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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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20

 「森山さん……」


 修司さんが狼狽したように小さく呟く。

 バスで会った時と同じく、得体の知れない風貌をしている。

 服装からは職業どころか年齢も推し量るのが難しく、楽しそうにうっすらと微笑んでいる表情も何を考えているのかよく分からない。


 「木村さん、お久しぶりです」


 生贄の人形を盗ませたと言うから、木村兄弟とは敵対していると思ったのだが、意外な事に森山の態度は柔らかい。

 修司さんに軽く頭を下げ、木村を見てから続けて正午へと視線を動かす。


 「君が祭司って事かな」

 「比与森です」


 正午が素っ気ないとも言える声でそう言う。それに一つ頷き、後ろを振り返る。

 何だろうかと首を伸ばすと、ヒステリーを起こして逃げは筈の石井由香がションボリ立っていた。


 「どうして」


 修司さんが驚いたように声を上げる。

 何があったのか分からないが、石井由香の髪やら服から雫が垂れている。先ほどの乱闘騒ぎで化粧は既に落ちていたのだが、どうやら全身濡れているらしい。見ると、連れて来た森山もシャツが濡れている。

 森がスッと立ち上がってどこかへ行く。きっとタオルを取りに行ったのだろう。


 「森山さん、何があったんですか!」


 修司さんが狼狽えた声で問いつめる。全員が同じ事を思った筈だが、それにしても少しばかりオーバーな気がした。


 「その子が外に停まってた車で逃げようとしたんですよ。だから声を掛けたんですが、いきなり走り出したので慌てて追い掛けたら祠の裏にある池に落ちてしまって」

 「車……?」


 キーがないので、修司さんのではないだろう。

 だったら、石井真美が乗って来た軽自動車に違いない。死体を発見した時、キーは刺さっていた。そのままにして来たが、まさか死体を積んだ車を盗もうとする奴がいるとは思わなかった。

 取り乱して逃げた割に、逞しいと言うか図太いと言うか。


 森がタオルを持って戻って来る。その一つを受け取り、森山が顔を拭う。

 残りのもう一つを石井真美に差し出すが、俯いたきり動こうとしない。


 「大丈夫ですか」


 見兼ねたのか、正午が声を掛ける。すると、急にブルブルと震え出す。


 「こんな変なとこ……もうイヤ……」


 震えながらしゃがみ込んで立てた膝に顔を埋める。

 しゃくり上げる声がして、どうやら泣いているらしいと分かる。


 「何なの、ここ……子供の声がずっとしてる。どうしてみんな平気な顔してるの……」


 叫ぶ気力もないらしい。まぁ、ヒステリー起こしたぐらいだから、石井由香のメンタルが弱い事は薄々分かっていたんだが。


 「私が何したって言うの、どうしてこんな目にあわなきゃいけないのよ……っ、」


 耐えきれないとでも言うように嗚咽を漏らす。

 その目の前で膝を折り、正午が石井真美に問い掛ける。


 「子供の声がずっと聞こえてたんですか」

 「そうよ、死ねとか何とか……この家に来てからずっと聞こえてたわ」

 「それでパニックになって逃げ出した、と。車のトランクに高田綾人の死体が入ってるのは知ってますよね、どうするつもりだったんですか」


 正午の質問に、石井真美は顔を伏せたまま黙り込む。

 もしかして、何も考えてなかったのか?

 常識ではそんな事考えられないが、沈黙がそれを肯定している。


 ここ数時間の行動で石井由香の性格は少しばかり把握しているので分かる。

 間違っても警察には行かない。単に山を降りたかっただけだ。その後は車を乗り捨てて家に帰るつもりだったのだろう。

 サークルの仲間を置き去りにして、好きだった男の死体を車ごと捨てて、自分は悪くないと言い張ろうとしたのか。

 そうしたい気持ちを理解できない訳ではない。でも、逃げたところで何一つ解決しないと分かっているだろうに……何と言うか、それは余りに無責任なんじゃないか。

 全員が石井由香の行動の理由に思い至ったか、気まずい空気が流れる。

 それを破ったのは正午だった。


 「森山さん」


 立ち上がると硬質な声で呼びかけ、森山を見る。


 「人形を破壊したのはあなたですか」

 「違うよ、私が行った時にはもう壊れていたんだ」


 本当かな。森山にもアリバイがないのだ。高田綾人を殺したのが森山なら嘘と言う可能性もある。


 「どうして人形を盗ませたんですか」

 「それも違うな。私は人形を持ち出して欲しいって頼んだんだよ」

 「何のために」


 正午がそう問いつめると、森山が困ったように頬を掻く。


 「趣味で昔話を収集しているんだが、その理由は私の両親がこの村の出身だからなんだ。小さい時に何かの拍子にこの村で祀ってた龍神の話を聞いてね、面白そうだと調べてみたんだよ。でも、この村を纏めていた木村家以外、龍神について殆ど知らなかったんだ。ただ、生贄として選ばれた娘の家だけがそれを知っていた……彼らの話を聞くうちに、戦後から祭の様式が変わったのは分かったので、詳細を調べたらどうやら人形を使って祭を行っていると突き止めたんで、その人形を調べてみようと思ったんだ」

 「調べて……あとはどうするつもりだったんですか」

 「返すよ、当然」


 へ……と呆気に取られる。

 三十万出すから人形を盗めと言ったんじゃないのか?


 「この村で龍神の祭がどれだけ大事なのか理解しているつもりだからね。本当は関係ない私が見る事すら許されないんだけど、どうしても知りたくて」


 そこまでして何を知りたかったんだ。

 ジッと見つめる中、森山が思わせぶりな視線を修司さんに向ける。何だろう。

 だが、修司さんを振り返るよりも先に正午が口を開く。


 「森山さんが知りたかったのは、この土地に龍神がいないのではないかと言う事でしょう?」

 「え!」


 思わず大声を上げてしまう。

 何言ってんだ!さっき、否定したばかりだろ、お前。

 龍神がいなかったら祭なんてしなくていいだろ。祭をしないなら生贄は必要なくて、人形が壊れても問題ない筈じゃないか!


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