207. さかな、さかな、さかな お魚定食ぅ
役所の書状があったからか、審査にアッサリ通って入国の許可がおりた。
ウキウキしながら門をくぐる。
でも辺りは暗く、アブライセの町には人がほとんど歩いていなかった。
地図で冒険者ギルドを探索したけれど、野営地は無いみたい。
この町の冒険者ギルドには野営地を作っていないのかも。
だって極寒だもんね?
「どこか宿屋を探しますか」
「人、しゅつない。転移しゅゆ」
人が少ない場所から転移しちゃおう。
皆も賛成してくれたので、街角の死角部分からテントに帰った。
テントに新たな現地時計(ソールヴスティエルネ連合王国用)を作り設置する。
あとはご飯を食べたりお風呂に入ったりしてから眠ります。
お休みなさい。
翌日、ミスティル抱っこでアブライセに戻る。
せっかくなので朝ご飯を食べて、午前中にこの町を出発しようと言うことになった。
ミールナイト周辺は初夏になりつつあったけれど、この辺りは今秋口で、これから雪深い冬になるらしい。
「しゅんでゆ、しゃむい?」
住んでいる人たちは寒くないのかなあ。
この町は石造りの家が多い。何だか冷えそうな気がするよ。
するとミルニルが石について教えてくれた。
「あの建物に使っている石は魔素を吸収して熱に変換する。それで少しずつ熱を放出する性質があるよ」
「あたたたい?」
「うん。少しだけ温かい。道にも使われているみたいだから雪があまり積もらないよ」
おお!ファンタジーな石!
あ、金剛鋼鉱石もそれに近いよね?たしか魔力を貯める鉱石だったはず。
この世界には地球に無いものが沢山あるんだねえ。
あの石を使ったら床暖房になりそう。
ん?あれ?私のホットカーペットなんかいらないのでは?
何で貴族の人が欲しがったんだろう?
皆に聞いてみると、あの石は中心部が熱く表面は少し温かい程度なんだって。
じゃあ薄くカットして使えば?って聞いたら、薄い板にしてしまうと強度が下がるので建築資材に向いていないらしい。だから厚めに切り出すしかないみたい。
何となく暖かい程度じゃホットカーペットの方がいいよね。
ホットカーペットは強まで設定出来るから、かなり暖かくなるもんね。
「おしゃたな、あゆ?」
「魚か?この町は漁港もあったと思うから行ってみるか。近くに店があるだろう」
漁港方面に向かうと、焼き魚の匂いが漂うお店が沢山あった。
店舗内でも食べられるし、お持ち帰りも出来るみたい。
その中でもお客さんが沢山いるお店を選び、店内に入ってみる。
「おはよう。観光で来た者なんだけど、食事は出来るかい?」
レーヴァがお店のお姉さんに声をかける。
「もちろんよ!どうぞどうぞ!」
お姉さんは頬を赤らめながら席に案内してくれた。
店内は多分漁師さん達かな?と思われる男性達で溢れかえっている。
上着を脱いでいるから筋肉モリモリでガタイが良いのがよくわかった。
最初私達をジロジロ見ていたけれど、お姉さんが「お客さんを睨むんじゃないよ!」と一喝すると、スーッと目を逸らす。
「この時間に漁師以外は珍しくて。ごめんなさいね」
「いや。俺達お邪魔だったかい?」
「まさか!大歓迎よ!と、言っても地元料理しか無いけどいいの?」
「それが食べたいんだよ」
メニューは定食が3種類。パンとスープは一緒でお魚が違うみたい。
何の魚かわからないから全種類を2つずつ、飲み物は皆がエール、私はお水を頼んだ。
「観光なんだって?何も無い町に来るたあ、あんちゃん達も物好きだなあ」
食べ物を待っていると、近くにいた男性から声がかかる。
「細かく言えば商売と観光。俺達は行商人だ」
「行商人?言っちゃ悪いが………見えねえぞ」
「よく言われる」
鳳蝶丸がニッと笑ったところでお姉さんが飲み物と料理を運んで来る。
「ちょっと!失礼なこと言ってんじゃないよ!ごめんねえ、お嬢ちゃん。はい、お水。朝食はどれ食べるの?」
「俺達のを分けるから、適当に置いてくれるか?」
「わかったわ!」
全部で6個の定食がテーブルに並ぶ。
お姉さんが取り皿を持ってきて、私の前に置いた。
「ウチの魚は美味しいよ!いっぱい食べてってね」
「あいっ」
「可愛いっ。これはお嬢ちゃんにおまけ」
小さなお皿に数粒の果物がのっていた。
よく見ると丸くて小さなベリー類?形はプチトマトに似ている感じ。
「これはインディベリー。ウチの庭で実ったんだよ」
「いいの?」
「いいの、いいの。アタシら家族は沢山食べたから遠慮しないで?ちょっとしか残ってなくてごめんね」
「あにあと!」
フフフ、と笑いながら厨房に戻るお姉さん。
「では、熱いうちにいただきましょうか」
「いたーち、ましゅ!」
3つの定食は、煮付けと塩焼きと干物だった。
どれも美味しそう!
皆が魚をほぐして骨抜きしてくれる。
ほぐした身はミスティルが食べさせてくれた。
ん~。
全部美味しい!
身が締まっていて旨味が濃く、脂が程良くのっていて身に甘みも感じる。
「おいちっ」
モグモグ……。
「美味しいですか?」
「うん、おいちい」
気がつくと、周りの漁師さん達もほんわか和やかな笑顔をうかべていた。
「おじたん、おちもと?」
「貴方達はこれから仕事ですか?」
「いや、おじさん達は仕事が終わって朝食だよ」
漁師さんだから、もう海でお魚を獲って来たんだね。
「まじゅう、怖い、ない?」
「海の魔獣は怖くないですか?」
「心配してくれてンのかあ?可愛いなあ」
「おじちゃん達はそこら辺の冒険者より強いから大丈夫だぞ!」
わりと薄着をしている漁師さん達が、一斉にムッキムキポーズで筋肉を盛り上げた。
「おおーっ」
パチパチパチ。
思わず拍手。おじさん達は照れ笑いしている。
何だか可愛いなあ。
「魔獣といや、昨日アンデッドが一掃されたらしいな」
「お前ンとこの弟は船舶護衛だっけか?」
昨日の浄化のことかな?
「ああ。昨日は大群だったから死ぬ覚悟をしたらしいんだが、船舶護衛の冒険者以外が一掃しちまったらしい」
「護衛の冒険者以外がか?」
「詳しくはわからん。弟の位置からその人らは遠かったし、フードや帽子で顔は見えなかったってさ」
「へえ」
「俺達の漁場辺りにゃ出ねえが、定期船が通る海域は時々襲われてたからな。一掃されて良かったじゃねえか」
「まあ、一時的なモンかもしれんがな」
「護衛のリーダーによると、暫くは出て来ないだろうが、復活もあり得るから気を緩めないようにと言っていたらしい。あと一掃してくれた人達はとても尊い人達なので失礼の無いように、とも言っていたらしいぞ」
「尊い人達って何だ?王族とかか?」
「わからん」
わー!
ハイエルフの血縁者、やっぱり恐るべし!
「そういや、弟が言ってたけど。その人達は小さい赤ん坊を連れていたって…」
「えっ………………」
……………………………………………………。
「ん?俺達は昨日野菜販売をしていたぞ」
皆にじーっと見つめられたけれど、鳳蝶丸が即売会の件を持ち出す。
嘘は言っていないよ。うん。
「だよねえ。王族がこの店に来るわけ無いよね……って野菜!?」
「野菜を売っているのか?」
「行商人だからな」
お姉さんが売って欲しいと言うので了承する。
じゃがいも食べる?って聞いたら、もちろん食べるよと言った。
「貧乏人だからねえ」
やっぱりそういう感覚なんだね。
ミスティルにじゃがいもの処理方法カードを出してとお願いする。
「じゃがいもを食べてお腹壊したことはありますか?」
「アタシは無い。この辺りは皆丈夫なんだよ。でも年寄りや子供は体調を崩すから食べさせないようにしてる」
「じゃがいもはこのように扱えば安全に食べられますよ」
「えっ、芽を抉る?そうすれば安全なの?」
「そうです」
漁師さん達の中には字が読めない人もいるけれど、絵が本物みたいだし大きな丸やバツが書かれているのでわかりやすいと喜んでくれた。
「近々じゃがいも料理のレシピも商業ギルドから売り出されますよ」
「そうなんだ!楽しみだねえ」
漁師さん達もカカアに言っとくか、などザワザワしていた。
「やしゃい、売ゆ」
「ホントにいいの?商業ギルドに販売の許可を貰わなければまずくない?」
「わたちたち、じょうちょうにん、へいち」
「私達は行商人なので大丈夫です」
商業ギルドカードを提示する。
「優秀商?!優秀商の方達なの?」
お姉さんがめちゃめちゃ吃驚している。
一部の漁師さん達も驚いていたけれど、優秀商って何だ?と不思議そうにしている人もいた。
「馬鹿、お前優秀商を知らないのか?魚を売ってンのにマズイぞ、それは」
「だってよ。俺、魚獲る以外はカアちゃんに任せてンもん」
すかさずツッコミを入れる漁師さんもいる。
「優秀商ってのは、価格も独自に決められるし、貴族や王族…………」
「王族…」
「王族…」
「いや、違うから。王族が行商人にはならないよ」
そっ、それもそうだよな!
皆さんはやはりそこに引っかかっちゃうのね。
優秀商は大きなキャラバンを組むんじゃないのかい?と聞かれる。
私達はこのほうが動きやすいし、今のスタイルが合っているとレーヴァが説明していた。
優秀商のキャラバンってどんなのだろう?豪華絢爛なのかな?
参考までに一回見てみたいなあ。




