213. んー、どうでしょう?
「ドゥルーエル達じゃねえか」
「久しぶりだな」
「ああ」
団体さんから3人ほど人が来て、ドゥルーエルさんに声をかけてきた。
「こんなところで野営か?」
「いや、お前たちこそ。商隊がこんなところで野営とは珍しいな」
「少し前に雪狼の襲撃を受けた。1匹が上位種で討伐に時間がかかっちまって」
ああ、あの雪にあった痕跡!
戦っていたのは商隊の皆さんだったんだね?
「怪我人は?」
「俺達は軽傷で済んだんだが、ポロンが数頭ヤられちまった」
襲撃の際にポロン(小型のトナカイ)が数頭犠牲になったためスピードが出せず、予定していた町まで辿り着けなかった。
そして商隊長が暗い中進むのは危険と判断し、休憩所で野営することにしたらしい。
「で、お前達はどうしたんだよ」
「ああ、俺達は……」
私達の護衛をしつつ、田舎に帰る途中だ(と言う設定にした)と説明する。
「どうして前の町で泊まらなかった。次の町までかなりあるぞ?」
「問題ありません」
ハルパが話に加わる。
「私達の中に強力な結界を張れる者がいますので」
「雪も魔獣も防ぐから問題なく野営出来るんだ。アブライセからここまで町にほぼ泊まらず、1週間くらいなんだぜ」
「は?嘘だろ……?」
「嘘じゃねえよ」
コトカさんが何故か自慢げに胸を張る。
商隊の冒険者さんはコトカさんを少し胡乱気な目で見つめていた。
普通じゃない速度で進んでいるから信じられなくても仕方がない。うん。
そんなことより、このままだと商隊の皆さんが凍えちゃう。
何かしらの対処をしていたとしても、めちゃくちゃ寒いよね?
ハルパ、ハルパ。
私達のみ快適ってちょっと気分が良くないので、商隊さん達にも結界張るって言ってもらえますか?
冒険者同士で話をしている間にハルパに耳打ちする。
「わかりました」
ハルパが私の頭を撫でながら頷いた。
「商隊全てを包む結界を張ることができますが、どうしますか?」
「へ?」
「主殿から許可が出ました。貴方達が希望すれば結界を張っても良いです」
「なにっ!本当か?」
「これから私達用の結界を張りますのでご検討を」
[桜吹雪]でかたまって、誰が結界を張ったのかわからないようにする。
そして休憩所の半円を覆うくらいの結界1を張った。
私達と【雪原の青】以外立ち入り禁止、物理・魔法攻撃完全防御、雪は結界に触れると同時に空気へ変換。
取り敢えずこれでいいかな?
ハルパとレーヴァ、ドゥルーエルさん、メツァさんが、商隊護衛の冒険者さん達がいる結界の外側に出る。
私達は結界の中側から会話に参加した。
「結界を張りました。君達は結界に入れません」
「物理・魔法攻撃も効かないようになってるから、試してみるといいよ」
ドゥルーエルさんの知り合いさんが手を伸ばし結界に触れる。
コンコン
軽く叩いて感触を確かめていた。
商隊護衛の1人が人のいない場所目がけて矢を放つ。
矢はバキッと折れて、雪の上に落ちた。
もう1人が人のいない場所へ向けて魔法を放つ。
尖った氷の矢は粉々に砕けてパラパラと雪の上に落ちた。
「すげえな。完璧だ。それに結界の上に雪が積もらないんだな」
「ああ。何度か結界内に泊まったが、不思議なことに雪は全く降り積もらなかった」
「一晩中でも魔力の維持に問題はないか?」
「問題ありません」
「詳細は聞かないでほしい。でも保証するよ」
ハルパとレーヴァの言葉を聞いて冒険者さんは少し考えている。
そして結界を頼むとしていくらだ?と聞いてきた。
んー、どうでしょう?
結界張るっておいくらなんでしょう?
この世界の結界師達は結界を張っている間魔力を使い続けているって聞いたことがある。
けれど私は1回張っちゃうと魔力を使わない…いや、そもそも魔力じゃなくて使っているのは神力だし。
そして神力、魔力ともに沢山あるから気にしたことないと言う。
贅沢ですみません。
「コトタしゃん、あのちとたち、ちってゆ?」
「貴方はあちらの人達のことを知っていますか?」
「ん?ああ。両方知っているぜ」
商隊を組んでいるのは、ケープィ商会。
小さい村は買い物も大変だろうと危険を承知であちこち廻っていて、護衛の冒険者さん達はそれに賛同し安い報酬で護衛を請け負っている人達なんだって。
「じゃあ、おたね、いなない」
「金はいらないってさ」
「えっ!」
私達も行商人で、その考えに賛同できるから無料でいいよ、と伝える。
地図を見ると、3人の冒険者達は青点で、他は白点。
黄色も赤もいないし、それでいいかな。
「ちょっと待ってくれ。商隊長を連れて来る」
そう言って3人の冒険者達が戻って行く。
私はその間に自分達の野営準備をするのだった。
「初めまして。ケープィ商会の商隊代表マンシッカと申します。我らと共に野営されると聞き、ご挨拶にまいりました」
「はじめ、まちて。しゃくやふぶち、ゆちでしゅ」
「屋号『桜吹雪』代表、ゆき。俺達は鳳蝶丸、ミスティル、レーヴァ、ミルニル、ハルパだ。よろしく頼む」
商業ギルドカードを見せてくれたので、私達もカードを提示する。
「!!優秀商の皆様でございましたか!まさかお話し出来るとは」
マンシッカさんは30歳代くらい。少しふくよかで優しそうな印象だった。
日頃は人に対してやらないんだけれど、念の為コトカさんの言葉通りか鑑定させてもらう。
すると優しい、誠実、真面目、少し強引と表示された。
うん。
商人は強引くらいじゃないとね?
「結界を張ってくださるとお聞きました。魔力を使い続けることになるのでしょう?皆様のご負担になりませんか?」
「問題ない」
「そうですか。安心いたしました。それではぜひお願いしたいのですが、無償ではなくお支払いをいたします」
「お嬢がいらないと言っているので無償でいい」
「いや、しかし…」
「じゃあ、おしゃて、くだしゃい」
「おしゃて?」
そりゃ良いなと、鳳蝶丸達が喜ぶ。
「手持ちの酒を少し分けてくれるか?果実水でもいい」
「お酒と果実水ですね?珍しい酒が手に入ったので、そちらをお譲りいたします」
珍しいお酒って、沢山無いんじゃないの?
普通のでいいからね。
交渉が成立し、結界を張ることになった。
一旦皆さんに街道へ出てもらい、私達とは反対側の休憩所半円とその向こうの雪原に結界4(平面)を張る。
半円側にホットカーペット(弱)を設置。
そして雪原側も含めて全部覆うくらいの結界1を張った。結界はあらゆる攻撃防御、雪は結界に触れたと同時に空気へ変換、入ると同時に清浄。
結界内は暖かくし過ぎるとヒートショックが怖いし、再び外に出た時辛いので適温から変更はなし。暖はホカペ(弱)でとってね。
あとポロンは結界の外に出られないにして、迷子にならないようにする。
商隊さん達の方はカーペット上でも土足オッケー。結界に入ると清浄にしてあるから問題無いしね。
私達側を土足厳禁にしたのは、寝っ転がりたいのと靴を脱いで寛ぎたいからだよ。
あとは男女両方の貸し出しトイレを出して、結界4(立体)を地中まで張り倒れないようにする。
取り敢えずこれんなもんでいいかな?
「仕度できたよ。ただ、テントはペグを打ち込めないから気を付けて」
「何か不都合があったら言ってくれ」
「あ、あ、あ、ありがとうございます。手際の良さに驚きました。このテントは?」
「それは俺が説明する」
コトカさんがトイレの使い方案内係に名乗りでる。
女性用のトイレはイルマさんとスルカさんが説明してくれるって。
問題無さそうなのであとのことはお願いして、私達の野営準備の続きをしよう。
トイレテントは出したから、次はお着替えブース、カモフラージュテント、簡易テーブル、ゴミ箱などを出し仕度が終わった。
今日は何食べようかなあ。
ん?
商隊側の結界内が大騒ぎになっている。
結界に入ったら身体が綺麗になった!
外にいると思えないほど快適だ!
足元が温けえ!
なんだこのトイレは?臭くない!
そうでしょ、そうでしょ。
身綺麗になる気持ちよさと清潔なトイレを堪能してください。
するとマンシッカさんと護衛の皆さんが、ポロン達を広場外側の結界に誘導してからこちらの結界にやって来た。
「商隊従業員、冒険者の皆様、ポロン達も安全に夜を過ごせます。何と感謝を申し上げれば」
「よたったね」
「ありがとうございます」
マンシッカさんが深々と頭を下げる。
「どうじょ」
「は、はい」
簡易テーブルと椅子を出して座るようすすめると、皆さんが上着を脱いだ。
上着を床に置こうとするので、ハンガー掛けをすすめる。
それから、こちらでは靴を脱いでくださいね?
皆同じ理由で躊躇するけれど、清浄&治癒してるので大丈夫です。
ミスティルに、紅茶とラングドシャ入りの焼菓子セットを出してもらう。
「お茶、どうじょ」
「恐れ入ります」
マンシッカさんが何と素晴らしい!と紅茶の香りを堪能し、こんなに美味な焼き菓子は初めてですと言いながらクッキーを食べる。
護衛の皆さんは最初手を付けなかったけれど、マンシッカさんに食べないと後悔しますよと言われ、嬉しそうに食べ始めた。
「う、うまい……」
「だろ?」
何故かコトカさんが胸を張り、ウンウンと頷いた。
「改めまして、我らの安全を確保していただき感謝いたします。こちらは先程言った御礼の品となります。どうぞお収めください」
簡易テーブルに色々な品が載せられた。
お酒数本と果実水、チーズ、そしてカブのような野菜等。
「やしゃい、ちちょう」
「野菜は貴重な品では?」
「はい。ですので、御礼に良いと………」
「いや、俺達に必要ない。困っている者達に売ってくれ」
「あの、良いのでしょうか?」
「ああ。その他の物はありがたく受け取るが、野菜はいらん」
「ありがとうございます。それではこちらの野菜はお客様にお売りいたします」
マンシッカさん達は、小さな村々を中心に回っていて、次の村でもお店を開くらしい。じゃあ、ついでに私の野菜セットを小さな村々に持って行ってもらおうかな?
「まだ、にもちゅ、増やしぇゆ?」
「まだ荷物を増やせますか?」
「え、ええ。今まで寄った村々で卸しているので、ソリの一部は空いております」
「やしゃいしぇっと、売ゆ、おねだい、ちたい」
「お嬢が保有している野菜セットを小さな村々へ持って行ってもらいたい」
「えっ!」
商業ギルドに野菜セットを卸していることを説明し、小さな村々に行くなら持っていってほしいとお願いする。
野菜セット1つ、じゃがいも処理方法カードを出して見てもらう。
「こんなに素晴らしい情報を簡単に教えていただいて良いのですか?」
「姫が良いと判断したから問題ないよ」
「………」
マンシッカさんが、一瞬だけ何故幼女の言う通りに?という顔を浮かべる。
「…う、んん。我が連合王国に野菜を卸してくださって感謝申し上げます」
でもすぐに切り替えて、私に御礼を言った。
野菜セットは商業ギルドより少し安い値段で載せられるだけ買い取ってもらい、売値を高くしないようお願いする。
地図ではマンシッカさんの表示が青点なので、高額転売とかの問題はなさそう。
「これほどの新鮮な野菜を安価でお売りいただき、重ね重ねありがとうございます」
「どういたち、まちて。おしゃて、ジューシュ、あにあと、ごじゃい、ましゅ」
こちらもシェルド王国の名酒と果実水をいただきました。
ありがとです!




