103. ワキュワキュ♪ちてきまちたぁ
「本当にコンテストに出場しないんですか?」
「あい。ちない」
「優勝すれば領主様からご褒美いただけますよ?」
「う〜ん………ご褒美、いなないかな」
フィガロギルマスから念押しされた。
でも。コンテストにはあまり興味ないんだ。競うより、皆でワイワイしていた方が私の性に合っている。
「わかりました。コンテスト不参加は残念ですが、でも、屋台を出してもらえるのはとても嬉しいです。ゆき殿の出す食事は皆喜ぶでしょう」
「ええ、本当に。一度冒険者ギルドにいらしてください。屋台を出す場所をご案内します」
「あい。あにあと」
その後、リィンさんは冒険者ギルドへ帰って行った。
フィガロギルマスが残ったので試食してもらおう。
「ヒナヨギユマシュ、食べゆ?」
「え?」
「かやあげ」
「カヤアゲ?ですか?」
「唐揚げです」
フィガロギルマスはカードを発行してくれたり、色々力になってくれているので、テントにご招待しようと思う。
「屋台に出す食べ物ですか?ええ、ぜひ、食べたいです!」
よく考えると、商業ギルド長も祭り前で忙しいと思うんだけれど……まあ、いっか。
「テント、招待、しゅゆ」
「!!本当ですか?!嬉しいですっ」
「1つだけ。アンタには珍しく見えるだろうものが沢山あるんだが、あちこち触らないと約束してくれ」
「は、はい。勿論です」
「おねしゃん達も、来ゆ?」
「ああ。お邪魔しよう」
入り口を開けてフィガロギルマスを迎える。
「!!!」
大きく目を見開いて固まり、呆然と中を眺めている。
「驚くでしょ?アタシも震えたもん。凄いよね」
レーネお姉さんがフィガロギルマスの背を押しながら入ってきた。
ベンチに座らせて、靴を脱がせて、ロッカーに仕舞って、また立たせて。
お姉さん達が一連の作業をしても、フィガロギルマスはまだ帰ってこなかった。
「ほら、しっかりして、フィガロギルド長!」
ローザお姉さんが背中をバンと叩くとフィガロギルマスがちょっと飛ぶ。
「んはっ!な、な、な、何ですか、これはーーー!」
あ、帰ってきた。
「素晴らしい、素晴らしいです!これは空間魔法ですね?何と言っても置いてある物全てが素晴らしいです!」
「あにあと」
人ダメソファに座ってもらう。お約束通り、あああぁぁ…と言うため息付きで腰を下ろすフィガロギルマス。そのまま、スヤァッと寝てしまいそう。
「ヒナヨ、ギユマシュ!」
「わかる。アタシはわかるよ。忙しくて疲れている時この椅子は危険だよね」
なぜかレーネお姉さんが納得していた。
そして、起きて起きてと頬をペチペチする。
「!す、すみません。このところあまり寝ていないもので」
「おまちゅい、ちゅかえてゆ、おちゅかえしゃま」
「祭りの準備で疲れているんですね、お疲れ様です、と言うことです」
「ありがとうございますっ」
ミスティルの棒読みの訳に、目をウルウルさせるフィガロギルマス。
お疲れなんですね。
「カヤアゲ、どうじょ」
「魔道具の試行の為に揚げたものだ。食べてみてくれ」
「はい。いただきます」
まずは塩唐揚げ。
「!!!!!」
言葉もなく、目を瞑ってザクザク味わう。
肉汁をゴックンと飲み干して、ウットリした表情を浮かべだ。
「何と言う美味しさ、何と言う贅沢。ピリリとした辛さの中に閉じ込められた肉汁の美味さ。そして歯ざわりの良いコロモのザクザクとした食感。香りよい贅沢な黒胡椒。ああ、口の中が幸せの洪水で溢れています」
「フッフッフ…これくらいで驚いちゃだめだよ?」
レーネお姉さんがチッチッチッと人差し指を左右に振る。
私は次に醤油唐揚げを出した。
「んんっ香ばしい香りが一段と食欲をそそりますね」
そしてひとくち。
「!!!!!」
大きく体を仰け反らせ、目を瞑ってサクサクと味わう。
そして、はあ…とため息をついた。
……………何か色っぽい。
「こちらもまた違う美味さと贅沢な香り!先程とは違う柔らかい肉に中までしみている香ばしい調味料。それが肉の甘味と旨味を引き立たせ、そこにニンニクと黒胡椒が更に豊かな香りとなって、至極の味となっています。美味しすぎます」
なんか、グルメ漫画みたいになってるよ!
「唐揚げも最高だけれど、もうひとつがまた良いのだよ」
ローザお姉さんがしたり顔で頷く。
私は揚げたてのフライドポテトをフィガロギルマスの前に出した。
「この細い食べ物は何ですか?」
「ジャガイモよ」
「え!ジャガイモってあのジャガイモですか?」
「あい」
「揚げたてが美味いから、早く食べたほうが良いよ」
「は、はい!」
レーヴァの言葉に慌てて口に入れる。
「熱っ!ん?んん!美味しい!お弁当に入っていたものと違い、周りがカラッとしていて、中はホクホク。塩加減は少し薄めですか?」
ふふふっ……。
じゃじゃーん!ケチャマヨチーズ、満を持して登場!!
「お好み、ちゅけて、食べゆ!」
「これは野菜につけたマヨネーですね?これは、トマトとチーズですか?」
それぞれ味わって食べている。
「だから塩味が薄めなんですね?どのソースも特徴があって、どれもこれも美味しいです!3種類のソースで最後まで飽きずに食べられる。これはやはり………」
「エールだろ?」
「はい、エールです!」
「飲むか?」
「いえ、大変残念ながら仕事中ですので…やめておきます」
すっごく残念そうに辞退した。
流石に仕事中はね?うん。
「でも、これでわかりました。確かにこのまま屋台コンテストに出ても一人勝ちというか、他の屋台に恨まれる可能性もありました」
ふむふむ、と納得しているフィガロギルマス。
いや、一人勝ちと言うか、コンテストは私の性に合わないだけです。
「この使っている肉、こちらはクルコッコの上位ですよね?あと、こちらは恐らくですが、レッドホットワイバーンではないですか?」
「しゅごい!」
1個食べただけでわかるの?凄い!
「流石にレッドホットワイバーンは食べたことはないのですが、資料に肉自体がピリッと辛く美味いと言う記事を読んだことがあります。クルコッコの上位は口にしたことがあります」
流石、商業ギルドね!
これだけ高価な材料を屋台で出す者はあまりいない。
食材の規制は無いし、品質の良いものを揃えるのもその店の手腕のうちだけれど、コンテスト出場となると少し不満が出たかもしれないと言う事だった。
「コンテシュト、やなない。自由、たくしゃん、食べてもやう」
「そうだな。お嬢は最初からコンテストに興味ないって言っていたもんな」
「おしゃけ、出ちて、いい?」
「ええ、もちろん!よろしくお願いします」
「良かた!」
詳細はまた後日、と言いながら、フィガロギルマスは商業ギルドへ戻って行った。
魔道具の試行作業は本日終了。
ローザお姉さんとレーネお姉さんも、また明日と帰って(隣の建物だけれど)行った。
「ワチュワチュ、ちてきた」
「そうだな。楽しそうだ」
「頑張りましょうね」
「うんっ」
「俺も、姫の為に張り切って勧誘しようかな?」
「あなたの場合、女性限定でしょう?」
「フフッ、野郎と話してもね?」
「得意分野を活かしてってことでお前は接客な」
「任せてくれ」
「男客の接客もしろよ」
「うん…………そうだね」
レーヴァ怪しい。
私達は何となく屋台での役割が決まっている。
器用な鳳蝶丸は中の仕事かお酒関連。
ミスティルは私以外に無愛想だけれど、何でもこなせるので窓口とお酒関連。
レーヴァは人当たりも良いし、ちょっと男性客相手が不安だけれど、接客とお酒関連。
………あれ?全員お酒関連がつく。
ま、まあ、臨機応変に。
え?私?
私は看板幼児で愛嬌振りまく係ですよ?うふふ。
 




