お目覚めはいつも平穏とは限らず
朦朧とした意識がだんだんと現実世界へと浮かび上がっていく。
それと同時に様々な感覚が働きだすのを感じた。
肌を撫でるひんやりとした風が寝起きの少し高めの体温を冷ましていくのが気持ちがいい。
そうして少し風を感じたあとゆっくりと体を起こした。
何か夢を見てきた気がするが……不思議なことに夢の詳細を思い出すことはできなかった。
ほんわかとした温かく優しい夢だったのは何となく覚えているのだが
それ以外のことはぼんやりとしていてよくわからない……。
誰か……そう誰かから、何かを言われた気がする……。
寝起きの頭で夢の詳細を探ろうと思考を巡らせようとして、私はある事に気が付いた。
(あれ……私は……私の名前は……『なんだっけ……』?)
自分の事が何一つとして記憶にない……
自分は何者で、どこで生まれ、何をしていたのか……何もかもが白紙の記憶でしかない。
無理に思い出そうとすると鈍い頭痛が襲ってくるので尚更思考がまとまらない。
(と、とりあえず今の状況を確認しよう……自分の事はそれからでもいいよね?)
記憶の詮索も確かに重要ではあるが、それは身の回りの状況を把握してからでも遅くはない
むしろ状況確認で記憶を思い出すことが出来るかもしれない。
そうして目を開き、周囲の状況を確認しようとして……
(え……あれ?)
目の前に広がっていた光景に私は動揺するしかなかった。
(……え、あれ?な、んで?)
幻覚かと思い何度も自分の目を擦る。
しかし何度、何度目を擦っても景色は一向に変わりはしない。
始めは自分の前髪が目に掛っているのかとも思ったが
どうやらそういう事ではないらしい。
(私……目が、見えない?)
目の前の景色、どこを見渡せども白と黒の二色で埋め尽くされ
物を判別することが難しい程にその目に映る景色は朧げだった。
一人深く濃い霧の中にいるような錯覚さえ覚える光景に
私は唯々絶句するしかなかった。