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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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22

 「大学生はどうするんだ」


 隣の座敷にいる筈の連中を思い出して、そう訊ねる。

 やけに静かだけど、まさか寝てるのか?


 「この家から出なければ安全ですから放って置きましょう」


 そうなのかも知れないけど、もし外に出たらどうするんだ。それに石井由香の事もある。

 木村たちは二階へと向かったが、石井由香は部屋の隅で踞ったまま泣き続けているのだ。これを放置するのは、流石に気が咎める。


 「仕方ありませんね。隣の座敷で一緒にいて貰いましょう」


 そう言って廊下に出た正午がふと眉を寄せる。何かあったのだろうかと追い掛けると、階段のすぐ傍で大学生の男……沢渡だったかが、森に何やら声を掛けていた。

 内容までは聞き取れないが、浮ついたお世辞で森の気を惹こうとしているのは何となく分かる。有り体に言うなら、ナンパしているのだ。

 仲間が殺されたと言うのに、不謹慎と言うか暢気だな。


 助けに行った方がいいのかな、沢渡を。

 そう思った瞬間、森が膝を曲げて僅かに屈むのが見えた。


 あ、間に合わない。

 綺麗に回し蹴りを決めた森が降ろした足を倒れた沢渡の股間に乗せる。アッと言う間だった。拍手したいぐらい見事だった。


 「下衆が。このまま去勢してやろうか」


 見守っていると、そう呟いて沢渡の股間を踏みつける。

 怖い!怖いよ、森!


 慌てて駆け寄り、森の肩を掴んで後ろに引っ張る。


 「落ち着け。怒るのも分かるが、ここでこの男の股間を踏みつぶしたらお前が加害者だぞ」


 そう言ってドウドウと背中を叩く。猛獣使いか、俺は。

 そんなセルフツッコミをしている間に森は気勢を削がれたのか、素っ気なく俺の手を振り払う。そして、ブリザードのような空気を発しながら階段へと向かう。

 石井由香の話を聞いた直後にナンパされたら、そりゃ腹が立つよな。森は恋愛に関して少し潔癖なようだし、俺が止めなかったら本気で沢渡の股間を踏み潰していただろう。


 「大丈夫ですか」


 ヨロヨロと起き上がった沢渡に問い掛けると「何なんだよ、あの女」と吐き捨てる。


 「ちょっと可愛いからっていい気になりやがって」


 いや、森は別にいい気になんかなってないぞ。顔立ちが整っているのは本人も自覚しているようだが、それがどうしたって思っている筈だ。そうでなかったら、ああまで傍若無人な振る舞いは出来ないだろう。


 「お前が彼氏か。自分の女ぐらいちゃんと飼いならせよ!」


 やめろ、何て恐ろしい事を言うんだ。

 森と付き合えるメンタルの男がこの世にいるとは思えない。男とか女とか関係なく、きっと強くても弱くてもダメだろう。正々堂々、我が道を行く。それが森という女なんだ。

 それに俺には正午がいるんだ。本気でやめてくれ。


 「女性を何だと思っているんですか」


 どう説き伏せたのか、正午が石井由香を連れてやって来る。


 「これで分かったでしょう。あなたがしがみ付いていた物が如何に下らないか」


 そう言われた石井由香が顔を伏せたままコクンと頷く。


 「バカみたい、こんなクズにチヤホヤされてそれで喜んで……本当にバカみたい」


 振り絞るようにそう呟き、両手で顔を覆う。

 その背中を宥めるようにそっと撫で、正午が大学生のグループがいる座敷へと向かう。

 石井由香はどうやら後悔したらしい。だからって過去は変わらないが、未来を変えるのは自分自身だと気付いたならいい。

 それに少しばかりホッとして沢渡を見る。

 怪訝そうな、腑に落ちないといった顔をしている。


 「何だ……由香のやつ、戻って来たのか」


 俺がそれに答えないでいると、ヘッと短く笑う。


 「だったら由香でいいか」

 「何がだ」

 「真美が変になったからな。マナミはメンヘラだし、この際、新規開拓するかって思ったけど、由香で我慢するしかねぇな。手頃だし」


 やっぱりか。

 サークルの女たち全員と関係を持っているのだろう。それに関しては、俺が口出しする事ではない。本人の問題だからだ。

 だが、人間としてどうかと思う。ただ快楽を求めて、相手の人格を踏みにじっているだけじゃないか。

 これはもう簀巻きにして転がして置いた方がいいのかも知れない。


 「今の子も結構いい線いってるし、男も試してみるのもアリだよな」


 正午の事だ。そう理解した途端、身体が動いて沢渡の頬に拳を叩き込む。

 あ、凄い。

 自分でやって置いて何だが、俺って瞬発力あったんだな。

 人を殴って傷む拳を摩りながら自分自身に感心する。うん、スゲー。


 殴られた衝撃でか、鼻血垂らしながらギャーギャー喚く沢渡はアホっぽい。

 下衆だとか最低だとかアホだとか、どれも事実なのが、流石に置き去りにする訳にも行かないだろう。仕方なく、襟首掴んで引きずって行く。


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