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東京の星は燃え尽きない  作者: 星雫々
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星落つ弾丸

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──午後二十三時四十六分。




星が弾丸のように落ちて、新宿の真ん中で轟かせた知らせは、私へとダイレクトに撃ちこまれた。


雨の予感さえ感じない真っ新な黒い空は、ギラつくビルの装飾が反射したせいでグレイに靄をかける。






街は四方八方けたたましく鳴り響く電子音に支配されているが、すれ違う人はヘッドホンで世界を遮断していた。だから恐らく、それぞれに各々の世界がある。音楽はたったひとりの世界を作り出せる、かつ炙り出せる魔法なのだ。




普段であれば、歩く爪先の奇跡をじいっと凝視しながらこの道を歩く。だけど今日はなぜか空を仰いだ。グレイッシュな紺を危ぶむようにして、私は仰いだ。









─── " 漆黒の新人、デビュー "








ふと、仰いだ視線が糸引かれるようにして導かれたのは、ユニカビジョンに映し出された文字。それはあまりにも衝撃で、断片的な情報でも、その人物が私の中でヒットした。


貼り付いたように凝視したら、美容院で手入れしたばかりの髪が散らばって、瞳を邪魔する。黒目が凍るように痛んだ。







スクリーンに映し出された彼は真っ黒いパーカーのフードで姿が隠されている。


画面に映る男の素性を誰も分からない。道行く人は皆素通りして、私の傍を鋭い風さえも抜けていく。


もう四月も後半だと言うのに、まだ棘のように薄っぺらいトレンチコートではまだ寒いらしい。



だれもそれを意識しないけれど、爆音で流れる音が記憶を呼び寄せた。





たしか、 五年前、あの頃の私を救ったのは

小さな画面の奥で溢れるノイズだった。



動画投稿サイトを遡っていた時、親指一本でスクロールした中に真っ黒の画面がひとつ、ぽつりと浮かんでいたのをタップした。



閲覧数のバトルを勝ち抜くためにサムネイルのデザインへと命を懸ける表現者たち。なのに、貴方だけはいつも真っ暗だった。真昼間に夜が堕ちたみたい。


閲覧数はどれも一桁。誰に向けて歌っているのかもよく分からなかった。だから、私は一桁に混ざって再生を続けた。毎日、毎日。


周りの昼間はZ世代へ向けて、とにかくエモーショナルを売りにした歌が並んでいるのに、対してこの夜はいつも変わっていた。


甘やかなエモも、劈くような反骨心も、どちらも兼ね備えてはいない。だけど私は確信していた。彼は、絶対に、世界を変えると。



そんな彼は昨年のちょうど今頃、忽然と姿を消した。真っ暗が黎明に向かい、白くぼやけるようにして、一切の消息を絶った。


消えるだなんて思ってないからコピーも無い。


毎日聴いていた声が小さな画面の中から無くなってしまうだなんて誤算だった。性懲りもなく泣いた。意外と落ち込むんだな、なんて客観的だった。




それが今、この大きなスクリーンから、爆音でなっているのだ。新宿を撃っている。


燃えるような月が、都会のファッションビルを守る光たちと擬態していた。




私は今日も緩やかな坂をのぼる。エナメルシューズの先が剥がれた地面に嵌った。泣きたくなった。再生ボタンが私の引鉄。






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