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涙を流す事はなかったが、何とも決まり悪くて正午の顔を見る事ができない。そんな俺の様子に気付いていないのか無視しているのか、正午は焼け落ちた祠に近づき中を覗く。
「どうかしたのか」
深呼吸をして気分を切り替え、傍に寄る。
真っ黒い炭となった柱と所々残った床。そして何だか分からない塊。
「人形か?」
「はい。綺麗に焼けてしまいました」
そう言うと、躊躇う事なく祠に入り人形だった塊に手を伸ばす。
サラリと。
炭だと思ったものが溶け出し、僅かな風に乗って流れて行く。
何もなくなった手のひらを見つめ、正午が呟く。
「成仏したようです」
「そうなのか?」
コクンと頷き祠から出て来る。
「問題は全て解決しました。残っているのは警察に連絡する事だけですね」
「でも楠本マナミは?」
「……見つからないでしょう」
「どうして」
「ここを守っていた龍神も巫女たちもいなくなってしまいました。鬼婆伝説があり、神隠しがあると言われた場所です。そしてここで殺人事件は起こった。先に挙げた二つと関連がある訳ではありませんが、それでもここはそういう土地なんですよ」
「じゃ……ここに来なかったら楠本マナミは誰も殺さなかったのか?」
「いいえ、殺し方から見て彼女の決意は強かったと分かります。ここでなくても、いつかどこかであの二人を殺していたでしょう。この山はただ彼女の決意を早めたんです。そして……事故や遭難が起こる度に人々は、男を殺した女殺人鬼がこの山を徘徊している、と噂するんでしょう」
伝説や噂なんて真実とは懸け離れたものだ。でも、全てが嘘でもない。
だから怪談として語り継がれるのだろう。
そう納得して言葉少なに母屋へと戻る。
この騒ぎで誰も起き出さなかったのが不思議だったが、玄関先で池水が立っているのを見てキョトンとしてしまう。
「終ったようだの」
「一つ貸しにして置きますよ」
素っ気なく正午が言って、その横を通り抜ける。
何だか正午が白尾のために働いたみたいに聞こえたんだけど、どういう事なんだ?
どうしたらいいのか迷って目線だけで白尾に問い掛けると、困ったような苦笑を返される。
「全てお見通しだったとは可愛気のない……」
「どういう事だ」
「我は主さまに仕えておる。主さまが徳を積めば、仕える我も同じよ」
えっと、つまり俺が誰かの為に何かすると、白尾の徳とやらが積まれて行くって事か……って、『主』とか『さま』とか付けられてるけど、それじゃ俺が下っ端じゃないか。
「我のために精進するが良い」
そう言うと妖しく微笑み、ガクリと崩れる。慌てて抱き上げると気絶しているようだった。
あの狐……いきなり離れやがった。何て性悪なんだ。




