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東京の星は燃え尽きない  作者: 星雫々
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有象無象


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揺蕩う街。夢みるように空を見上げると、

視界に大きな電子公告が横切る。




貴方も私も、明日を知らない。







指先で縁を描いてレンズを作ったとしても、iPhoneのカメラで街を射抜いたとしても、隣で信号を待つ貴方も明日を知らなかった。









特に行くあてもないから坂をのぼり続けた。


入口で美容師のキャッチ三人に捕まったけど、イヤホンを付けていたせいでなんて言ってるかは分からなかった。シャッフルで流れてきたラブソングが春風に溶け込むだけ。歩く速さよりスローテンポなせいで歩きにくい。







小さな映画館を、無印を、カフェを、いくつものビルを左手に眺めながらずっと足を進めていくと、横断歩道に差し掛かる。


もう少し超えるといつの間にかNHKホールが見えてきて、代々木公園へと辿り着いた。




誰とも目が合うことがなくとも、同じベクトルで進むことはなくても、何も寂しくはない。


ここを歩く者はみな、同じ揺らぎがあるから。



揺蕩う街に身を任せ、それぞれの今日を生きている。






代々木公園の真ん中を突き抜けると、

スケートボードに乗った男がいた。






男は器用にボードを乗りこなしていた。端正な顔立ち、すらりとしたスタイル。小さな顔、高い鼻先から繋がる細長い首。白い肌。



あなただけが今日を生きていないと思った。この街の真ん中で、割れたガラスの破片にでもなろうとしているみたいだった。




不思議と惹かれて、凝視しているのも無意識だった。力なく降りてしまった手に蝶が止まったのも気が付かないほど集中していたことに後で驚く。


蝶だろうがなんだろうが、虫は嫌い。気付こうものなら払い落としていたに違いない。





暫くすると、あなたはこちらを向いた。






さすがに私の視線に気がついたらしく、不思議そうに私の手から飛び立っていった蝶の行先を眺めていた。流した瞳が綺麗だった。









「ここから先は行き止まりだよ」

「え、」

「この先は昨日なんだ」








たった一言、二言そう告げると微笑んだ。



それ以上は何も言えなくて頷きとともに引き返すことを選んだ。



この先は昨日、の意味は分からない。


未亡人がさ迷う世界で、私たちはそれぞれの今日を抱く。また来た道を下った。坂の出口、右へと曲がろうとした時、また美容師が声を掛けてきた。アップテンポのベース音に足並みを揃えた。ビートとリズムが刻むは明日。






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