社長室にて
社長室での続きですね。
「えー、皆さん!お集まりいただきありがとうございます!」
「声がでかい…」
とある会社の社長室に10人ほどが集まっている。その中から司会進行しようとする者が大きな声で注目を集めるが近くにいた女性に耳煩わしい様子で脇腹を殴られる。
「俺を倒したくばグラマラスになって出直せ!」
「…」
「あ!痛い!今のはマジめに痛い!ごめ痛いっ!!」
「話進めるわね」
何度も脇腹の同じ箇所を叩いてかなり怒っている様子の女性と叩かれている男性を無いものとして扱うように如月史奈は話始める。
「とりあえずここにいる人達の殆どはこれから話すゲームについて関わってる人達…新はこれからだけどね。シナリオ、グラフィック、AIの設定、音声…まだまだ色々いるけれど本当に様々な人達が関わっている。ここにいるのもエリアリーダーの更に一部しかいない状況だものね。」
「シナリオ班は個々で動きすぎて酷いことになったけどな」
「…本当にありがとうね」
何を思い出したのか、活力のない目をし始めた明人に対して今出来る精一杯の労いをする史奈。帰ったら豪華で活力の出る料理を作ろうと決心をして頭の隅に追いやっておく。
「ここにいるのは3人だけだけどテストプレイヤー含めて皆のお陰があって遂にリリース直前になったオーバーワールドファンタジー!それに対応した特別ハードとなるのがここにあるわ!」
「なぜわしの会社且つ社長室なのか小一時間説教したい」
「お義父様だからよ」
「理不尽から喧嘩売られたから買っていいか?孫よ」
「落ち着いていつもの母さんだから」
「孫が味方してくれん…」
「いや、いつもの母さんだから理由はあるよ多分」
嫌な信頼のされ方である。しかも不確定。
「会見の時にも言ったでしょ…スポンサーやってもらったのだし100台しかない特別機を渡すのは当然よ!威光に食い付いて来たやつら入れ食いだったしちゃんとカモフラージュとして」
「黒い話ストップ!!」
思わずといった様子で史奈を止めにかかる脇腹を叩かれ続けていた男性だが、まだ叩かれているため止めきれていない。
「恋ちゃん殴るの止めて!いたいけな高校生達が真っ黒い話聴いちゃうことになるから!」
「ちゃん付けするなと言ってるだろ連十郎…!」
絃宮恋の忠岡連十郎を叩く速度が若干上がりつつある。止めるに止めきれない状況を打破しようと連十郎は新にアイコンタクトを送るが諦めたような視線を返されていた。
「相変わらず面白いよね、れんれんさん達」
「パンダの名前みたいにまとめてやるなよ…」
「青春ですなぁ」
「年下のお前がいう台詞じゃないだろ」
大人達がそれぞれ勝手に話を進めてしまったからか、新の元にはテストプレイヤーと言われた3人が近付いて更に別の話をし始めた。
「パンダって愛嬌あるようでも熊なんだよねぇ」
「パンダを広げるな」
楽しそうだと連十郎達を見守るのは音無由良、腕を組んで何やら満足げに連十郎達を見守るのは柳原桃子、見当違いのパンダについて考え始めたのは海浦雄太。
「βテスターお疲れ様」
「楽しかったから疲れてないよー」
「むしろまだやらせてレベル」
「オーバーワールドファンタジーってパンダをテイミング出来ないかな?」
「いい加減パンダから離れろよ」
年齢の近い者が集まり賑やかしくなっていき、話は今回βテストを行ったゲームの内容になっていく。
「そもそもテイマーいた?」
「モフリアンさんが泣いてるのは見た」
「誰?」
「リアルで動物アレルギー持ちだけど子供の頃に触れ合ってた感触が忘れられなくて今回のゲームで夢見てた人」
「泣いてたっつー事はダメだったのか?」
「いや、魔物だったけど触ることは出来たって喜んでたよ」
「ただやっぱ魔物だと敵対だからねぇ」
「ああ、成る程」
「だからスタン行為特化型の近接になるという斜め上をいった」
「その執念燃やすより他に何かあったんじゃない?」
「そうだな、ぶっちゃけるとテイマーはあるしな」
「ほら、親父もそう言ってるんだから何か要素が足りないってことだろ」
「まぁ彼の場合はもふりたい衝動が強すぎて回りを見てなかったんだ」
「そういうことっすか」
「おじさんってナチュラルに会話入ってくるよね」
「それに慣れた君達も充分毒されてるからね?」
ゲームシナリオ総括者が会話にさらりと加わり会話が続く。
「まぁ増えすぎたからってのもあるんだろうがな」
「ユニークシナリオのチェーンがわからなくなってる事ですか?」
「ああ、ユニークシナリオがユニークじゃなくなってる…自由って言ったら本当に自由にやりすぎてな、設定もシナリオも」
「本当にどのクエストが繋がってるかわかりませんでした」
「チャートとかどっかに載せられないの?」
「そこら辺直す気でいるんだが反対勢が半数いてな、どうにも拮抗したんで…反対したやつのはハイユニークシナリオとして処理した」
「親父、それ言っていい情報なの?」
「…大丈夫です」
「おいこれ情報に流すなよ?」
「時期を見て呟く」
「大丈夫大丈夫」
「新って掲示板利用する気とかある?」
「おいこれ逃げ場ねぇよ」
「いや、普通に大丈夫だから」
「怖いことしないでくれない?」
新もわかってはいるもののついツッコミ役としての悪癖からか色々気にしてしまって口を出す。そこまでの悪癖にまでしてしまった幼馴染みの業とやらは深そうである。
「まぁだからっての頼みでもあるんだが…頼むぞ」
「ああ、そういった『半ば暴走したユニークシナリオ』がAIによって『更に暴走したユニークシナリオ』になってるから調査するってやつだろ」
「そう、その調査の結果によっては色々と面白そうなことも出来るからな!」
「前にも言ったが君達のプレイスタイルを参考にこちらで決めた各々の大筋の方向があるから協力するのはいいがそれだけは守ってくれよ!それさえ守ってくれればあとは自由だ!」
「連十郎さんいつの間にいたんですか」
「軽くあしらおうとしないで!泣くから!今メンタルヤバいから出ちゃうよ!」
一瞥されまた戻ろうとする新の様子に食い下がる連十郎。何とかしようととある情報の提供を始める。
「うちの最強AIナビ子の好みとか教えちゃうからかまって!」
「いや俺β経験してないから知らないですよ」
「キャラメイク時に出てくるやつのことだな」
「そう!このプレイドライバーは転売防止措置がちゃんとしてるんだけどナビ子はきちんとそれぞれを把握出来る最高のAIなんだ!見た目は万人向けとはいかないから絵師さんに僕の好みを伝えたら大満足の最上位!設定もお茶目なのに仕事がしっかり出来るクール系だし!」
「親父、恋さん呼んで来てくれない?」
「大丈夫だ、もう来てる」
「…」
「音もなく隣にいるのは恐怖ですよ…」
「慣れて」
「うす…」
連十郎、退場(物理)。
「ちなみにナビ子もシナリオ暴走の一因になってるAIだ」
「性能が良すぎた弊害?」
「単に盛り上がるβテスターが多くて少し神格化した」
「人間って凄いな」
「四戦王とか常識あるAIは良かったんだが二斧王とか八双王とかもシナリオ暴走してたな」
「また知らないの出てきたけど大丈夫?」
「βテスターならみんな知ってる強い向こうの住人だな」
「まぁネタバレはここら辺までだね」
「うん、新くんもこれから参戦するわけですし」
「だからこそここに集まってもらったのよ」
史奈がどこからか持ってきた飲み物とお菓子類を明人に渡しながら話に加わる。
「話は聞いてたけど何でわざわざじいちゃんの所に俺の使うハード置いといたの?」
「まぁそこら辺はさっき連十郎君に止められたような理由が半分あるからよ」
「半分はあるんだ…」
「いや法には全く触れてないクリーンな作戦よ?」
「いやまぁ良いんだけどさ…もう半分は?」
「仕事の隙間時間にでもスキャンデータや諸々の設定出来るようによ…あれ?何度か起動はさせたんでしょ?」
「へ?」
「…言ってなかった?」
「…聞いてないよ」
斯くして新は特別製プレイドライバーの設定に時間を取られ、オーバーワールドファンタジーのスタートが大幅に遅れることとなった。
「てか、家でやらせてよ…」
集まった意味は、なかった。
同時進行してたから余計時間がかかった…
もう少しで休めるんだ…!