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転がったミカンを拾いながら思いつきで口を開く。
「なぁ……それより知りたい事があるんだけど」
あの時、木村家にいた誰にも聞けなかった。池水は殆ど意識がなかっただろうし、森と木村にもその話はできなかった。だから正午に聞くしかない。
「修司さん……いない事になってるよな」
あの後、警察に連絡して気が付いたら修司さんの姿が消えていた。
俺と森をバス停まで迎えに来た人物などいなかったし、酔っぱらった大学生たちは徒歩で木村家に向かったと証言した。そして木村家に停まっていた修司さんの車は森山の名義になっていたのだ。木村ですら、自分は一人暮らしだと警察に言っていた。
修司さんがいた痕跡は全て消え、存在そのものがなかった事にされたのだ。
俺も何とか話を合わせたが、やっぱり納得が行かない。
「木村修司という人物は最初から存在しなかったんです。一匹の小さな白蛇、それが龍神と呼ばれ祀られるうちに力を蓄え……その願いは木村家を守護する事でした」
「自分を祀ったからか?」
「それもあるのでしょうが、恐らく木村家の先祖が弔ったからだと思います。祀るためにはそれなりに弔う必要がありますから。その恩を返すために代々、木村家の子供たちを見守って来たんです」
「だから兄と偽って木村の傍にいたのか」
「住民がいなくなり、村として機能しなくなったあの土地ではもう力を得られないと悟ったんでしょう。だから修司さんとしては自分が消える前に全てを清算して山を手放させる必要があったんです」
「でも、両親が死んでから木村の傍にずっといたんだろ。終ったからって全部なかった事にする事ないと思うけど」
小さい頃に家族を失った木村の傍にいたのは、修司さんの筈だ。辛い事もあっただろうし楽しい事もあっただろう。その全てを問答無用で奪う権利なんて誰にもない筈だ。
「花子さんが司郎に憑いているのはどうしてだか分かりますか」
静かにそう問われて、意味が分からなくなる。
どうして花子さんの話になるんだ。それに俺に取り憑いているのは、偶然に近いだろ。
「旧校舎で司郎が花子さんにお守りを渡したからです」
その時は別に深く考えた訳じゃない。
血を流し這いずり回る花子さんが可哀想で見ていられなくて、せめて何かに縋る事ができたらと。ただそう思っただけだ。
「旧校舎の怪談でしかなかった花子さんですら、司郎と縁ができた事でこの世に留まっているんです。だったら、長い間、信仰されていた龍神に縁ができた人間を見捨てられる筈がありません」
「つまり……?」
「そのうち耐えきれず戻って来ますよ」
家出じゃないんだからそう簡単には行かないだろう。でも、正午が言うのなら、そういうものなのかも知れない。
縁ねぇ……チラリと花子さんを見ると、炬燵に入って寛いでいる。幽霊とは思えない自然さだな、オイ。




