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二階に行くと、全員が不安そうに俺たちを待っていた。
支離滅裂ながらも石井姉妹が説明していたらしく、森と木村はだいたい了解したようだ。理解力が半端ないない、お前ら。
池水に入ったままの白尾は正午の言いつけ通り狸寝入りしているし、巻野は少し回復したもののまだ本調子ではないのだろう。青い顔して壁に凭れている。
怯えたように手を取り合って座る石井姉妹の正面に膝をついた正午が静かに問い掛ける。
「石井由香さん、あなたは高田綾人の子供を堕胎した。そうですよね?」
複数の、それも初対面の人間がいる所でする質問ではない。だが、石井真美は戸惑いながらも小さく頷く。
「本当は生みたかった。大学辞めてもいいから生みたかったのに、綾人がそうしろって。大学卒業したら結婚するから子供はその後でもいいだろって言われて……だから私……」
なるほど。だから石井由香は必要以上に双子の真美を嫌っていたのか。
石井由香にとって高田綾人は将来の結婚相手だ。何としても掴んで置きたかったのだろう。
震える石井由香を双子の真美がギュッと抱き締める。
「真美さんはそれを知っていたんですか?」
「病院に付き添ったから……でも、勘違いしてて……由香が子供を盾にして綾人に結婚を迫っていると思って……そんなの卑怯だって」
それでお互いに張り合っていたのか。ちょっと話し合えば良かっただけなのに、何て言うか可哀想だな。
「だから人形を盗む高田綾人に協力したんですね?」
「三十万貰ったら二人きりで旅行しようって。出掛ける時はいつもサークルの皆も一緒で、一度も二人でデートなんてした事なくて……だからどうしても行きたくて」
「どういう手筈になっていたんですか」
「綾人と一緒に車で来て、私はここの人の注意を出来るだけ長く集めろって言われてたけど」
「長くとはどのぐらいですか?」
「ハッキリ言われた訳じゃないけど、たぶん一時間とか二時間ぐらい」
それに頷き、正午が口を開く。
「思った通りです。石井さんが高田綾人とこの家に来たのが午後一時をちょっと過ぎた頃です。こちらの注意を惹き付けるために一時間も騒ぎを起こしたら森山さんとの待ち合わせに間に合いません」
「どういう事……?」
石井真美が首を傾げて正午を見つめる。その視線を受けて、臆する様子もなく続けて言う。
「高田綾人は最初から石井さんを見捨てるつもりだったんです」
沈黙が流れる。
俺がそれに気付いていたんだから森と木村も分かっていたのだろう。どこか白けた目で石井真美を見つめている。
だが、石井真美と由香の姉妹は目を見開き驚愕の表情を浮かべていた。
「ど……どうして」
「由香さん」
真美の質問に答えず、その隣にいる由香を見る。
「真美さんは高田綾人の言いなりだった、そう言ってましたよね」
「うん。都合のいい女って言ってたの聞いた事ある……真美だけじゃなくて私もそう思われてたんだろうけど」
「そうなんでしょう。お二人は高田綾人にとって幾らでも替えの効く駒のように扱われていたんじゃないですか」
「綾人は私に全部押し付けて一人で逃げるつもりだったの……?」
絞り出すように石井真美が呟く。それに正午が「違うと思います」と答える。
「皆さんから聞いた話から推測するに、高田綾人は狡猾な人物だったのでしょう。ですが、真美さんに罪を被せるつもりならもっと上手く立ち回るべきです。騒動が落ち着いたら真美さんはキャンプ場に戻るんですから、車がなくなっていたらすぐに分かった筈です」
「そう……だね。水の入ったポリタンク抱えてキャンプ場まで戻れないし、車がなかったら誰かに手伝って貰おうと思ったかも」
「そうなったら幾ら何でも真美さんだって高田綾人が裏切ったと分かったでしょう。そこまでされて真美さんが高田綾人を庇う理由はない筈です」
「それはそうだけど……」
自信なさそうに石井真美が相槌を打つ。
「それなのに真美さんを見捨ててキャンプ場に戻り森山さんに人形を見せるつもりだった。真美さんの行動次第では、僕たちが追って来るかも知れないのにです。高田綾人には共犯者がいたのでしょう。その人物がこの計画を立てたと考えた方が分かりやすいですから」
石井姉妹が互いを励まそうとしてか、更に身を寄せる。巻野はそんな二人から目を逸らし、畳をジッと見つめている。
「計画を立てたのはここにいない人物、楠本マナミさんです」
「どうしてマナミが……」
石井由香が不思議そうに口を挟む。正午がそれに先ほどの缶を取り出して蓋を開ける。
「嬰児の遺灰だと思われます」
嘘とかヤダとか石井姉妹が悲鳴を上げる。それに頓着せず、正午は石井由香に質問する。
「楠本マナミさんは留年してますよね。その理由をご存知ですか」
「知らないけど……病気でって誰かに聞いたかも」
「私もそう聞いたよ。だから今年の春にマナミと会った時に病気だから痩せたのかなって納得したんだし」
口々にそう言うのを、顔を上げた巻野が遮る。
「マナミも妊娠したんじゃないのか……?」
それに正午が視線で続きを促す。
「マナミがサークルに入る前だったかな、男三人だけで飯食いに行った時聞いたんだよ」
「何をですか」
「その……二人がマナミに薬盛って襲ったって」
その言葉に部屋の気温が下がったような気がした。
原因は森だろう。
もともと、自分なりの正義を持っているようだが、女の人が酷い目にあうのは特に許せないらしい。だが、ここで怒りを爆発されてもどうしようもない。
高田綾人も沢渡玲也も死んだんだから。
無言のまま怒りに震える森の肩をそっと叩く。すぐさまギロリと射殺されんばかりの勢いで睨まれたが、何とか落ち着いてくれたらしい。溜め息のような深呼吸をして俺の手を振り払う。
「俺なら言いふらす相手もいないと思ったのか、自慢そうに喋ってたよ。玲也なんて一度抱いたんだから簡単に足開くだろって……だから、そのあとマナミがサークルに入って、ガッカリしたようなちょっと納得したような複雑な気分だった」
「拓土はあの二人にいじめられてたもんね」
石井由香がそう口を挟む。
高田綾人はトランクに押し込められて死んでいる状態でしか見た事ないが、巻野は沢渡よりは身体が大きいだろう。それなのにイジメ?
「俺……高校の時に万引きしたのを目撃されて、あの二人には逆らえなかったんだ」
巻野の話によると、高校時代は野球部に所属していたらしい。県大会が近づくにつれ、そのプレッシャーに耐えきれずコンビニで万引きをしてしまった。それを高田綾人と沢渡玲也に見られ、卒業したあと四年間も脅迫されていたそうだ。
「玲也には金取られたり殴られた事もあったけど、綾人は違うんだ。簡単な、本当に些細な事を頼んで来るんだ。傘貸してくれとか先輩に連絡しといてくれとか……だから最初は玲也が嫌いだったんだけど、あの二人を見ているうちに違うんじゃないかって思うようになって。玲也が俺に金をせびるのも無意味に暴力振るうのも綾人がそうさせてるような気がして、最近では綾人の顔見るだけで胃が痛くなってたんだ」
「キャンプ場で酔っぱらったのも?」
「たぶん綾人にそうしろって言われて玲也が俺に飲ませてたんだと思う」
「私も、いつの間にか綾人の言う事聞かなくちゃいけないって思ってたかも」
石井由香の言葉で、六人の関係が朧げながら見えて来た。
サークルの中心人物は高田綾人だったのだろう。頭が良くて要領も良かった高田の腰巾着が沢渡。そんな二人のサンドバッグとして引きずり込まれた巻野。
「お二人は楠本さんが襲われたと知っていましたか?」
正午の質問に双子が揃って首を振る。
「だったら、楠本さんはもう誰も殺さないでしょう」
「マナミは……今どこに、」
それに対して正午は小さく首を振る。双子が何かを求めるように俺を見るが、答えられない。
「陽が昇れば祭は終わります。そうしたら警察に連絡して、楠本さんを捜索する事も出来ると思います」
正午の言葉に全員が小さく頷く。
いつもと投稿時間が違ってしまいました。
最後まで予約投稿したので今後は大丈夫だと思います。




