215. 透明だけど重機だよ
町をそのまま通り抜け、自由時間などを設けながら旅を続ける。
「あれがモーネ王国の国境関門だ」
「は、早えぇ」
3週間はかかる旅程を2週間弱でやって来ましたモーネ王国。
入国許可証と商業ギルドカードを見せ、難なく入国。
あと1日ほどでドゥルーエルさん達の故郷、ヘデルマタルハ村に到着する予定です。
「吹雪いてきたな」
「次の町で様子見するか?」
鳳蝶丸とドゥルーエルさんが空を見ながら話をしている。
「てったい、はゆ?」
結界張る?
そうすれば先に進めるよ。
「そうだな。旦那達が良ければこのまま先に進みたい。どうだ?」
「いいのか?出来るなら俺達も先に進みたい」
皆さん1日でも早く村に到着したいとのことなので、結界を張り先に進むことにした。
私を中心に直径10mの結界1を張って再び歩き出す。
「はあ。まさか吹雪の中先に進めるなんて、びっくりだわ」
「しかも寒くなくて快適だぜ」
イルマさんとコトカさんがキョロキョロしながら歩いていた。
私の結界は温度設定が適温になっている。でも道に積もる雪が結界内に入ってくるからか、いつもよりヒンヤリ寒いと感じる。
吹雪いている外の温度を考えると、結界内はかなり暖かいけれどね。
まあ、過ごしやすく歩きやすいなら多少ヒンヤリしていてもいいのかな。
先に進むごとに吹雪が酷くなった。
ポカポカ石でも対処し切れず積雪が多くなり、何となく道がわかると言う程度。
しかもホワイトアウトで前後がわからなくなっている。
でも大丈夫!
私には地図があるもん。
初めてこの世界に来た時よりも地図の性能が上がっているので、地形は広範囲確認できる。
もちろん街道も表示されているよ。
この地図は私と鳳蝶丸達だけ閲覧可能にしてあるので、皆の足取りに迷いはない。
「どんどん進んでいるが大丈夫か?」
「方向は把握している。問題ない」
昼か夜かわからないほど真っ白な世界を皆で黙々と歩く。
私はミスティル抱っこで快適です。
申し訳ありません。
トイレや昼休憩をはさみながら先へ進み夕暮れに差し掛かる。
次の休憩所で泊まろうかと思ったものの、積雪が凄くてテント張りにくそう……。
何とかならないかな?
うーん………。
よしっ。
少年達の憧れ、重機にしよう!
と言ってもそのものではなく、魔法創造だけれど。
[除雪]
私の移動する方向3m前を除雪する
『スノープラウ式』と『ロータリー式』に切り替えられる
止める時は解除
んではやってみましょう。
「じょしぇちゅ、しゅゆ」
「ん?何だ?お嬢ちゃん」
「除雪ですか?」
「うん」
街道の道幅に合わせ[除雪]スノープラウ式!
ゴゴゴゴゴゴ……
目には見えないけれど、ブルドーザーのようなものに雪が押され、私達の3m前に大きな雪山が出来た。
これはちょっと……。前見えない……………。
はい、変更!
[除雪]
私の移動する方向3m前をスノープラウで除雪する
雪がスノープラウ部分に触れると空気に変換。
止める時は解除
うーん。
空気に変換だと環境に良くないかな?と、前から気になっていたんだよね。
わからないけど。
ええと、んー。
あっ!これならいいかも!
[除雪]
私の移動する方向3m前をスノープラウで除雪する
雪がスノープラウ部分に触れると清浄。
止める時は解除
これでどうよ。
皆に立ち止まってもらい、除雪解除。
そして、もう一度。新[除雪]を発動!
ゴゴゴゴゴゴ……
除雪のそばから雪が消えていく。
しかも雪指定なので、街道のポカポカ石を傷付けることなく進む。
「しぇいとう、でしゅ」
フンンッ!
成功です。
鼻息荒くドヤァする。
【雪原の青】の皆さんは固まっている。
あ、あれ?
なんか寂しくなって、自分でパチパチ拍手をすると、鳳蝶丸達が凄い凄いと拍手をしてくれた。
「さすがお嬢。歩きやすくなったな」
「主さん、ありがとう」
「我が姫は可愛いだけじゃなくて、素晴らしいアイデアを持っているね」
「歩く速度を上げられますね。主殿に感謝します」
「…………………」
ミスティルは無言スリスリタイムに入りました。
「こ、これは、どうなっているんですか?」
「お嬢が歩きやすくしてくれている」
「えっ。ああ……えええ?!」
「吹雪の中で街道の石を見られるなんてな…」
メツァさん、コトカさん、ドゥルーエルさんがポカポカ石を凝視している。
「とおい、しゅじゆ。またちゅもゆ」
「俺達が通り過ぎればまた雪が積もるとお嬢が言っている」
除雪したってこの吹雪だもん。
またガッツリ積もると思うよ。
めっちゃ快適に、円形の休憩所に到着しました。
到着するのは真夜中かな?って思ったけれど、18時過ぎに着いたよ。
休憩所近辺の雪を全部清浄して消し、直ぐに結界1を張る。
付与はいつもの通り。ただ、雪が結界の外側に触れると清浄で消去にした。
空気に変換は当分止めようと思います。
まずは各自軽装に着替えて集合です。
この場所でドゥルーエルさん達と最後の野営をするんだけれど、折角なのでプチバーベキューにしようと思います。
今日はホカペ無し。
お着替えブースとトイレテントとカモフラテントを出し、結界4(立体)でテントを地中まで囲って転倒防止をしたらお終いです。
「今日はバーベキューにするらしい」
「バーベキュー?って何だ?」
「まあ、任せてくれ」
焚き木台やバーベキューコンロ数台、簡易テーブル数台、食器類(木製)、ゴミ箱を出す。
今日はホットカーペットにしていないから、食事用のテーブルはミールナイトの屋台で出した足元が暖かくなるテーブルだよ。
簡易テーブルの1つは飲み物用。
鳳蝶丸とレーヴァが張り切ってビールサーバーやワイン、ハイボールを用意している。
もう1つのテーブルには食べ物を色々用意した。
タレ漬けのお肉を数種、ソーセージ、野菜、魚介類、野菜スープなどなど。
最後は焼おにぎりにするよ。
「好きな物をこのバーベキューコンロで焼いて食べてください」
ハルパがお肉を、ミルニルが海鮮を、ミスティルが野菜を焼き出す。
「飲み物も好きなの飲んでくれ」
「ビ、ビールか?」
「ワインもある!」
「アタシ、野営で酒を飲んだことない」
「でも宿に泊まるより快適な部屋もあるし、いいよな?リーダー!」
「ああ。翌日に残らない程度にしろよ」
ユスタヴァさん、メツァさん、イルマさん、コトカさんがワクワクしながらドゥルーエルさんに許可をとっていた。
「はあぁ、いい匂い」
お肉が焼けてきたよ!
スルカさんが深呼吸くらいの勢いで匂いを嗅いでいる。
わかる、わかる。
私もお腹が空いた会社帰り、焼肉屋さんの前で深呼吸したもの。
んふぅ。
本当にいい匂い!
「あとは自分で焼いて食べて」
「いいのか?」
「ああ。無くなったら言ってくれ。補充する」
「野菜も食べるんだよ?お嬢さん」
「は、はい」
レーヴァが微笑むと、イルマさんが頬を赤らめる。
罪な男だねえ。
お肉や野菜を沢山食べ(させてもらっ)て、お腹いっぱい手前です。
私はそろそろ〆にしないとアレが食べられなくなりそうなので、鳳蝶丸にバーベキューコンロまで連れて行ってもらいます。
そう!〆のアレ!
豚の角煮入り焼きおにぎりを焼き始めるのだ!
きつね色になったので、鳳蝶丸に刷毛で醤油を塗ってもらう。
ジュワァア〜
素敵な音とともに、焦がし醤油のめっちゃ良い匂いが漂っている。
はあぁ。
美味しい匂い!
「そ、それはなんて料理だ?」
「すっごい良い匂いー!」
鳳蝶丸がおにぎりを裏返し、また刷毛で醤油を塗る。
「ヤ、ヤバイ。俺にももらえるか?」
「わかった。ここにトングと醤油と刷毛を置いておく。自分で焼いてくれ」
「わかった!」
鳳蝶丸がバーベキューコンロに焼きおにぎりを置いていく。
そんなに食えないかも?と言うドゥルーエルさん達に、残りは全部自分達が食べるから問題ないと返事をしていた。
うん。大丈夫。
鳳蝶丸達、沢山食べるから。
私はベビーチェアに座らせてもらい、麦茶が入ったストローマグを出す。
「熱いからな」
「あい」
鳳蝶丸がお箸でおにぎりを小さく割って、フーフーしながら食べさせてくれる。
モグモグ……
「ん~、おいちい!」
「良かったな。熱くないか?」
「あい、だいじょぶ」
時折麦茶を飲みながら、焼きおにぎりを1個ペロリと平らげた。
「うわっち!熱っ!ハフハフ、んんまい!」
「お肉入ってる!」
「お肉柔らか〜い」
「この穀物は、肉が巻いてあったやつと同じ?腹持ちも良いし、凄く美味いよな」
【雪原の青】も気に入ったみたい。皆さんおかわりをしていた。
私は1個でお腹いっぱいになっちゃった。
そして眠い…。
「もう寝ような」
「うん……むにゃ」
「お嬢を寝かせてくる」
「わかりました」
鳳蝶丸に抱き上げられてカモフラテントに入る。
「お嬢。眠る前に転移の門戸を開いておいてくれ」
「あいぃ」
お腹いっぱい。眠い。心地よい。
カモフラテント内で転移の門戸を開き、寛ぎの間を通り過ぎたくらいでわからなくなった。
お休みなさい。




