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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
77/103

19

 戻った俺たちを見て、修司さんがホッとしたように息をつく。

 他にいるのは弟の木村だけだ。大学生たちはどこに行ったんだ?


 「巻野くんの具合が悪いようだから、隣の部屋で休んでもらっているんだよ」


 俺の疑問に答えるように修司さんがそう言う。

 まぁ、一緒にいたところで話が弾むとも思えないし妥当な判断だろう。


 「他の大学生もですか?」

 「ここにいて貰っても気詰まりかと思ってね」


 困ったように苦笑いする。


 「ねぇ、それより森山って人は探さなくていいの?」


 俺たちの後ろから森がそう口を挟む。

 そうだった。高田綾人に人形を盗ませたのはその人なんだ。もしかしたら殺したのも森山かも知れない。そんな奴が自由に歩き回っているなんてちょっと危険だよな。


 「石井由香はまだ見つからないんですか」

 「うん……」


 別に三人の所為じゃないのに、木村兄弟と森が気まずそうに頷く。


 「そうですか、手遅れかも知れませんね」

 「それって?」


 修司さんが驚いたように声を上げる。そちらを見て正午が答える。


 「屋内を探して見つからないのなら外に出たと言う事になります。それだけなら何とかなったかも知れませんが、今は祭の最中で捧げるべき人形が一体足りない……どういう事だか分かりますよね?」


 正午が真っすぐに俺を見る。人形の仕組みについて説明したのが俺だけだからだろう。

 人形が破壊された事によって、生贄が足りなくなったのだ。それを補う為に石井由香が殺される……そう言いたいのだろう。


 「何とかならないのか」

 「無理です。仕組みを作ったのは祖母ですが、それを動かしていたのはこの土地に住んでいた人たちです。僕にはどうする事も出来ません」


 龍神じゃなくて村の住民が?

 人形を生贄の代わりにして来たのは、言われてみれば確かに村の人間の方だ。龍神は木村家の人間に騙されていた事になる。


 「龍神と言っても元はただの滝です。水害が起きてその結果として人が死ぬ事はあるでしょう。でも、そこに殺意なんてないんですよ」

 「だったら祟りって何なんだ」


 矛盾している。木村の両親は龍神の祟りで死んだんだろ。


 「さっき祟りについて説明しましたよね。何代にも渡って非業の死を遂げる、それを知った周囲が祟られてると噂する、と」

 「ああ」


 だから木村家は龍神に祟られてるって話だったんだ。

 長女を病気で亡くし、祭を怠った両親が揃って事故死した。そのため、龍神の怒りを買った木村家の人間は祭の間、外に出るなって話だった。


 「でも、人が死ぬのは当たり前とも言えるんですよ。生まれたからには必ず死ぬんですから」

 「そりゃそうだけど……」


 呆れた声を出してしまったのは仕方ないだろう。

 今はそういう話ではない筈だ。木村家の人間ばかりが病気や事故で死んだんだ。それを偶然と言ってしまうのは少し無理があるんじゃないのか。

 俺だけでなく他の連中も納得しかねると言った様子で正午を見つめている。それを察したのか、小さく肩を竦めて言葉を続ける。


 「いいですか。娘を病気で亡くしたばかりの両親が気落ちしない筈がないでしょう。不注意から事故を起こしてしまったとしても不自然ではないと僕は思います」

 「祭をしなかったのはどうしてなんだ?」

 「比与森で不幸があったからです」

 「あ……」


 そうだ、うっかり忘れていたけどばあさんが死んだのは丁度その頃だ。ばあさんが死んだから戻って来た白尾を躱しきれず、俺の母さんと正午の妹は死んでしまったのだ。

 記憶を封印されたから、正確にいつの事なのかは分からない。だが、正午の妹が死んだのは十年前だ。その前に母さん、俺が生まれて間も無くって事だったから十八年ぐらい前に、更にその数年前にばあさんが死んでいたんだ……確かに祭をするのは無理だったろう。


 「じゃ、偶然だったって言うのか?」

 「偶然か必然か、そこは問題じゃありません。祟りとは、それを観測する何者かがいなければ成り立たないと言っているんです」

 「第三者って事?」


 正午の話に興味を惹かれたのか、修司さんが問い掛ける。そちらに目を向けて正午が言う。


 「いえ、当事者でも構わないんです。自分は祟られてると言えば周囲もそうなのかと思うでしょうから」


 そんな単純な事なのかな。でも、そうだな……祟られてると言われて、更にその人物の身内で不幸なんかあったら信じるかも知れない。

 そこまで考えて、あれ?と思う。

 正午が言ったのは、そのまま木村家に当て嵌まるじゃないか。

 修司さんから祭の相談があって、その場では祟り云々の話がなかったとしても、正午はばあさんが残した台帳から木村家の事情を飲み込んだ筈だ。それなら直接聞いてなくても、木村家が龍神に祟られてるって思うんじゃないのか?


 でも、もし……祟りでないとしたら。

 四才で病死したんだから、木村冴子は生まれつき何らかの疾患を抱えていた可能性が高い。その闘病も虚しく娘は死んでしまったのだ。両親の失意は大きかっただろう。

 その不注意から事故を起こしたとしても、確かにあり得ない話ではない。いや、そうじゃない。

 何かおかしい。ボタンを掛け違えているような、何かが噛み合ってないような気がする。


 「もしそうなら、前回の祭で龍神は誰の事も祟らなかったって事になるんじゃないか?」


 おそるおそる問い掛けると、修司さんがハッとしたように息を飲み、木村は怪訝そうに首を傾げる。

 この場所は村としての機能を失ったんだ。雨乞いをする必要はもうない。

 それでも祭をするのは、祟りが恐ろしいからなのだろう。迷信だと無視する事はできる。でも実際に木村の両親が祭を怠り、事故で死亡しているんだ。不注意からの事故だったとしても、絶対に祟りではないと言い切る事は難しいだろう。

 だから、この家だって残してあるんだろうし、その祭のために俺たちはここに来たんだ。それに……そうだ、結界もある。

 キャンプ場からバス停に行けなかったのは龍神の結界がある所為だった。でも、何て言うか物凄く存在感が薄い気がする。


 「そういう事だと思います。祟るほどの力を持ってないのか、そもそも祟る気がないのか」


 やっぱり。十年前に祭をしなかったのは関係ないのだ。その時に祟りなど起きてない。


 「だったら、祭なんてしなくても」


 訳が分からないなりに理解したらしく、木村が口を挟んで来る。

 そうだよな。俺たちはただの部外者だけど、木村にとっては大問題だ。この山に来るだけでも手間だろうし、かと言って無視すれば祟られて死ぬと言われたんだ。

 それなのに龍神にそんな力がないと言われたんじゃ納得できないだろう。


 「今は祟らないかも知れませんが、この先もそうと決まった訳じゃありません。長く続けていた事には意味があるんです。祭をやめるにしてもそれなりの手順ってものがあるんですよ」


 そう言われてしまっては何も言い返せないのだろう。腑に落ちないといった顔つきで木村が黙る。

 龍神に関してこれ以上、議論しても意味はないか。


 俺と同じ結論に至ったのか、森が「ねぇ」と声を上げる。


 「高田綾人が殺した犯人を見つけた方がいいんじゃないの?」


 その言葉に全員が森を見る。当の本人は注目を集める理由が分かっていないらしくキョトンと首を傾げる。


 「どうして殺されたのか、その理由が分からないでしょ。明確な目的があったなら兎も角だけど、通り魔みたいに誰でも良かったって事だったらここにいる全員が危ないって事になるじゃない」


 それはそうだ。祭が終るまで山から降りられないんだ。しかも結界がある所為で木村家から出る事すら困難だ。そんな状況で殺人鬼が紛れ込んでいたら逃げる事すら難しいかも知れない。


 「考えてみたんだけど、私たちに高田綾人を殺す動機のあるとは思えない。かと言って大学生のグループは石井真美以外は全員がキャンプ場にいた訳だし、石井真美だってその時私たちと一緒にいたでしょ。だったら、森山って人が怪しいんじゃない?」


 確かに森の言う通りだ。森山と言うのがどんな人物か分かっていないのだ。知合いを疑いたくない心理もあって、森の言葉に頷きそうになる。だが、ふと思い出す。


 「いや……大学生にも高田綾人を殺す事が出来たのかも知れない」

 「どういう事?」


 森に問われて、キャンプ場から帰る途中で見た自転車の跡を話す。


 「ああ、そう言えば夏の間、管理人が自転車に乗ってるのを何度か見かけたよ」


 修司さんが思い出したようにそう呟く。

 木村が修司さんの言葉を引き取るように頷く。


 「それなら俺も一度借りたな。今朝、バスの時間を見に行こうと思って通り掛ったら炊事場の隣に立てかけてあったから」


 と言う事は。

 自転車には鍵がついていなかったと言う事になる。問題は大学生たちがそれに気付いたかどうかだが、石井真美が木村家に来た時に炊事場の水が出ないと言っていた事から知っていたのではないかと予測がつく。


 「誰か来たようですね」


 正午が突然そう呟く。

 キシッキシッと。何者かの歩調にあわせて床板が鳴る。

 ゆっくりと足音が近づいて来る。そして、この座敷の襖。その向こうで立ち止まる。

 森は気圧されたように立ち尽くしたままだし、正午も動こうとはしない。


 だが、スッと腰を上げた人物がいた。木村だ。

 普段は可能な限り動きたくないといった様子なのに、珍しく素早い動きで襖を開け放つ。


 陽が落ちて暗くなった廊下。

 そこに立っている人物を見て、思わず声を上げてしまう。


 「あ……」


 バスで出会った変人だった。


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