プロローグ③
「さて。では、生まれ変わるにあたって、なにか希望はあるかの? 叶えてやれるかはわからんが、望みがあるなら言ってごらん」
おじいちゃんからの提案に、私はすこし驚いた。
転生先の希望まで聞いてくれるなんて、随分親切だ。ああ、言うだけはタダって感じなのかな。
でも、迂闊なことを言って、このおじいちゃんを怒らせたくない。
よくよく考えて、私の希望を口に出す。
「……生まれ変わるなら、動物園で飼われるパンダがいいです」
パンダは、絶滅危惧種の希少動物だ。この世に生まれただけで、世界に祝福してもらえる。なにもしなくても、ただ存在しているだけで、ありがたがってもらえる。
なんて羨ましい生き物だろう。
生まれ変わるなら、パンダがいい。
けど、そんな私の提案は、おじいちゃんに即却下された。
「いや、ちょっと待ちなさい。その考え方はいかん」
「じゃあ、水族館のアザラシになりたいです」
パンダを却下されたので、私は代替案を出した。
記憶を持ったまま生まれ変われるなら、水族館のアザラシでも、それなりの役に立てるだろう。
体育も音楽も数学も苦手だった私には、高等な水芸は難しいかもしれない。けど、音楽に合わせて鳴いたり、一桁の算数をしたりするくらいはできる。一生懸命がんばれば、ショーの目玉になる一演目くらいはできるだろう。
客寄せができれば、私にも存在価値ができる。
たしかに、パンダじゃ楽をしすぎだったのかもしれない。自分の存在価値を得るためには、相応の努力をするべきだよね。
だから、水族館のアザラシは、我ながらナイスな提案だと思ったんだけど。
「それも違う。……君は、いろいろと間違えておるな」
アザラシもだめなのか。
もう少し難易度を上げないとだめなのかな……。
「じゃあ、盲導犬とか介助犬とかならどうですか? 私、きっと役に立ちます。もうこの子がいないと生きていけないってくらい、立派な犬になってみせます!」
「いや、だから、そういうことじゃないんじゃよ」
また却下されてしまった。
存在しているだけで絶滅保護の役割がある、パンダはダメ。
芸を覚えて水族館の客寄せに役立つ、アザラシもダメ。
社会の役に立つ、盲導犬や介助犬もダメ。
ほかに、なにがあるだろうか。
私でも生きていていい理由をもらえる、存在価値のある生き物。
(……役に立たないなら、生きていていい理由がない)
ぐるぐると思考を巡らせて考えるけど、いい案が浮かばない。
私は何を間違えているんだろう?
「……わかった。転生先は、儂が適当に見繕おう」
「……すみません」
ため息まじりのおじいちゃんの言葉に、私も肩を縮めて謝る。
自分の希望が通らなかったことより、おじいちゃんが望む答えが出せなかったことが、ただひたすらに申し訳ない。
どう答えるのが正解だったんだろう?
「よいよい、肩を落とすな。まあ、それがわかるなら、特例措置なぞ取られたりはせんよな」
「……それって、どういう……」
意味がわからない。
何に生まれ変わりたいか、その答えが重要だったってこと?
「……前の人生では、私にはなにも価値がありませんでした。だから、今度こそ、存在価値があるものに生まれ変わりたいと思いました。必要とされる生き物になりたいと思ったんです。それじゃだめなんですか?」
「それは儂からは言えんよ。それこそが、君が探すべき答えなのじゃからね」
……え?
今、さらっと重要なことを言ったよね。転生するなかで、探すべき答え。それがわからないと、延々と転生を繰り返すハメになる。超重要ワードだよね。
「ああ。儂からは、それ以上は教えてやれん。自分で考えなくてはならんよ。そして、その答えについてもな」
訊く前に、言われてしまった。食い下がっても、多分答えはもらえないだろう。
どうしよう。なにもわからないんだけど、転生してから考えて、答えがわかるものなのかな。どんな答えが正解なのか、さっぱりわからない。
「さて。では、君の転生について、上に報告してこようかの」
「……私はどうすれば」
「今しばらく、ここで待っていなさい。時がくれば、勝手に始まるでな」
天も地もないと思っていたこの空間で、おじいちゃんはふわふわと浮かび上がっていく。
まっしろい空間にひとり残される私に、おじいちゃんが最後の説明をくれた。
「転生後は、君は生まれたての赤ん坊じゃ。パンダやアザラシには転生させられんが、君の意向は汲んであげるよ。……精一杯、生きてごらん」
それだけ言い残して、おじいちゃんはいなくなった。
しろい空間に溶けていくように、姿を消していく。
(……ああ。おじいちゃんの名前も訊いていなかった)
いろいろしてもらったのに、お礼も言っていない。そんなことを今更思ったけど、もう遅い。
時間の経過もわからない空間で、私はまた、ひとりになった。
プロローグはこれで終わり。
次回から、転生後の新しい人生が始まります。