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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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18

 やっぱり、キャンプ場にいた四人が怪しい。


 「動機は何ですか」


 俺の推理を聞いて正午がそう問い返して来る。

 痴情の縺れと言ってしまっていいだろう。何しろ、ヤル事しか考えていない連中ばかりなんだし。

 楠本マナミから聞いたヤリサー云々の話をすると、正午が軽蔑したように鼻を鳴らす。


 「欲望のままって事ですか……それで四人の中の誰が一番怪しいと思うんですか」


 男二人はベロンベロンに酔っていたとは言え、その前に高田綾人を殺していたのかも知れない。どんな人間でも人を殺せばマトモな精神状態ではいられないだろう。それをやり過ごすために酒を飲んだとも考えられる。

 だけど、動機の面では首を傾げざるを得ない。

 女の取り合いと考えてしまえば簡単なのだが、単にヤリたいだけなら一人の女にこだわる必要はない筈だ。少人数とは言え、サークルという組織を作っているんだから……胸くそ悪い話だが、自分の女を他のメンバーに宛てがったとしてもおかしくないのかも知れない。


 だったら石井由香か?

 高田綾人を双子の真美と取り合っていた。だが、高田綾人は石井真美に窃盗の片棒を担がせたのだ。それを知った由香が取られるぐらいならいっその事って殺してしまったとしたらどうだ。


 「……少し気になる事があるんです」


 自分の考えに没頭していたが、正午の呟きに瞬きをする。


 「子供の、女の子の幽霊がいるって騒ぎになった時なんですけど……」

 「ああ、さっきの」

 「はい。あの時、一人だけ落ち着いていた人がいたんです」

 「俺たち以外に?」


 木村兄弟は龍神の存在を信じているから怯える事はないだろう。森が何かに恐怖する事なんてないだろうから落ち着いていて当然だ。


 「はい。髪の長い……司郎と一緒に来た人が」


 楠本マナミか。

 でも、幽霊の後ろ姿を見たのは男だったし、声を聞いたのは石井姉妹だ。楠本マナミは見ても聞いてもいないんだから、ピンと来なかったとしても無理はない。

 そう言うが、正午は腑に落ちないのか首を傾げている。


 「複数の人物が幽霊を見たと騒いでいるんですよ。しかも騒いでいるのは自分の仲間です。それなのに落ち着いていられるものでしょうか」


 どうだろう。俺は自分が見てしまう側だから何とも言えないけど、森で想像してみるとあり得ないとも言えないような気がする。

 森は幽霊を頭から否定はしないけど、自分の目で見るまでは信じそうもないんだよな。怪談とか聞いても「それが?」ぐらいで済んでしまいそうだ。


 「幽霊を全く信じてないからとか」

 「綺麗に掃除されていますけど、ここは空き家なんですよ。そこで幽霊を見たと言われたら、誰だってひょっとしてって思うんじゃないでしょうか」


 そういうものかも知れない。正午も言ったように綺麗に掃除されているから廃墟って感じはしないけど、建物が古いだけでなくかなりの広さだ。幽霊を信じていなくても気味悪く思うのが普通なのかも知れない。


 「騒がれるよりマシじゃないのか?」


 一緒になって悲鳴上げられるより大人しくして貰った方が楽だろ。それに落ち着いて見えただけで本当は怯えていたのかも知れないんだし。


 「そうなんですけど、ただちょっと気になって」


 歯切れ悪く正午がそう呟く。


 「何が」


 心配になって声を掛けると、躊躇うように顔を上げる。


 「落ち着いていたのは何か心当たりがあったからではないかと」

 「心当たりって?」


 幽霊が誰なのか知っていたって言うのか?

 でも、正午の妹を楠本マナミが知っていたとは思えない。

 風紀の乱れた大学生と、拝み屋まがいの高校生。そこに接点などないだろう。


 「彼女が朝日を知っていたのではなく……僕が言いたいのは、小さな女の子の幽霊がいてもおかしくないと彼女が思っていたのではないかって事です」

 「子供の幽霊か……」


 その言葉で思いつくのは、大学生たちのサークルだ。

 正式な名称は知らないが、飲みサーだと言い、更にはヤリサーだとも言っていた。

 そんな乱れた関係なんだ、誰かが妊娠してしまい中絶したとしてもおかしくないのかも知れない。


 「水子の霊だと思ったのか」

 「その可能性はあるでしょう。実際には間違っているんですが、石井たちはそれがあるから極度に怯えたとも考えられます」


 あ、そうか。心当たりがあるから怯えるってのもあるよな。むしろ、そっちが自然か。

 いやいや、正午が訝しんでいるのは楠本マナミが落ち着いていたからだよな。幽霊を信じていなくて、更に心当たりもなかったら取り乱さなかったとしても普通なんじゃないのか?

 何が問題なのか分からなくて、座ったまま腕を組む。


 「あ、ここにいた」


 カラリと襖を開けてやって来たのは森だ。


 「どうかしたのか」

 「二人とも戻って来ないから探しに来たのよ」


 そう言ってチラリと布団で眠る池水を見る。

 中に白尾が入っているとバレる筈はないのだが、何となくドキッとする。


 「そう言えば修司さんに付いてないといけないんじゃなかったのか?」


 慌てて話を変えるようにそう聞くと、正午が小さく頷く。


 「何時ですか」

 「五時二十分だよ」


 俺より先に森が答える。

 秋の事なので、外は既に暗い。だったら龍神の祭はもう始まっているのだろう。


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