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ある令嬢のタナトロジー

作者: 遊月奈喩多

これは、あるひとつの死への問いかけです。

 飼っていたペットが、寿命を迎えた。ずいぶん長く生きていた、とも思ったけれど、やっぱり命ある限り、「死」というものからは逃げられない宿命にあるらしい。ほんの少しだけ悲しくもなったけど、ううん、どうだろうか。よくわからない。

 飼っていたペットが眠っては新しい子を連れてきて、また眠ってしまったら新しい子を探す……その繰り返しだ。



 あぁ、けれど。

 だけど、でも、もしかしたら。

 生前と同じ姿で横たわるその身体がやがて朽ちて、その美しかった姿からは想像もできないような悪臭と醜態をばら撒いて、曝して、もううんざりされてしまうような事態になるまでを見届けたい――そう思った時点で、もしかしたら私は、この子の死を悼んでいるのかも知れない。

 見ただけで鳥肌が立ち、漂う腐臭に胸焼けを起こし、目を背けたくなるようなグズグズの肉塊。そうなったとしたら、いったいどれだけの人がこの子を思い出してあげるのだろう? 1度貸してあげたおじ様は、この子を手放したくないというくらい愛してくれていたみたいだけど……きっと受け入れられないでしょうね。わたし以外の誰であっても。


「ほら、そんな未来も素敵じゃない?」


 見た目の美しさばかりもてはやされる時代、きっとそんな風になったこの子を愛でようとする人なんているはずもない。けれど、私は違うから。

「きっと私だけは、いつまでもあなたを愛してあげるから、ね?」

 この先、何人「次の子」たちを連れてきたとしても、あなたより素敵な泣き顔を見せてくれる子がいるとは思えないから。命がこんなに呆気なくて儚いものであるなら、きっとあなた以上に儚いものなんてこの世にはないと思うから。

「もしかしたら、あなたを追いかけるのもいいのかも知れない」

 たとえ命がなくなったって、私から逃げられるわけではないことを知ってもらおうかしら?

 ううん、そうしたらきっと、今眠りについたこの子以上の出会いの可能性を潰すことになる。決して訪れないとわかっていながら、私は自らの命を潰すことが怖いのだ。

 死んだら、この子に会えるのだろうか?

 それとも、「私」はまったく霧散して消えてしまうの?

 わかりっこない、死んでから戻ってきて、その様を語る人なんて世界中数えてもそうはいないのだから。その確証がないから、私は命を捨てられない。


 だから、そちらで待っていて?

 死を暗い終わりになんかさせない。愛を歌う私の道に、暗い影なんて許さない。もし死が完全な消滅なのだというのなら、それまでに何ひとつ悔やむことなんてないように、もし死にもその先があるというのなら、あなたを見つけ出して更なる愛を注ぐ準備をするために。


 私は、死んだっていいくらいの愛を注いでみせる。

 まだこれから出会うだろう私のペットたちに――そして、この世界中に!


 命が死に向かう切符でしかないのなら……きっと、愉しみながら向かうのが1番だからね!

 鮮血に濡れた唇を月光に曝して、月に愛された少女は笑う――――彼女の“愛”に囚われた多くの犠牲者(ペット)たちの亡骸を装飾品にした豪奢な部屋の中で。

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