教師たるもの?
今日は朝から雨が降っていた。
自転車通学の私は、雨が降ったら仕方なくバスで学校に向かう。
学校まで行く系統のバスは、私が通う女子高とその次のバス停で降りる大学の学生でいっぱいになる。
本数は5分に1本の感覚で来るが、雨の日は追いついていない。
その為、下手したら何台もバスを待つ可能性もある。
多くの学生が待つバス停に並びながら、昨日の出来事を思い出す。
そう昨日は悪い夢でも見たのだ。
だいたい、副担任が産休取るなんて知らないし……。
「戸倉さん。おはよう」
「おは……なっ!」
後ろを振り返ると、昨日の人物が立っていた。
「雨。嫌だねぇ」と親しげに話しかけてくる。
「話しかけないでください」
「挨拶しただけじゃない」
またあの「人畜無害です」といわんばかりの笑みを見せてきたが、私は前を向いた。
あぁ、なんでまた会うの。
確かに学校の先生なのだから、どこかで会うのは仕方ないんだろうけど……朝から会うなんて……ついてない!
「――戸倉さん。バス着てるよ。そして前、動いてるよ」
前を見るとバスが到着しており、次々とバスに乗り込んでいる。
バスに乗ろうとすると、はじめのステップのところしかあいていない。
また次のバスか……次はぎりぎり間に合う時間かな。とあきらめていたところ、いきなり手首をつかまれバスに乗せられる。
バスに乗ったとたんピーという音とともに扉が閉められた。
「なっ!」
「ボーっとしてたら乗れないでしょう。俺、初日から遅刻するわけに行かないんでね」
ボソボソと耳のそばで話してくる。
そのせいで耳元に息がかかり、妙にドキドキしてくる。
顔だけは良い部類にはいるんだから、いい加減にしてもらいたい。
「私を抜かして、乗ればいいじゃないですか」
「教師たるもの、順番抜かしは良くないからねー」
本当にそう思っているかは怪しいが……。
バスが急にブレイキを踏んだせいで、先生の胸が接近してきた。
「ちょっと近いです」
「このバス。運転荒いね。まぁこの道だから仕方ないのかもだけどな」
バスが急発進する。
思わずよろけそうになった体を支えられる。
「なにするんですか」
「いや、こけそうになってたから」
そして私の顔を見てくる。
「なんですか?」
「――あっ、あぁそういうことね」
どんな顔していたのだろう。
なにを思い出して、何がそういうことなのだかわからないが勝手に納得している。
「何がですか」
「大丈夫、大丈夫。俺にも趣味ってのものがあるから」
また耳元でボソボソと言って来る。
「はっ? 何がですか?」
「いくら同世代に見えたって、戸倉さんを襲ったりしないって。俺にも趣味ってもんがあるから」
二回も言って来る。同年代とか言ってくる!
「なっ、なっなななっ」
怒りで声が大きくなる。
「声、大きいよ。俺のほうが気をつけないといけないかもねー」
またからかい口調で言って来る。
私の手は握りこぶしを握って、先生のおなかに突き出した。
「ごほっ」
予想もしてなかったのか……弱いのか。
「バスが大きく揺れましたね。この先もう一度、大きく揺れるところがあるんですよ」
私は出来るだけにっこりと笑い先生を見上げる。
なんともいえない顔をして、私を見ていた。
やられてるばかりじゃいられない。
きっちり落とし前はつけないとね。