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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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31

 涙を流す事はなかったが、何とも決まり悪くて正午の顔を見る事ができない。そんな俺の様子に気付いていないのか無視しているのか、正午は焼け落ちた祠に近づき中を覗く。


 「どうかしたのか」


 深呼吸をして気分を切り替え、傍に寄る。

 真っ黒い炭となった柱と所々残った床。そして何だか分からない塊。


 「人形か?」

 「はい。綺麗に焼けてしまいました」


 そう言うと、躊躇う事なく祠に入り人形だった塊に手を伸ばす。

 サラリと。

 炭だと思ったものが溶け出し、僅かな風に乗って流れて行く。

 何もなくなった手のひらを見つめ、正午が呟く。


 「成仏したようです」

 「そうなのか?」


 コクンと頷き祠から出て来る。


 「問題は全て解決しました。残っているのは警察に連絡する事だけですね」

 「でも楠本マナミは?」

 「……見つからないでしょう」

 「どうして」

 「ここを守っていた龍神も巫女たちもいなくなってしまいました。鬼婆伝説があり、神隠しがあると言われた場所です。そしてここで殺人事件は起こった。先に挙げた二つと関連がある訳ではありませんが、それでもここはそういう土地なんですよ」

 「じゃ……ここに来なかったら楠本マナミは誰も殺さなかったのか?」

 「いいえ、殺し方から見て彼女の決意は強かったと分かります。ここでなくても、いつかどこかであの二人を殺していたでしょう。この山はただ彼女の決意を早めたんです。そして……事故や遭難が起こる度に人々は、男を殺した女殺人鬼がこの山を徘徊している、と噂するんでしょう」


 伝説や噂なんて真実とは懸け離れたものだ。でも、全てが嘘でもない。

 だから怪談として語り継がれるのだろう。


 そう納得して言葉少なに母屋へと戻る。

 この騒ぎで誰も起き出さなかったのが不思議だったが、玄関先で池水が立っているのを見てキョトンとしてしまう。


 「終ったようだの」

 「一つ貸しにして置きますよ」


 素っ気なく正午が言って、その横を通り抜ける。

 何だか正午が白尾のために働いたみたいに聞こえたんだけど、どういう事なんだ?

 どうしたらいいのか迷って目線だけで白尾に問い掛けると、困ったような苦笑を返される。


 「全てお見通しだったとは可愛気のない……」

 「どういう事だ」

 「我は主さまに仕えておる。主さまが徳を積めば、仕える我も同じよ」


 えっと、つまり俺が誰かの為に何かすると、白尾の徳とやらが積まれて行くって事か……って、『主』とか『さま』とか付けられてるけど、それじゃ俺が下っ端じゃないか。


 「我のために精進するが良い」


 そう言うと妖しく微笑み、ガクリと崩れる。慌てて抱き上げると気絶しているようだった。

 あの狐……いきなり離れやがった。何て性悪なんだ。


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