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比与森家の因縁  作者: みづは
二人のこと
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デート6

 俺の疑問に慌てる事なく、正午が頷く。


 「だから幽霊は二人いたんじゃないかと言ったんですよ」

 「どういう事だ?」

 「工事が中断してすぐに営業部長はここに死体を隠したんでしょう。それから暫くして、腐敗の程度から三ヶ月ぐらい後ですかね。営業部長は再びここを訪れ、開いていた穴に落ちて閉じ込められてしまったんじゃないでしょうか」


 ないとは言わないが、それでも疑問は拭えない。

 正午の話を脳内で補う。

 半年前に営業部長は奥さんを殺してしまった。それを会社が所有する廃墟に隠して一旦帰ったなら失踪する理由などないように思える。


 「そうでもありませんよ。死体さえ上手く隠してしまえば、発見されるまで逃亡する時間が出来ます」

 「逃亡って……」

 「夫婦とは言え、二人もの人間が消えたら、それぞれの親族が警察に届ける筈ですよね。なのに、警察が捜索していた様子はありません。この事から、事件性はないと判断された可能性が高いと思います」

 「どうして」

 「営業部長が逃亡の為に預貯金を降ろしたから、もしそうだったなら親族にしろ警察にしろ、本人の意思で失踪したと思うでしょう。その場合、夫が一人で逃げたと思うより夫婦揃って夜逃げしたと思うんじゃないでしょうか」


 むむ……確かにそう言われたらそんな気がして来る。

 だったら、もっと大きな疑問をぶつけるまでだ。


 「一旦帰ったのに、どうしてまたここに来たんだ?」

 「幽霊の噂を聞いたんでしょうね、たぶん」


 自分が死体を埋めた所で幽霊の噂なんか立ったら、そりゃ無視できないか。


 「だったら野次馬が死体を見つけたって事か?」


 そうじゃなかったら床板が開いている筈ないよな。死体を発見しといて通報しないなんて、俺としては信じられないけど。


 「さぁ……たぶん、そうじゃないと思いますけど」

 「だったら誰が床板を上げたんだよ」

 「そもそも床板が上がっていたからって、そこに落ちますかね。自分が死体を隠した場所ですよ、しかも床板は跳ね上げ式です。開いていたら一目瞭然だったんじゃないでしょうか」

 「じゃ、誰が」


 俺の問いかけにニッコリ笑うだけで答えようとしない。まさかと思うけど、もしかして幽霊が開けたと……まさか、ね。そんな訳ないよな。あはは……。

 ダメだ、深く考えない方がいい。

 頭をブンブン振って他の事を考える。正午が言っているのはただの妄想なんだ、詳しい事は警察に任せておけばいい。


 「はぁ……じゃ、自分を殺した旦那が死んで幽霊は成仏したって思っていいんだよな?」


 ここに来てから俺は幽霊を見ていない。いや、正確には花子さんがいるんだけど、これは半ば身内だしな。


 「女の幽霊は、ですね」

 「……他にもいたのか?」


 そうだった、正午は幽霊が二人いたって前提で話してたんだった。

 女の幽霊が成仏したならもう一人幽霊がいたって事になる。そんなのいたか?

 

 首を捻ると、正午が説明を続ける。


 「殺された女が幽霊になっていたんです。だったら殺した側の営業部長だって幽霊になってたとしてもおかしくないと思いませんか」

 「一回も見かけていないと思うんだが」

 「隠れているんですよ」


 幽霊なのにシャイなのか?

 そんなの何しに幽霊になったんだよ。


 「営業部長がここに戻って来たのは死体が発見されたかどうか確認する為でしょう。その思いが強すぎて成仏出来なかったんじゃないですか」

 「幽霊になった後も死体を隠していたのか?」

 「はい。あの部屋だけ野次馬に荒らされてませんでしたよね。それは死んだ営業部長が必死になって戸を押さえていたからじゃないでしょうか」


 えー、幽霊なんだからもっと何か方法があるだろうー。


 「僕が開けた時も少し重たかったんで、間違いないと思います」

 「力尽くで開けたのか?」

 「はい」


 何か?みたいな顔してるけど、俺にとっては悲鳴物の行動だ。

 幽霊が押さえている戸を強引に開くって、そんな無茶な……としか感想を持てない。


 「死体が発見されたんだからもう隠れる必要はないよな?」

 「発見されたからこそ隠れる必要があるんですよ。営業部長は殺人罪で捕まりたくなかったんですから」


 今もどこかで怯えながら隠れている、と。死んだ後でまでそうなのか。

 自業自得とは言え、何だかなぁ……。

 納得したような呆れたような、複雑な溜め息をつくと、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来る。

 やっと来たのか。説明やら何やら面倒臭そうだが、それこそ逃げる訳には行かない。


 「会社の人もこちらに向かってるそうですから、すぐに終わりますよ」

 「それならいいんだけどな」


 立ち上がって時間を確認すると、昼が近い。

 事情聴取が終わったら警察に頼んで町まで送って貰おう。こっちはただの発見者で、しかも未成年。警察署まで連れて行かれたとしても、それはそれで助かる。何しろ、ここより駅に近い。


 「じゃ、警察が終わったら仕切り直しって事で」

 「仕切り直し?」


 正午が不思議そうに問い返して来る。それに「ああ」と頷く。


 「メシ食って少しぶらつこうぜ」

 「どうしてですか」

 「今日が日曜日で、一緒にいるのが正午だからだ」

 「意味が分かりません」


 本当に分からないのだろう、不機嫌そうにムスッとする。

 そんな顔すると年相応で可愛い。普段の素っ気ない大人びた態度とのギャップが堪らないな、おい。

 だからでもないが、調子に乗って当初の目的を告げる。


 「俺とデートしようぜ」





(終わり)

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