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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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26

 一階から飲み物を持って来たが、誰もそれに手を伸ばそうとはしない。

 通夜のように押し黙ったまま、それぞれに何か考え込んでいるようだ。

 どうにも気が塞いで仕方ない。

 そう部屋の中を見回すと、石井姉妹は互いに凭れるようにして眠っている。この部屋に九人もいる上に、池水は布団で横になっているのだ。面積的に狭いので仕方ない。


 「森、」


 小さい声で呼びかけると、真っすぐな前髪を揺らして俺を振り返る。


 「眠いか?」

 「別に。この状況で眠れるほどバカじゃないわ」


 言葉の通り、その目は冴え冴えとしている。だったら、ここは森に任せて俺たちは隣の部屋に移動した方がいいだろう。


 「巻野さんは置いてった方がいいんじゃない?」


 そう言われて巻野を見ると、怠そうに壁に凭れて居眠りしている。


 「大丈夫か?」

 「身体は大きいけど、気が小さいみたいだから平気でしょ」


 それはそうなのだが、具合が悪いとは言え女ばかりの部屋に男を置いて行くのは気がすすまない。


 「すぐ隣なんだし、大丈夫よ」


 そうまで言われてはこれ以上反対はできない。木村兄弟に目配せして足音を立てないようにそっと部屋を移動する。空気を読んだのか、森山も無言で付いて来た。


 「比与森さんと林くんも少し休んだ方がいいですよ」

 「いえ、祭の間は何があるか分かりませんから」


 修司さんの申し出をキッパリと断ってしまう。正午が眠らないなら俺も起きていた方がいいのかな。

 そう思っていると、木村が問答無用とばかりに布団を端に敷いて横になる。


 「兄貴も寝たら」

 「いや、そういう訳には……」


 秋とは言え、山の中だ。夜になればそれだけ気温も下がる。


 「僕たちの事はどうかお気になさらず」


 正午にもそうすすめられ、修司さんが困ったように森山を見る。


 「野宿には慣れているので、布団は木村さんが使って下さい」


 昔話を収集しているからかな。場合によっては宿泊施設のない場所にも行かなきゃならないだろうし。

 それでも修司さんは申し訳なさそうに、木村の布団の横に座る。森山は首を傾げてそれを眺めるが「疲れたので少し休みますね」と言って上着の前を合わせて目を閉じる。

 残ったのは俺と正午だが、特に何を話す訳でもなく、二人揃ってボンヤリするしかない。


 大学生が二人死んで、それを殺したと思われる楠本マナミは行方不明。だが、俺たちがここに来たのは龍神の祭のためだ。

 正午の話によると、信仰の対象は龍神だけでなくその巫女も含まれるようになったと言う事だが、大差ないだろう。そもそも祀っている木村家からしてもうこの土地にいないのだ。ただ、形ばかりの祭が残っているだけだ。

 それを終らせるために正午は来た。そして、夜が明けたら祭は終る。

 龍神が力を失っているとしても、七人の巫女はどうするんだろう。

 龍神が求めた生贄は七人。七つあった人形は一つ欠け、生贄の数が足りなくなっている。


 七人みさき。ばあさんが人を死なせないために作った仕組みだが、もしかしたら人を殺す仕組みになるかも知れない。


 動くだろうか。


 巫女に選ばれるのは、やっぱり女なのだろう。そして娘と言っていたが、きっと処女だ。

 だったら大学生は除外される。森と池水が異性と交際していたかどうか分からないが、何となく巫女として選ばれるのは池水のような気がする。


 どうしてだ。


 ちょっと考えて理解する。人形だからだ。

 池水は他者との区別が曖昧だと言っていた。そのため、容易に憑依されてしまう。

 言い換えるならそれは中が空っぽと同じなのだ。少なくとも俺はそう思っているのだろう。

 だから生贄に選ばれるのは池水だと思ってしまうのだ。


 でもなぁ。


 池水の中には白尾が入っているんだ。少し話をしただけだが、あの狐は相当性格が悪い。俺の事をバカにしていたし、正午ですら鼻であしらっていた。

 そんな白尾が黙って生贄になんてなるかな。逆に呪い殺しそうで、ちょっと怖い。

 龍と狐、どっちが強いんだろ。アホみたいな想像をしていると、急に肩が重くなる。


 何事かとギョッとするが、すぐに正体が分かる。

 隣に座っている正午が俺の肩に凭れて来たのだ。

 まだ夜の八時だが考えてみれば、眠くて当然だ。

 正午は俺より先に来ていたんだし、祭の準備で疲れているのだろう。よく気力で幽霊を無視しろと言うが、それで行くと、正午は誰よりも気力を使っている事になるんだから、誰よりも疲れて当然だ。

 少しでも動いたら正午が起きてしまいそうなので、ジッと耐える。


 それにしてもこんな所でうたた寝して寒くないのだろうか。せめて何か掛けてやりたいな。

 そう思って部屋の中を見回すが、生憎と近くには何もないし、全員寝てしまっている。


 いや、花子さんがいるけど……まぁ、使えないしな。


 ダメ元で花子さんを見つめると、俺の視線に気付いたのかフラフラ揺れながら近づいて来る。

 花子さん、何でもいいから掛ける物を取ってくれ。

 ジッと見つめていると、花子さんが任せろと言わんばかりに大きく頷く。


 おぉ、始めて意思の疎通ができた。

 軽く感動していると、花子さんがそっと人差し指で正午を突つく。


 ツンツン、ツン。


 それが鬱陶しいのか、正午が「ん、」と声を漏らしながら頭を小さく振る。その拍子にズルッと俺の肩から伸ばした膝に落ちる。そしてモゾモゾ動き本格的に寝に入る。


 ハッ、これは膝枕なのでは……?


 って、何やってんの、花子さん!

 唖然として見上げれば、何故かイイ笑顔で親指を立てている。

 自画自賛かよ!全然、グッジョブじゃねーよ!


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