106. 大好評!初めての甘味は刺激的
次は、ハニーナッツバター。お手本は鳳蝶丸。
クレープを焼きながら、バターを塗りキャラメリゼナッツを散らし、ホットハニーをかける。パタンパタンと三角にして、予め三角に折ってあった紙に滑らせながら入れて完成。
「さっき練習していたのは次の工程があるが、これはこの形で完成だ」
アスナロリットさんに差し出した。
「このまま手で持って食べるのですね?」
「ああ。さっき作っていたのも最終的に持ち歩けるようになる」
ほお、と感心するアスナロリットさん。
レーネお姉さんがビックリした表情で質問してきた。
「甘い食べ物が持ち歩けるの?」
「そうだね。手軽に食べられる形になるよ」
レーヴァが肯定する。
「甘い食べ物を手軽に……」
「前に食べたケーキ?もそうだけれど、凄い贅沢だよね。そんなこと、ゆきちゃんしか出来ないよ」
リンダお姉さんが肩をすくめる。
「しょう?今、むじゅかちい。でも、いちゅか、かなう?砂糖なゆ、植ぶちゅ、見つけゆ、ちて?」
「?」
通じなかったのでミスティルに説明してもらう。
今は難しくても甘い食べ物が手軽に食べられる夢はいつか叶うのでは?
まずは砂糖になる植物を探すといい。試行錯誤して砂糖を抽出できれば、それほど珍しい物では無くなる日が来る。
「そうか。無いからとそのまま受け入れ諦めるのではなく、どうにかできないかと手探りしてみるのが重要なんだね?」
「うん、しょう!」
何かを発見した人、こうなったら便利で良いと思った人、為せば成ると信じた人達が、皆諦めず頑張ったから地球の文明が進んだんじゃないかな?
ただ、便利なものと思い発明したら、人類に影を落とす武器になってしまった事もあるから諸刃の刃な部分もあるけれど。
鳳蝶丸にハニーナッツバタークレープをちょっと温めてもらって、皆さんに切り分け食べてもらう。
!!!!!!……………………。
「どう?」
「美味しい!美味しいです!」
【虹の翼】のお姉さん達もアスナロリットさんも悶えながら食べていた。
「香ばしい木の実の香りと歯ざわり。それを包み込む独特な味の蜜。バター?の甘やかな香り、そしてサッパリしているのに深い味わいのハチミツ!全てが合わさって織りなす美味しさ!完璧です」
アスナロリットさんはダバーッと涙を流していた。
「本当に本当に美味しいよ。何個でも食べたくなる」
「ずっと口に入れていたい」
レーネお姉さんもミムミムお姉さんも目を瞑りゆっくりと味わっていた。
「こんなに美味しいお菓子を初めて口にしましたわ」
「王都にも無いよね」
「ああ、終わっちゃった。儚い………」
エクレールお姉さんもローザお姉さんもリンダお姉さんも、名残惜しそうに最後のひと口を食べていた。
「これで終わりじゃない。作ったクレープに仕上げをするからな」
「はっはいっ!」
お手本はレーヴァ。
先程皆が焼いたクレープに生クリームやアイス、ケーキ、果物を入れ、果実のソースをかけ丸め、スタンダードタイプの飾り付けをする。
桜吹雪のペーパーを巻いて、桜吹雪の焼印がついた小さな木製スプーンを添えれば、オレンジクレープの出来上がり。
続けてイチゴクレープも作る。
「美しい…何と美しいのでしょう。まるで、美しく豪華な花束のようです」
「この赤や橙色のは何?宝石みたい」
リンダお姉さんがソルベを指したので、果汁を凍らせたものだと伝えた。
「旦那には俺が教えるから、早く覚えて他のヤツにも教えてあげてくれ」
「わかりました」
「お嬢さん達には俺が教えるね」
取り敢えず、作ったものは無限収納に入れる。
失敗したものだって、食べれば美味しいんだから仕舞っておくよ。
鳳蝶丸はアスナロリットさんが綺麗に盛れるようになったところで、マンゴーの薄切りを教え始める。
そこはやはり料理人。鳳蝶丸の薄切りには遠く叶わないけれど、見栄えの良いくらいには切れるようになった。
今度はそのマンゴーで花形作り。
繊細な作業だから最初は苦戦していたけれど、これもクリアした。
「食べ物にこんな飾り方があるなんて」
「やしゃい、しゃかな、お肉、出来ゆ。おみしぇ、出してみて」
「野菜、魚、肉でも花形に出来るからお店で出してみて。と主は言っています」
「良いんですか!?」
「うん、いいよ」
「お客様も喜ぶでしょう。ありがとうございます」
あとは自分で工夫してね。
「中は同じだが、こうすると豪華になる」
「うわあ!綺麗!」
アスナロリットさんがオレンジとイチゴのお花バージョンを作る。鳳蝶丸ほどではないけれど、なかなか綺麗に出来ている。
「食べるのが勿体無い」
「でも溶ける前に食べなくちゃ」
「儚い美しさが良いですね」
ミムミムお姉さん、リンダお姉さん、アスナロリットさんが呟いた。
確かに可愛いと崩したくなくなるよね。
「こえ、屋台、出しゅ」
「値段はいくら?」
ローザお姉さんが慎重な面持ちで聞いてきた。
何でだろう?
「姫はスタンダード8百エン。デラックス1千2百エン、ハニーナッツバター6百エン。アイスのシングル3百エン、ダブル5百エン。あと、唐揚げは2種どちらも6百エン。フライドポテト3百エンと決めているよ」
「やっぱり……」
「んう?」
「ゆきちゃん、ちょっと安すぎる。その値だと、我先に買おうとか買い占めようとかそんな輩が溢れるよ」
「でも、平民のちと、食べてほちい。ほんとは、もっと安い、ちたい」
ローザお姉さんがうー、うーん……と唸りだした。
「わかた。結界、張ゆ。なやばない、買いちめ、転売しゅゆ、結界、入えない。看板立てゆ」
「そうですね。身分の高さ関係無く、列に並ばない、横入り、不当な買い占め、転売目的の者は結界に入れない、にすれば抑止力になるでしょう」
「他人が買ったものを無理矢理横取りしようと行動を起こすと【天罰!ラヴラヴズッキュン】も追加な」
「しょえ」
いいね!
【天罰!ラヴラヴズッキュン】発動させちゃおう。
一応今回は、お祭りの期間限定にするよ。良いよね?
「【天罰!ラヴラヴズッキュン】とは?」
ローザお姉さん達が困惑したので、悪いことをするとどんな事になるのかレーヴァが説明した。
「…………怖い!」
「絶っっっっっ対やりたくない!」
「だから追加するんですよ」
「今回は期間限定だからさ。うっかりやっちゃっても解除されるし」
「そういう問題?」
ミムミムお姉さんとレーネお姉さんが叫び、ミスティルとレーヴァの言葉にリンダお姉さんのツッコミが入る。
「あの、ついでに、祭り期間中のスリや窃盗、暴力などの犯罪にもその処罰を追加しては?」
「それは町の衛兵の仕事じゃないか?」
「そ、そうですね」
アスナロリットさんの意見に鳳蝶丸が答える。
今のところは私達の屋台に関すること限定で、と言うことにした。
「その件については、フィガロギルド長とビョークギルド長に言っておいたほうが良い気がするよ?」
「わかた!」
念押しでローザお姉さんに言われたので、ちゃんと伝えることにしまーす!
調理の練習はひと通り終えたので、ミムミムお姉さんとリンダお姉さんのご家族を交えて試食タイムです。
リビングに行くと皆さんが待機していた。
「甘くて良い匂いがずっとしてたからお腹が空いちゃって」
ミクミクさんがお腹を擦っている。他の皆さんもウンウンと頷いていた。
「これから試食して感想を言ってほしいんだ。いいかな?」
レーヴァのお願いに、皆さん「はーい!」と元気な返事。
「まず皆席についてくれ。清浄する」
ダイニングへ移動。皆さんワクワクしながら楽しみだと口々に言っていた。
席につくとすぐに清浄。
まずは飾り付けを失敗したものから出す。
「多少不格好だが、味は保証する」
「うわあ!綺麗!」
「これが食べ物なの?お花みたい!」
「きゃー!」
子供達も大興奮である。
失敗したものでも充分綺麗に見えるんだね?
オレンジ、イチゴ、ハニーナッツ、それぞれ好きなものを選んでもらった。
2家族で全種類選び、皆で分けるみたい。
「では……………」
!!!!!!!!!!
ひと口を食べると、皆さん固まってしまう。
「だ、大丈夫?お父さん?お母さん?」
「息してる?ミイ義姉さん、大丈夫?」
ミムミムお姉さんとリンダお姉さんが慌てている。
すると、皆さんがダーッと泣き出した。
「美味しいものを死ぬまでに食べられるなんて」
「こんなに甘くて美味しい食べ物を食べられる人なんてそうそういないよ」
「一生に一度でも口にできて嬉しいよ」
「びっくりさせてごめん、ゆきちゃん。皆感動しているんだよ」
「平民は、こんなに甘くて美味しいものは食べること出来ないからね」
リンダお姉さんとローザお姉さんがしみじみとして言った。
今後、いつか皆普通に口にできるようになれば良いなあ、と願う私だった。
ちなみに、皆さん全部美味しすぎて選べないということだったけれど、大人はオレンジ、子供はイチゴが人気みたい。
あと、ハニーナッツバターは皆さんに大好評だった。
そして、せっかくなので唐揚げ&フライドポテトも出したら、大騒ぎになりました。美味しいよね?唐揚げ。
アスナロリットさんが食いついたのは言うまでもなく、後日改めて作り方を教えました。はい。




