デート
廃墟となった遊園地
残されたお化け屋敷には幽霊が出ると言う
本編の夏休みぐらいのお話です
「今度の日曜日、時間あります?」
開口一番、片思いの相手にそんな事言われて期待しない方がおかしいと思う。
電話の相手は二つ年下のいとこの比与森正午。男だ。
別に俺は生まれついての同性愛者という訳ではなかったが、紆余曲折あって、この不毛な片思いをしている。簡単に言ってしまえば、女との出会いがなかったのと呪いに使われた狐を背負い込んでしまったから。
俺が死んだら呪い狐は俺の子供に取り憑くらしい。何でも血を追うのだとか。DNA鑑定よりも正確だとも言っていた。恐ろしい。
そんな訳で俺は子供を作る気はない。当然、結婚と言うか子供が出来そうな行為も自分で禁じた。俺が死ぬ時に狐も連れて行くと決めたのだ。
俺が狐の面倒を見る事になったのは俺自身がそう決めた事だし、女との出会いがなかったのも誰が悪い訳でもない。それに、その二つがなかったら正午に惚れてなかったのかと言われると、そんな事なかっただろうし。
特に好みはないと思ってたけど、正午と会って分かった。俺の好みは正午だ。間違いない。
そんな相手に電話で呼び出されて、俺が浮かれて出かけたとしても誰にも責める事は出来ないだろう。
待ち合わせ場所に着いてみると、細身のジーンズにTシャツ、薄手のカーデガンという、この季節には少しばかり暑そうな服装をした正午が人待ち顔で立っていた。
口を開けば生意気な事しか言わない正午だが、厳しく躾けられたようで五分前行動なんて当たり前なのだ。だから俺はその五分間を有意義に使う。物陰に隠れて正午を観察するのだ。そのために三十分前に来て、観察しやすい場所をゲットしてある。
出したスマホを一瞥しただけですぐにポケットに押し込んだのは時間を確認したのだろう。正午はスマホを電話以外の用途で滅多に使わない。メールだの通話アプリだの、面倒臭いらしい。ミステリを結末から読むだけあって、かなりの短気なのだ。
傍にあるベンチに座るでもなく、ポケットに手を入れたままその場に佇んでいる。五分後には俺が来ると分かっているのだから、退屈する暇もないのだろう。
そんな正午をキッチリ五分間眺めて、いかにも今来ましたという態度で物陰からそっと出る。その瞬間、ピッタリと目が合ってしまう。まさかバレてたのか?
「時間になっても出て来なかったらシロウを呼ぼうと思ってました」
しっかりバレてたよ。こんな所でシロウを呼び出すなんて我がいとこながら容赦ない。危うく人通りの多い駅前でのたうち回る所だった。
ごめんなさい、もうしません。
でも、時間まで律儀に待ってくれる正午くん優しい。
「どこに行くんだ?」
見たところ、特に荷物はないようだし、ちょっと近所のコンビニ行こうかなって格好にも見える。
それなりに頑張ってオシャレして来た俺が浮きまくっていそうだけど、それは気にしない。林司郎は強い子。泣かないぞ。
「遊園地に」
「……手ぶらで?」
いや、まぁ別にいいんだけど。女子じゃないんだから手作り弁当とか持って来られても俺がキョどるだけだからさ。でも、遊園地行くには軽装過ぎるって言うか何て言うか。
「財布は持ってますよ。他に必要な物なんてないでしょう?」
わぁ、オトコマエー。
遊園地のチケットぐらい俺が払うんだけど、正午は自分で払うつもりらしい。もしかしたら俺のも払うつもりなのかも。
「地主からの依頼で、バカな若い連中の所為で心霊スポットになってしまったので何とかして欲しいそうです」
「は?」
今、聞き捨てならない言葉が幾つもあったぞ。
心霊スポットとか依頼とか……もしかして、仕事なのか?
ギョッとする俺を見上げて、正午が意地悪な笑いを浮かべる。
「場所は廃墟になった遊園地です。幽霊の噂を確かめて、実物がいれば祓って欲しいそうですよ」
騙されたー。
正午の性格からデートのお誘いな訳はないと思ったけど、電話で誘われたんだから期待しちゃって当然だ。
それなのに、何が悲しくて心霊スポットになんか……しかも廃墟になった遊園地。
二時間ほど電車に揺られ、バスに乗り継ぎ更に三十分。
気分はもう小旅行だ。
その間に受けた説明によると、依頼主は大手の建設会社だと言う。そこの社員が比与森の祖母さんと知り合いだったらしい。
正午は縁故以外では仕事を受けない。より正確に言うなら、祖母さんの客以外は仕事を受けないと決めている。だから、その社員か或いは家族が祖母さんに祈祷を依頼した事があるのだろう。
因みに、その社員は都合が悪いとかで立会いはしない。そう言った時に正午が鼻で笑ったので、その社員は比与森を恐れているのではないかと思う。祖母さんは人を呪い殺したぐらいだし、ビビったとしても無理はない。
そして、かく言う俺もビビってる。
元は遊園地だったが経営難で潰れて、依頼して来た建設会社が買い取ったそうだが……予想とはまるで違っていたのだ。
潰れてかなりの年月が経っているのか、残っている建物が極端に少ない。何でも買い取った会社はここを更地にして、リゾート施設を作るつもりだったとか。
だから、アトラクションがなくなっていても不自然ではない。遠目にもハッキリと見て取れる観覧車が一つ、風に煽られてゆっくりと回転している。無人の遊園地で観覧車が動いている光景はかなりシュールだった。
「観覧車は壊さずにリフォームするつもりだそうです」
リフォームで何とかなるレベルなのかどうか怪しいが、壊すにしても大変そうだ。
あとは作業用のプレハブ小屋が雑草に紛れて点在しているのと、奥にブルーシートで囲われた一角があるだけだった。
そのブルーシートが異様だった。
解体するためにシートで覆ったのかと思ったが、どこにも入り口らしき物が見当たらない。どうやって出入りするんだ、まるで見たくない物を隠したような……。
「まさかと思うが、あそこなのか?」
「はい。遊園地だった頃はお化け屋敷だったそうです」
マジですか。
思わず敬語になってしまうぐらいにはビビる。
ただでさえ俺にとってお化け屋敷は鬼門なのだ。作り物だと分かっていても、暗闇の中、何かが飛び出して来たら、もうそれだけで怖い。しかも、ごく稀だが本物が紛れていたりする。俺以外には見えていないようだが、仕掛けにワーキャー悲鳴をあげる連中の気が知れない。お前らのすぐ傍にいるよ!シ◯ラ、後ろ後ろ!
そして、心霊スポットになっているのだから、これはもう確実にいる。いない筈がない。100%の確率だ。
「正午くん、ちょっと休憩しませんか」
内心のツッコミだけでなく、口から出た言葉も敬語だ。
だって本当に異様なんだよ。よく見ればブルーシートの端がロープでぐるぐる巻きに止められてるし!
「来たばかりで何言ってるんですか、行きますよ」
「いや、でも、ほら、入り口ないし!」
「裏から入れる筈です、心霊スポットに来た人たちが入れるように穴を開けたそうですから」
これだから最近の若者は!
無断で私有地に入り込んだ上に、シートに穴を開けるなんて不法侵入に器物損壊だぞ!
お前らの非常識な行いの所為で、俺が今まさにピンチなんだ、この不届きものが!




