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比与森家の因縁  作者: みづは
紫の獣
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9

時間止まらないかなぁ。

そんな事をボンヤリ考えていたらアッと言う間に過ぎて、気がついたら放課後になっていた。

こういう時に限って早く過ぎるんだから、神様って意地悪だ。

溜め息をついて、仕方ないから風紀室に向かう。

ノロノロと廊下を歩いていると、イヤでもグラウンドの向こうにある旧校舎が視界に入って来る。


あぁ、また行く羽目になるのかな。しかも深夜とか、壮絶にイヤ過ぎる。

風邪……は、今からじゃ無理か、だったら腹痛とか。食あたりで腹が痛い言えば、幾ら足立でも今日は見逃してくれ……ないんだろうな、たぶん。

いい薬ありますよとか言って腹痛の薬渡されて終わりそうだ。


はぁ、イヤだなぁ。


ウンザリと足を進めていると、背後から「林、」と呼び止められる。

鈴のように通る声、聞き覚えのあるそれに俺の鬱度が上がる。

でも無視したら後が怖いのは足立以上だ。

仕方なく振り返ると、白いブラウスにグレーのベスト、チェックのミニスカートを履いているどこからどう見ても女子と分かる服装の女子が怪訝そうに立っていた。

左腕には『風紀』と書かれた腕章でも分かる事だが、俺と同じ三年の風紀委員だ。名前を森と言う。


森は間違いなく女子なのだが、見る度に訳の分からない違和感を抱かずにはいられない。

真っすぐに切り揃えた前髪、その下にあるのは長い睫毛に覆われた黒めがちな瞳。肌の色は白く、唇は化粧する必要もないほどに赤い。


誰がどう見ても美少女だと言うだろう。だが、俺には何となく女装しているように見えて仕方がないのだ。

顔立ちは整っているし、制服も似合ってる。それでいて、美少年が女装しているような違和感を覚えてしまうのだ。


「明日の服装検査、男子の方は大丈夫そう?」


口調が乱暴な訳でもない。他の女子と比べたら綺麗な言葉遣いに思える。だが、それすらもどうしてだかオネエ言葉のように聞こえてしまう。


「ああ、女子はどうだ?」


確認のためにそう問い返すと、自信に満ちた頷きが返って来る。


そりゃそうだ。

この高校にはギャルが一人もいない。化粧やアクセサリーは校則で禁止されているし、スカートの丈も細かく決められている。

でも、俺が入学した時には女子の半分は化粧してたしピアスにネックレス、そしてスカートはパンツが見えそうに短かった。

それら全員を更正させたのが、何を隠そう女装美少年のような美少女である森だ。


入学早々、風紀委員になった森はそれまでやる気のなかった委員たちを追い出し、自分が認めた者だけを残した。そしてギャルたちを一掃したのだ。

最初の頃は口頭での注意だった。だが、風紀委員とは言え一年生の言葉に耳を傾けるギャルなど皆無だった。そこで、実力行使に出たのだ。

朝の登校時間を狙って水の入ったバケツを持って待機して、化粧している三年生に次から次へと水を浴びせた。俺も遠目にその現場を目撃したのだが、あの時の森は高笑いしてた。それはもう楽しそうに笑い声を上げていた。

無邪気で高慢なその笑い声に圧倒されたのか、ギャルたちは呆然としていたように思う。

それを機に、うちの高校からはギャルが消えた。


だから、実質的には森は風紀のトップなのだが、名目上は俺が委員長という事になっている。チェスはキングよりクイーンの方が動けるんだよ?と嘘くさい笑顔で森は言っていた。


だが、はたと考え直す。

女装しているように見えようが、森は間違いなく女。性格に多大なる問題はあるものの、きっと女だ。

そして男より女の方が怪談を好む。遊園地に行くと、女は必ずと言っていいほどお化け屋敷に行きたがる、そういう種族なのだ。


「なぁ、旧校舎の怪談知ってるか?」


並んで歩きながら問い掛けると、「は?」と間の抜けた声が返って来る。

薮から棒過ぎたのか、こいつは怪談に興味のない珍しい方の女だったのか。或いは本当に美少年の女装なのか。難しい三択だ。

だが、全て不正解だったらしく森が口元に手を当ててクスクスと吹き出す。


「林はそういう話、苦手でしょ?」


そう、お互い風紀委員としてやり取りする事が多いので森には俺がビビリだと見抜かれている。だが、森の攻撃対象は女子に限られているらしく、言いふらされてる気配はない。


「苦手だ、知りたくもない、大嫌いだ」


ボソボソと言い返すと、森が呆れたように溜め息をつく。


「クールで寡黙な風紀委員長さまって言われてるのに……残念だよねぇ」


そう言われてるのは知ってる。だからこそ、風紀に入ったようなものだし。

俺をバカにして満足したのか、今度は不思議そうに首を傾げる。


「だったら何で?」

「……聞くな」


どう説明したものか迷って、どうにも説明がつかないと諦める。

幽霊見えちゃうのを何とかして貰うために幽霊を捕まえに行くなんて言える訳ない。


困り果てて短く吐息をつくと、「まぁいいけど」と森が言う。


「旧校舎の怪談って花子さんのこと?」


花子さん?

誰だ、それ。


「男に弄ばれて捨てられて自殺した生徒がいたんだって」


続けられた森の説明を聞くと、どうやら佐倉小花とは別人らしい。

だったら、昨日の幽霊か?


「いつ死んだんだ」

「そこまでは知らないよ。でも、セーラー服姿って言うからかなり昔なんじゃない?」


やっぱり、昨日の幽霊か。

男に捨てられたぐらいで死ぬなんて、勿体ない。それが本人の選んだ事なのだろうけど、時間が経過すれば忘れられたかも知れないのに。


「血まみれで旧校舎を徘徊して、自分を捨てた男を探してるらしいよ」

「何のために」

「そんなの決まってるでしょ」


俺の質問に森が呆れたように肩を竦める。


「復讐するためでしょ」


シンプル且つ納得の行く答えだった。

幽霊になって、廊下を這ってまで旧校舎にいるのだ。何か明確な目的があると考えていいだろう。

だけど、足立は切り落とされた足を探しているんじゃないかと言っていた。

どっちが正解なんだ?

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