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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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27

 そのまま俺も寝てしまったらしい。

 膝が軽くなって目を開くと、正午が起き上がっていた。

 変な姿勢で寝ていたからか、髪が少し乱れている。何となく手を伸ばして、指先でそれを梳いてやると、不機嫌そうに睨まれてしまう。何故だ。


 「何時ですか」

 「えっと……夜の一時、か」


 時計を見て答えると、小さく肩を竦めて窓へと顔を向ける。

 もしかして居眠りしたからバツが悪いとかかな。

 そう納得して立ち上がろうとするけど、足が半端なく痺れていて悶絶する。


 「うぉ、お……」


 他の人は寝ているんだから大声は上げられない。でも、これが声を上げずにいられようか。いいや、無理だ。

 膝を曲げた中途半端な姿勢のままプルプル震えるしかできない。

 そんな俺を見兼ねたのか、正午が「大丈夫ですか」と言いながら足を撫でて来る。


 今そこに触るな、お願い、やめて!やめろぉ……!


 声に出さずそう懇願するが、正午は手を止めない。暗くて見えないけど、きっといい笑顔を浮かべている事だろう。鬼か、悪魔か、ただのSなのか。

 嬉しそうな正午に撫で摩られ、足の痺れが取れて行く。

 助かった……いや、出来れば放って置いて欲しかったけど、まぁ助かった。

 何とも複雑な気持ちでいると、それが伝わったのか、正午がふと立ち上がり、窓にはめられた障子を開く。


 電気の来ていない部屋に、微かな光りが差し込む。

 三日月よりも細い、猫の爪痕のような月とその周囲で瞬く小さな星。

 濃紺に染まった空がどこか眩しく感じられる。

 そのままジッとして動かない正午の隣に並んで、一緒に外を眺める。


 木村家の裏に建てられた祠。少し見窄らしいそれは、そうと知らなければただの小屋にしか見えないだろう。

 開け放たれた木戸、その隙間から光が揺らめいているのが見える。


 「何だ、あれ……」


 蝋燭だろうか。夜通し祭が行われるのだから、火を灯すのは不自然ではない。でも、誰が点けたんだろう。

 正午ではないだろう。何しろ俺の膝に乗って寝ていたんだ。起き上がれば、俺がそれに気付いた筈だ。そして当然、俺でもない。

 眠っている木村兄弟と森山に目を向けるが、寝入る前と同じ様子に見える。だったら隣の部屋の奴か……でも、それはないだろうと分かっていた。

 森は池水の傍から離れないだろうし、池水の中には白尾が入っているのだ。動けば、俺と正午がそうと気付く。

 石井姉妹と巻野もこの状況でわざわざ外に出て祠に向かうとは思えない。

 だけど、五時間も燃え続ける蝋燭なんてないだろう。

 じゃ、誰が……いや、そんなの決まっている。


 楠本マナミだ。


 どうしてかは分からないが、楠本マナミはここを出て祠に入ったのだ。


 「あ……」


 揺らめく光の中、黒い影があらわれる。

 細身のジーンズに長い髪。思った通り、そこにいたのは楠本マナミだった。

 蝋燭を片手にキョロキョロと辺りを見回している。逃げ場を探しているのだろうか。

 窓を開けようと手を伸ばすが、正午が無言でそれを遮る。

 その間に楠本マナミが手にした蝋燭を祠に投げ込む。

 ガソリンでも撒いていたのか、数瞬の後、爆発するような音が聞こえる。

 その衝撃に思わず目を閉じるが、すぐに開けて祠を見る。


 燃えていた。


 戸や壁は崩れ、屋根は吹き飛んだらしい。それでも残った木片が赤い炎を上げている。

 その前に立つ楠本マナミは爆風に煽られたのか、地面に倒れていた。しかし、すぐに立ち上がると、祠の前で仁王立ちして笑い出す。

 距離があるし、窓で遮られている。それでも、笑い声は俺の耳まで届いた。


 「いったい、何が」


 炎に照らされ浮かび上がるその姿は尋常ではなかった。

 服のあちこちが破れ、髪もクチャクチャになっている。美人だと思ったその顔も、目が吊り上がり口が裂けそうなほどに開いている。


 鬼婆。


 バスで聞いた森山の話が脳裏を過る。

 姫のために我が子を殺し、果てには旅人を襲う鬼婆。それを聞いた時は、鬼なのか婆さんなのかハッキリしてくれと思ったが、どちらも違っていた。


 鬼でも婆さんでもない、あれは生きながら地獄に堕ちた狂った女だ。


 「腹いせでしょう。我が子の遺骨を取りに戻ったんでしょうが、あの座敷は封印してある上にシロウが見張っています。だから、楠本マナミは中に入れず、八つ当たりとして祠を焼いたんですよ」


 一頻り笑って満足したのか、足を引きずるようにして歩き出す。

 目的があるのではないだろう、蹌踉け転びつしながらフラフラと森へと消えて行く。

 その頃には既に祠は焼け落ちていた。いまだ燻ってはいるようだが、全て燃え尽きるのも時間の問題だろう。


 「助けられませんでした」


 そう呟く正午を振り返るが、視線がかち合う事はなかった。何故なら正午は布団の傍で項垂れている修司さんを見ているからだ。


 「この村を守っていた七人の巫女、その全員が消えました」

 「……そうですか」


 静かに答えて修司さんが顔を上げる。


 控えめなのに気が利いて、俺の通う高校の生徒会長の兄。

 でも、木村に兄などない。


 名前を聞いた時におかしいと思ったのだ。木村の名前は修一、普通に考えれば次男につける名前ではない。そして、年齢。

 以前に祭をしたのは二十年前。その直後に木村冴子は四才で病死している。だったら修司さんはいつ生まれたんだ。

 冴子が病死して二年後に木村が生まれ、その八年後に祭をしなかった罰として両親が死んだと思われていたのだ。

 修司さんの年齢をハッキリと聞いた訳ではないが、見た目で言うなら二十代半ば。冴子と同じぐらいだろう。もし、そうなら修司さんは祭の内容を知っていた筈なのだ。少なくとも、祭のために両親が留守にしていたと記憶していた筈……しかし、何も知らないと言っていた。


 前にもそう思ったのだが、木村が当たり前のように「兄さん」と呼ぶのでその違和感を無視してしまった。


 「誰なんだ?」


 俺の呟きに正午が「龍神ですよ」と短く答える。

 え、何が?


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