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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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14

 その後、手分けして探したのだが、一時間ほどして諦める事になった。日没だからだ。

 双子の石井真美は不服そうにしていたが、反対する様子はない。


 何となく全員が居間に集まり、今更のように大学生の男二人を紹介される。

 子供の後ろ姿を見たと言っていたのが沢渡玲也、もう一人が巻野拓土を言うらしい。

 沢渡は外見を気にする性格なのだろう、アクセサリーをチャラチャラ付けている上に整髪料だか香水だかがプンプン匂っている。遊んでますって言いふらしてるような見た目だ。

 巻野の方は何かスポーツをしているのか、ガッチリとした体格にシンプルな服装だ。

 その巻野は青ざめた顔のまま、いまだにグッタリとしている。酒弱いなら飲まなきゃいいのに。


 「綾人が殺されたって本当なの?」


 軽い口調で修司さんにそう訊ねたのは沢渡玲也だ。


 「キャンプ場では詳しく話せなかったけど、石井さんに聞いたんですか?」


 修司さんがチラリと石井真美を見て、溜め息混じりに頷く。


 「本当ですよ、首を切られて死んでいました」

 「マジかよ。だったら警察に……」


 それに答えたのは正午だった。


 「明後日まで外部との連絡は不可能です」

 「どうして」


 沢渡だけでなく他の大学生たちも不思議そうに正午を見つめる。その視線を受けて、正午が億劫そうな溜め息をつく。


 「龍神の祭があるからです」

 「そんなの……綾人が殺されたんだぜ」


 巻野が納得しかねる様子でモゴモゴと呟く。


 「僕たちがここに来たのは祭の為です。そして高田綾人さんは祭で使う人形を盗もうとして殺されたんです」

 「じゃ、犯人はあんたたちの誰かって事だろ」


 つまらなそうに沢渡がそう言い返す。


 「綾人が何でそんな物盗もうとしたのかは知らないけど、その現場を押さえて揉み合ってるうちに殺しちゃったって事だろ?」


 どうかな。確認した訳じゃないけど、俺たちはあんな所に車が停まっている事も知らなかったんだ。


 「あり得ません」

 正午がキッパリとそう答える。


 「僕と司郎と森さんは、木村家の人間ではありませんから人形を盗まれても支障はありません。司郎と森さんは正義感が強いから窃盗の現場を目撃したら、もしかしたらそれを阻止しようとするかも知れませんが、揉み合って相手を殺してしまうほど強く抵抗するとは思えません」

 「じゃ、人形の持ち主が犯人だ」

 「それも絶対にありません」

 「何でだよ」


 言った傍から否定されて沢渡がムッと口を尖らせる。それをせせら笑うように正午が答える。


 「木村家の人間は人形に触れられないからです」

 「でも、このお家の人形なんでしょ?」


 楠本マナミが不思議そうに問い掛けて来る。


 「はい。石井さんには話しましたが、人形の価値は一千万円を下らないんですよ。そんな高価な物を普段は空き家であるこの屋敷に放置していたのは何故だか分かりますか」

 「一千万……触れないからってこと?」

 「その通りです。それに高田綾人さんの遺体が車のトランクにあった事と凶器が見つかっていない事から発作的な犯行だとは思えません。犯人は最初から高田綾人さんを殺すためにここまで来た、そして人形を壊し時間を稼ぐために遺体を隠した。高田綾人の存在を知らなかった僕たちにはそんな事をする理由も機会もないんですよ」

 「じゃ、私たちの中に犯人がいるってこと?」


 そう言って疑うように仲間を振り返る。

 石井真美は怯えて俯いたままだし、男二人はムッとしたように押し黙っている。


 「もう一人いるんじゃないの?」


 森がふと思い出したように口を開く。


 「キャンプ場で降りたバスの客がいたでしょ」


 その言葉に、そう言えば……と思い出す。

 鬼婆の話を延々としていた若い男がいた。あの男はどこに行ったんだ?


 「各地の伝説を集めていると言っていた人物ですね……特徴はありますか」

 「眼鏡掛けて、ラフな感じの若い男の人だったかな」


 思い出しながら答えると、意外な事に修司さんが「眼鏡?」と問い返して来る。


 「はい。鬼婆とか神隠しの話をして……そう言えば、この山に集落があったとか言ってたような」


 修司さんの顔色が見る見る青ざめて行く。どうしたのだろうかと見つめていると、すぐ横で正午が溜め息をつく。


 「お知合いのようですね。恐らく、この山に住んでいた家の人でしょう」

 「ああ、確か名前は森山さんだったかな……数年前に連絡を貰って会った事があるんだけど、彼なら祭の事も人形の事も知っている筈だ」

 「だったら高田綾人に人形を盗むように依頼したのはその人でしょう」

 「でも、どうして……」


 混乱しているのか、修司さんが頭を抱える。


 「兄貴……」


 落ち着かせようとしてか、木村がそっと修司さんの背中に手を添える。

 普段は一歩だって動きたくないという面倒臭がりだが、流石に兄弟を放って置く訳には行かないのだろう。木村にとってたった一人の家族なんだし。


 「さっき聞いたんだけど、木村のご両親の事故は龍神の祟りって事になってるんでしょ?」


 森の質問に正午が頷く。


 「断言はできませんが、そうとも考えられます」

 「だったら、高田って人も龍神の祟りで死んだって事はないの?」


 その意見に驚いて森を振り返る。

 何て言うか、森はもっと現実的な人間だと思っていたのだ。前に学校でコックリさんをやっていた女子をバカにしていたし。


 「祟りと言うのは仮説の一つです。物事には原因と結果があり、その過程を説明するのに『祟り』や『呪い』という言葉が使われるだけです」

 「どういう事?」

 「たとえば……些細な失敗が続いたとします。道で転ぶ、財布を落とす、犬に吠えられる。それを自分の不注意だと思う人もいれば、何かに呪われてると思う人もいます」

 「道で転んだだけで呪われてるなんて思うかな」

 「そういう人には、そう思うだけの根拠があるんですよ。他人を陥れて財産を横取りしたとか、女性を身籠らせて自殺に追い込んだとか」


 その言葉に何となく、高田と巻野を見る。耐えられなくなったのか巻野は畳で横になっていたし、沢渡も心なしか顔色が悪い。


 「ただ周囲が祟りだと信じるのは、それなりの演出がされているからだと思います」

 「演出って?」

 「被害の大きさですよ。財産を横取りした本人だけでなく、家族全員が死ぬ。或いは血筋が途絶える。被害が大きければ大きいほど、人々は因縁を感じて『祟り』と噂されるようになるんです」


 ああ、だから木村家は龍神に祟られてるって言うのか。

 娘が死亡して両親が事故にあい、生き残ったのは修司さんと木村の二人だけ。放って置いたらその二人も命が危ないかも知れないんだ。


 「高田の死を祟りだと思うのは個人の勝手ですが、木村家と関わりを持たない高田が祟りにあうとは考え難い……それに高田はどう見ても刃物で首を切られて死んでいました。それなら生きている人間が沢渡を殺したと考える方が納得しやすいんじゃないでしょうか」

 「でも……」


 修司さんに寄り添うように座っている木村が口を挟む。


 「高田は生贄の人形を盗もうとしたんだ。それに怒った龍神が犯人に取り憑いて沢渡を殺された事はないのか?」

 「もしそうだとしても、殺した人物がこの山にいるという事実に違いはありません。そして傍目には取り憑かれているのかどうか判断のしようもありません。理由や過程に差はありますが、この山に殺人犯がいるという同じ結論に至ります」


 億劫そうな溜め息を挟んで正午が続ける。


 「それに龍神が高田の死亡に関与しているのなら、人形を壊す筈がありません」

 「あ、そうか」


 思わず声を上げてしまう。

 龍神にとって人形は生贄の代わりなのだ。壊してしまったら祭そのものが成り立たなくなる。いや、木村家の人間は生贄と偽って人形を使っていたんだから、それを知った龍神が怒って祟りで殺したとか……いやいや、それなら殺す標的は木村兄弟の筈だ。何れにせよ、高田を龍神が殺す理由はないんだよな。


 「高田が死んだのは龍神とは関係ないと思っていいでしょう。だったら、犯人について詮索しても意味はありません、それは警察の役目ですから」


 まぁ、そうだよな。

 正午は占い師を名乗る拝み屋で、龍神の祭を行うために来たんだ。殺人事件の捜査をするためじゃないし、そもそも社会的には高校生という肩書きしか持ってないんだ。しゃしゃり出たところで何もできないだろう。

 それと同じ事が俺や森にも言える。アルバイトに釣られて手伝いに来たが木村家とも死んだ高田とも無関係なのだ。こうして話し合ってる事自体、おかしな話なんだよな。


 「でも森山という人物が人形を破壊したのなら一刻も早く見つけ出さなくてはなりませんね」


 考え込むように正午が呟く。それに「どうして?」と森が問い返す。


 「殺人事件は僕の範疇ではありませんが、祭の邪魔をされては困るからです」


 うわぁ、言い切ったよ。

 確かにその通りなんだけど、人が殺されたと言うのに関係ないと断言してしまう辺り正午の性格があらわれているよな。


 「あと、小さな女の子。それも捕まえる必要があります」

 「捕まえるって、その女の子は幽霊なんでしょう?」


 戸惑ったように楠本マナミが口を挟む。その疑問は尤もだと俺も思う。

 この家に小さな子供がいる筈がないのだから、過去に死んだ子供の幽霊だろう。蔵にあった玩具や衣装がそれを裏付けている。

 だけど、幽霊を捕まえるなんてどうやって。そもそも、そんな事ができるのか?

 全員の視線をサラリと無視して正午が口を開く。


 「お願いがあります、祭の終るまでこの部屋から出ないで下さい。トイレなど、どこか行く時は必ず二人以上で行動して下さい」

 「あ……でも紗季が」


 森が思い出したように声を上げる。そう言えば池水は二階で寝ているんだったな。


 「彼女は大丈夫です」

 「どうして?」


 怪訝そうに眉を寄せる森から目を逸らした正午が何故か俺を見る。


 「彼女にはこのまま眠っていて貰うのが一番安全ですから」


 そう言い捨てると、そそくさと部屋を出て行く。森の追及を躱したかったのだろうけど、今のじゃバレバレだ。

 現に、森だけでなく木村や大学生たちも不思議そうに正午が出て行った襖を見つめている。次に質問責めにされるのは俺だろ、たぶん。

 そう勘付いたから「あ、ちょっと」とか適当な事を言って正午を追い掛ける。


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