表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京の星は燃え尽きない  作者: 星雫々
2/18

細氷


×



疎ましき塵が部屋いっぱいに舞い込んだ。カーテンに閉じ込めた空気から吐き出されるようにして、空間を占めた。鬱陶しい。


そのくせ、ダイヤモンドを砕いて散りばめたみたいに煌めく。その辺の安っぽい宝石よりは確実に明媚だった。




規則正しく羅列されたスマホのキーボードを慣れた手つきでフリック操作する。




おはようも、おやすみも、はじめましてもさよならも。区切りを強いるそれが嫌いだ。



はじめることはやがて終わりを意味し、終わることは始まってしまうことを意味する。その繰り返し。持続可能なエネルギーみたいに、ぐるぐる、と。




そのくせ否応は明確で、静かに拒絶する。

二度とそこへは戻らない。



人は、記憶を精緻なフォルダに分類し、時々引っ張り出す。掃除し忘れたゴミ箱から、ふと。それは明日か10年後、もしくは100年後。







「あ、転調した。」







例えば同じ五線譜のうえにご丁寧にノせられている黒い玉が、ほんの少しのきっかけで転調し、みせる顔を変えるように。


ナチュラルの記号には気づかないフリをすれば、規則から逸脱していると問い質されるだろうか。



転調した後の曲調の方が好きだったような気になれる。始まりの音に興味を持ったくせに。そういうふうに出来てるから。







「今のC、ズレてる」

「普通にドって言えよ」

「それだと私にはファなの」






昏い部屋と、月なんて美しい表現をするにも疑問符が打たれるような、外の街灯から漏れた光。


夏の夜の擽ったい匂いはどうも好きになれない。だけど胸の奥を疼かせるのだから、厄介だ。


せめて他人行儀にさせてくれよ。





「おやすみ」





いつだったか、仰向けでいれば溢れる雫は逆流して、また瞳へと戻るのだと馬鹿な仮説を立てた者がいた。バカだと思った。


こんなレベルには成り下がりたくないと、一瞥して自転車のペダルを強く漕いだ。


そのくせに、今私は、頑なに上を向いて震える瞼を無理やり閉じている。枕を浸す湿度と、夏の匂いは似ている。





×


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ