幼い頃から慣らされている
それは晩餐の席で、グラスに注がれたワインを王太子殿下が口にお含みになった時のことでした。
「殿下、殿下! 医務官を至急呼べ!」
部屋の隅に控えていた侍従や護衛騎士達が慌ただしく動きます。
「そこのメイド、水をもっと持って来い!」
声を掛けられましたが、わたくしには分かっておりますので、この程度のことで焦りなどいたしません。
「殿下、お戯れもそのくらいになさいまし」
がばり、と床に倒れていたはずの殿下が起き上がりました。
「やあ、心配してくれたかい?」
「わたくしのようなメイドごときが殿下の心配をするなど、烏滸がましゅうございます」
「心配もしてくれないのかい?」
「わたくしは幼い時分より、貧しい暮らしの中で腐りかけの物を食べるのが常でございましたゆえ、怪しい食べ物を口にしても、少々のことでは大事ございません。同様に、殿下も慣れておいででは?」
「そりゃあ、多少の毒には慣らされているけれど、心配くらいしておくれよ」