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1. プロローグ

小さな冒険や旅行気分を味わっていただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いします。

「ほぇ~…。う?え…、な、なんれぇー!」


 青い空~、

 白い雲~。

 キラキラキラ……


 とんでもなく美しい景色に目が奪われた後、思わず叫んだ私の声は青空にむなしく消えていった。




 両親はなかなか子供ができず、母が妊娠した時は高齢出産とされる時期だった。

 両親にとって待望の子供。甘やかしたいのは山々だが、年齢的にいつまで傍にいられるかわからないからと世間の波を渡ることが出来るよう少し厳しめに、でも愛情一杯育ててくれた。


 私が社会人になって少し経った頃、友人や同僚たちの結婚ラッシュが始まる。

 もともと結婚にあまり興味がなかったので気にせずスルーした。


 出産ラッシュが始まると相性の良い男性と出会えたらいいな、なんて思い始めた。


 そんな時に父が倒れる。

 長期にわたっての闘病。母は心労で動けず私がメインで看護した。

 父を看取ってすぐ今度は母の介護が必要になった。日々自分がわからなくなる母を見るのは辛かった。でも今度は私が今までの恩を返す順番だと思い、出来る限りのことをした。

 長い介護の末母を看取った。


 後片付けを終えたある朝ふと顔をあげると、疲れきった中年女性の顔が鏡に写っていた。

 これが今の自分なのかと愕然とする。

 もうお嫁さんは無理だなぁ、なんて父が倒れる前考えていたことを思い出す。

 結局独り身になったけれど後悔はない。

 私は両親が大好きだった。


 まぁ何とかなる。

 独りで楽しめることもあるだろう。

 友達付き合いが途絶えても、長い間恋人がいなくても、孤独に押し潰されないのは私が独りの時間を好み、マイペースで呑気だからだ。

 来年は一人旅でもしようかな、など今後の予定を考えていた。



 でも、私の人生はそんな簡単にいかなかった。



 今度は自分の調子が悪くなる。

 酷く怠く熱っぽい。頭痛、吐き気、体の痛み。

 何軒かの病院で精密検査を受けたが原因はわからなかった。

 どうにもならない体調の悪さ。

 通常の生活にも支障が出るようになり、寝込むことも多くなった。


 父、母、そして自分の体調で休みが続き、会社では良い顔をされなくなった。

 若い頃頑張って働いて築いた地位はすでになくなり、細い糸でようやく繋がっているだけ。

 呑気だった私の表情に暗い影が色濃く浮かぶようになった。


 そして今日も重く辛い身体を引きずりながらの通勤だ。

 私の会社はとある観光地にある。

 朝の駅前広場はさすがに出社を急ぐ会社員が多いが、時折、旅行帰りで大きなカートを引きながら駅に向かう集団とすれ違う。

 皆楽しそうに旅の感想を話し合っていた。


 私は体調が良くなってあんな風に旅行へ行けるのだろうか?朝から何回めかのため息をついた。



 ゾワッ!!!



 急に総毛立つ。

 ものすごい重力で地面に引っ張られる感覚。息ができず全身から脂汗が噴き出した。



 キャー!!!


 何だあれ!!!



 辺りから女性の悲鳴や男性の叫び声が響く。



 自分の足元を見ると、今まで歩いていた地面が消え失せぽっかりと黒い穴が空いていた。

 そして、黒い穴と重なってジワジワと模様が浮かんでくる。

 ま、魔法陣?

 それは漫画やアニメで見たよりも禍禍しいものだった。


 やばいやばいやばい……。


 穴の外に一歩でも出ようと、引きずり込もうとする何かの力に抗う。



 キャー!

 うわぁー!



 さらに悲鳴が大きくなる。

 はっとして顔を上げると、不気味な集団が自分を中心に円を描くように立っていた。

 黒いローブのようなものを身に纏い、フードを目深に被っている。


 顔の部分は闇。

 顔の部分は暗い虚空だけだ。


 死…神…?


 体が熱い。痛い。重い。

 行きたくない。

 お父さん、お母さん………。



 やがて私は力尽き、黒い穴に引きずり込まれていった。


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