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1.ゲーマー・シモン、転移する

一部設定が、実在するゲームに似ている場合があります。ご了承ください。

都内の某ゲーム店。

そこに一人の男、「宮崎みやざき 志文しもん」が訪れていた。


「えーと、FEは……あったあった」

そう、今日は志文が待ちに待ったゲームシリーズ「フレイムエムブレム」、通称FEの最新作の発売日だ。

FEは、簡単に言えば複数の自軍ユニットを動かし敵軍ユニットを倒す戦略シミュレーション。

志文はその濃密なストーリーとシビアなゲームシステムに惹かれたプレイヤーの一人であった。


「いやぁ、一時期は打ち切りも噂されてたFEだけど、持ちこたえてくれて嬉しいよ。

それでもまだ結構マイナーなんだよな……面白いのに」

レジで会計を済ませゲーム店を後にし、そう呟きながら帰路につく。

ゲーム店から志文のアパートまではそう遠くなく、徒歩で10分もしないうちに家に帰りついた。


「ただいまー……って、誰もいないけど」

一人暮らしの部屋に入り、スリープモードのまま放置していたゲームハードを手に取ると、志文は早速今さっき買ってきたゲームソフトをセットする。

今回、所見プレイ時の感動をより享受するため、事前情報は一切なしだ。

流石に発売日は調べたし、その時にいくらかキャラデザは見たが、PVなんかは見ていない。

「そんじゃあゲーム……スタートゥ!!」

ゲームスタートのアイコンを選択し決定ボタンを押すと……


___志文の意識はそこで途切れた___


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


___フェリス神聖王国。

数々の英雄の伝説が残る非常に歴史の長い国。

国宝である、神が救国の英雄に授けたとされる神剣が歴代の王族に受け継がれてきた。

現在の国王は賢王として知られ、病床の今でも絶大な支持を得ている。

そして王子は神剣を携える傑物として知られ、人柄もよく次期国王として期待されている。


フェリス王国の王子、ライルはフェリス王国の騎士団およそ50人を率いて騎馬で移動していた。

ここ最近、魔物達の活動が活発になってきており、その駆逐に繰り出したのだ。

まだ近隣の村などに被害はないそうだが、楽観視はできない。

いち早く事態を収束に持ち込むため、可能な限り馬を速く走らせていたのだが……


「……!! 全体、止まれ!!」

ライルの指示で、騎馬隊が一斉に止まる。

それを確認すると、ライルは素早く馬から降り、眼前の道に横たわる人物に近づく。

その人物は見慣れぬ服装をしており、他国から来た人間らしかった。

「おい、大丈夫か? 息は……あるな。気絶しているだけか?」

何度か肩を揺さぶると、その人物はおもむろに目を開け……



「……い!! おい!!」

俺は肩を揺さぶられる感覚とかけられた声に反応し目を覚ました。

「ん……あれ、ゲームは……」

「ゲーム? 何を言ってる、寝ぼけてるのか?」

俺はゲームみたいな恰好をした人物に身体を支えられ、上体を起こす。

俺はフレイムエムブレムを起動したはずだが……どこだここは。

辺りを見渡すと、全身鎧で武装した騎馬の集団。

そして、俺を起こしてくれた男をもう一度よく見てみる。


精悍とした顔立ちの20代前半と思われる金髪碧眼のイケメン。

世の女子たちが求める白馬の王子様を体現したかのような見た目。

万年非リアの俺への当てつけですか、そうですか。

……じゃなくてぇ!!

フレイムエムブレムの公式HPでチラッと見た主人公じゃねぇか!!

「何じゃこりゃあああああああああ!!??」


俺の腹の底からの叫びが、周囲に響き渡った……


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


おおおお落ち着け、ままままだ慌てるような時間じゃななななな……

俺は今の状況に対する混乱と周囲からの訝し気な視線に脂汗をダラダラと流しながら状況の整理に努めた。

これは……あれか?

ラノベでお約束の転生……いや、この場合はゲーム世界への転移というべきか。

目の前の人物がゲームの主人公であることは確かだろう。名前までは知らないが。

まったく、俺はなんとかギアとかいうオーバーテクノロジーもVRMMOとかも知らないんだけど!?


「お、おい、大丈夫か?」

俺がしばらく自問自答していると、例のイケメンが話しかけてきた。

確かどこかの王子……みたいな設定だった気がする。

「え、ええ……大丈夫だ、です」

未だに混乱が解けていないからか、敬語すらままならない。

「無理に敬語は使うな。あまり畏まられるのは好かん」

「はあ……」


その後、俺は自身が記憶喪失であると告げると、人がいいのか王子はすぐに信じた。

そして自身の身の上、この国……フェリス王国のこと、これから魔物の駆逐に行くことを俺に教えてくれた。

周りの騎士たちは何の躊躇いもなくペラペラと喋る王子ライルを止めはせずも心配そうに見ていたが、やはり俺は相当怪しいよなぁ……ライルもバカではないんだろうけど、俺も心配になってくる。


「お前、名前は覚えてるのか?」

どうやらライルたちは急いでいたらしく、移動しながら話すという流れになった。

最初はライル自身の馬の後ろに乗るよう誘われたが、騎士たちの猛反発に会い、ライルの馬と並走する騎士の一人の馬の後ろに乗ることに。

まあ、そうだよね。王子の後ろに乗ったらいつでも襲えるだろうからね。

やっぱり騎士の一部からは他国からのスパイとか思われてそうだなぁ……

「ええと……シモンだ」

いつもハンドルネームにしてた名前かつ本名だし、即答した。

よし、これで俺のこの世界での名前はシモンに決定だ。


やがて互いに話題が尽き、黙って進軍すること一時間弱。

周囲は木々に囲まれており、真昼だというのに薄暗い。

もうそろそろ目的の地点だ、気をつけろ、とライルが騎士たちに指示した直後。

「うわあああああああっ!!」

「た、助けてえぇっ!!」

複数の人間の悲鳴が周囲の木々にこだまし、微かに聞こえてきた。


「今のは!?」

「確かこの辺りにはきこりの家族を中心に構成された村がある!!

クソっ、遂に魔物の人的被害が出てしまったのか……!?」

ライルは心から悔しそうに歯を食いしばった。

そこにさっきまでの人のいい王子の顔はなく、国を背負う王族の真剣な表情があった。

スピードを上げた馬に揺られながら、俺は見えてきた村に目をやった。


……この世界で、俺は何かできるのだろうか?

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