。
それを貸し出すから、王都で提示してほしい。
ただし、あくまでも貸し出しなので、献上せよと言われても断るように。
「御使い様ご降臨の証拠をご提示いただけるとは心強い。有難く拝借いたします」
「よたた。じゃあ、たしゅね」
良かった。
じゃあ、貸すね。
レーヴァに目配せして、マジックバッグからダガー君1号を出してもらう。
「こえ、ダダー、ちゅん、1どう」
「この剣の銘は『ダガー君1号』だって」
「ダガー君1号……。な、なるほど」
ルミケアルメさんが何か言いかけて言葉を飲み込んだ。
「どちた?」
「い、いえ。これほどまでに美しい剣を初めて目にいたした。か、感動で……」
そうでしょ!
ウチのミルニルは凄いんだよ!
他の皆も凄いんだよ!
嬉しくなってニコニコしちゃう。
こんなに美しく、2つと無い素晴らしい剣の銘が『ダガー君1号』と言うことに驚愕し、言葉がなかなか出てこないルミケアルメ侯爵。
それに全く気付かない私だった。
それから所有者のメインは我らだが、あとで侯爵の名も登録する。
もし盗まれたり、無理矢理奪われた場合は手元に戻るようにしてあるので安心してほしい。
手元に戻る呪文は『召喚、ダガー君1号!』である。
「ここまではいいかい?」
「はい」
「では次に…」
レーヴァが鞘から刃を少し出す。
一瞬騎士達が柄に手をかけたけれど、ヤッティライネンさんとケイユクッカさんが手で制した。
レーヴァは全く気にする素振りもなく話を続ける。
「これは魔石剣。持ち主が危機の時結界が発動するという剣だよ」
「結界………」
「自然に魔力が充填されるけど、減ったら誰か魔術師に充填してもらった方が早いかもね」
はあ…と固まるルミケアルメさん。
まだ伝えることはあるよ。頑張れ!
「シユバ、ヨッチュ、トータシュ、ちゆ」
「ああ。姫が言う通りだね」
私がウンウンと頷いて説明する。
…………。ん?
ルミケアルメさんが困惑した顔をしているよ?
レーヴァさん、訳してください。
「ああ、ごめんごめん。姫が可愛かったから見惚れちゃったよ。シルバーロックトータスの甲羅くらいは軽く切れると説明しているよ」
「………シッ!シルバーロックトータスの甲羅をも切る?!」
「ああ」
「この美しい剣で?」
物凄く驚愕している。
そして、そんな勿体ないことは出来ませぬ!と叫んでいた。
「しょえたや………」
「そ、それから…………」
ルミケアルメさんがゴクリ喉を鳴らす。
「マジチュバチュ※△〇×□!」
盛大に噛みましたああぁぁぁ!
「ふふ、姫可愛いね。姫はマジックバッグだって言いたかったんだよ」
「ん?」
「魔石剣なのにマジックバッグ機能付き。なかなか無い代物でしょ?」
「んん?」
「これからマジックバッグの使い方を教えるよ。『特別身分証明書』とやらができたらそこに手紙を入れてくれない?」
あんぐりと口を開けて固まっているルミケアルメさん。
レーヴァがそんなことお構いなしに、使い方を教え始める。
「まずはここに髪1本を入れるか、魔力を流してって、聞いてる?」
「ハッ!も、申し訳ござらん。もう一度説明願う」
まずはルミケアルメさんの魔力を流して登録する。
これで正式にマジックバッグを使えるようになったし、『召喚、ダガー君1号!』で手元に戻るようになった。
そして管理画面で使い方の説明をする。
「ここまで大丈夫かい?」
「は、はあ………」
ルミケアルメさんの微妙な表情が面白くて、可笑しくなっちゃう私。
「ももちよい!」
面白いとキャッキャ笑ったら、ルミケアルメさんにジトーッて見られちゃった。
「こえ、しゅどい?」
「この魔石剣は凄い?って言ってるよ」
「はい。とんでもなく面白く、この世に2つと無い代物です」
魔石剣はラエドさんのところにもあるから、2つと無いわけじゃなくてごめんなさい。
でも、マジックバッグ機能付きはダガー君1号が初なので…。いいよね?
レーヴァには貸し出している間はマジックバッグ機能を使ってもよいこと。手紙用に一枠は空けておくこと。マジックバッグ内は時間の経過ありだから、食べ物の長期保存は適さないこと等の説明してもらった。
「承知いたした。素晴らしい品をお預けいただき感謝いたす」
「うん。よよちく、おねだい、ちましゅっ」
「こちらはいつ頃までお借りできるのかな?」
「うーん。たんだえゆ」
「考えておくそうだよ」
「左様にございますか。承知いたした」
ルミケアルメさんが恭しく『ダガー君1号』を受け取り、頭を下げる。
これで一歩前進かな?『特別身分証明書』をよろしくお願いします。
イヒッ♪
「じゃあ、俺達はもう行くよ」
「どちゅー、ちをちてて」
「道中気を付けて、だって」
「感謝いたす。必ずや良き報告をお持ちいたしまする」
「あい。よよちく、おねだい、ちましゅ。バイバイ」
気配完全遮断!
結界解除!
私達が急に姿を消したからか、周りの人たちが動揺している。
ルミケアルメさんは私達がいた場所に向かって、長い時間頭を下げていた。




