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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
88/103

30

 花子さんが消えたと思ったら正午を連れて戻って来た。

 意外と空気の読める幽霊、花子さん。


 朝日と鬼ごっこをすると伝えたら、訝しそうに首を傾げるが、反対はして来ない。

 一足先に外へと飛び出した朝日が木の影に隠れる子供に駆けて行く。オドオドと怯えながらも、同年代の朝日から逃げようとは思わないのだろう。駆け寄った朝日の話に耳を傾けているのがここからでも分かる。

 少し待つと、集まった子供の数は全部で七人。最初の一人も消えていなかったようだ。良かった。


 「司郎ちゃん、いいよー」

 「よし、十数えるぞ」


 大声で返して、いーちと数える。

 その間に子供たちは朝日を先頭に走り出す。歓声を上げながら楽しそうに。


 「きゅう、じゅうー!」


 数え終えて、子供たちの後を追う。俺と一緒に走り出した正午が「どういうつもりですか」と声を掛けて来る。


 「思ったんだけど、この村で死んだ子は巫女として祀られたって言ってただろ。木村の姉ちゃんもいるって」

 「ええ、そう見えました」

 「それって、この村で死者が出たら巫女が一人成仏する、そして死者が新しい巫女になるって事だよな。ばあさんがその仕組みを作ったって事は、その頃には子供が巫女として殺される事はなかったんだろ。事故とか病気とか……そういうので死んでしまった子供たちが巫女として人形に閉じ込められたんだと思うんだけど」


 俺がそう考える根拠はやっぱり木村の姉ちゃんだ。

 生まれつき疾患のあった木村冴子は、他界するまでの四年間、闘病生活を送っていたのではないだろうか。


 「それで?」

 「だったら、何か一つだけでも楽しい思い出があったらいいなって思ったんだよ」


 俺はただ幽霊が見えるだけで、成仏させるなんて大層な事はできない。だからって見てるだけなんて、何だか冷たいと思うんだ。子供相手に説得しても意味ないと思うし、だいたいからして俺が近づいたら逃げるんだろ。だったら、逃げられるのを逆手に取って少しでも楽しい思い出を、生まれて良かったと思って欲しいんだ。

 もちろん、そんなのは俺の自己満足でしかない。


 「だったら、光の方向に」

 「え?」

 「太陽がのぼる方向に追いましょう」


 急に言われても、どっちが東か分からない。でも、違った。

 外に出ると、いつの間にか夜明けが近くなっていたようで、薄らと空が白んでいた。


 「行きましょう」


 子供たちに追いつかないように調整しながら走る。俺を見て楽しそうに声を上げながら逃げ惑う子供。その前に正午が回り込んでいるのに気付いて、直角に曲がる。

 よし、行った。

 何とはなしにホッとするが、白く輝く光の中に子供が吸い込まれるようにして消えてしまう。


 「え……?」


 ポカンとして足が止まる。

 どこに行ったんだ……子供が消えると光も消えた。キョロキョロしていると、正午が「次行きますよ」と言う。

 何だか分からないけど、正午は驚いていないらしい。だったら従うのがいいだろう。

 そうやって一人ずつ追いかけ、子供たちはどんどん消えて行く。残ったのは朝日だけだ。


 他の子供にしたのと同じように追い掛ける。その前方には白い光が広がっている。


 「司郎ちゃん」


 ふと足を止めた朝日が俺を振り返る。


 「ありがとう、正午の事お願いね」


 そう言うと、タタッと軽い足取りで光に飛び込んで行く。

 悔いなどないかのように、笑いながら逝ってしまった。


 「あ……そうだったんだ」


 前に学校でコックリさんを流行らせた正木の気持ちがやっと理解できてしまった。

 朝日は死んで、俺は生き残った。そういう巡り合わせだったのだと言われたら、それまでなのだろうけども、気持ちが納得できないのだ。

 死なせてしまった罪悪感と、置いて行かれる寂寞感。いっそ、責めてくれたら楽なのに。

 そう思ってしまうほど、朝日は潔く逝ってしまった。

 やんちゃで悪戯好きで、俺より年下なのにお姉さんぶるのが好きだった女の子。

 庭で一緒によく駆け回っていた。落とし穴を一緒に掘って、何日か経つとそれを忘れて二人で落ちたりして、それを正午が呆れた顔で眺めていた。


 思い出した。


 正午と朝日が比与森の家に来たのは俺が九才の時だった。仕事で忙しい親父の代わりに俺と一緒にいてくれたのは朝日と正午、そして二人の母親だった。叔母さんの作ったご飯を三人で食べて、夏の午後には一緒に昼寝もした。

 そして一年と経たずに、朝日は死んでしまったのだ。


 「朝日、もう忘れないから……」


 何とかそう呟くが、鼻の奥がツンとして視界がぼやける。

 そんな俺の肩を叩いて正午が言う。


 「夜が明けましたね」

 その言葉の通り、東の空に赤く輝く太陽が顔を覗かせている。終ったのか、これで全部……。


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