13
声を頼りに向かうと、昼食を取った居間らしき部屋で全員が顔を蒼くして突っ立っていた。
喧嘩ではないらしい。何があったんだ。そう問い掛けようとするが、俺たちに気付いた石井姉妹が声を揃えて喚き出す。
「子供がいたの!」
「耳元で声がしたのよ!」
さすが双子……そんな場合ではないと言うのに、つい感心してしまう。
黙っている俺に代わって正午が前に出る。
「子供とは?」
「女の子よ、間違いないわ!」
「楽しそうに『みんな死ね』って言ったのよ!」
その言葉に正午が眉を寄せて難しい顔をする。
俺だって同じだ。蔵で見た晴れ着は全て女の子のものだったんだから、その声の主がこの家で死んだと仮定しても矛盾はしない。むしろ、死んだ子のものだったからこそ当時のまま残っていたと考えられる。
そして、その子が成仏せずこの家に残っているとしたら……恨み言の一つぐらい口にしてもおかしくない。
でも、と考え直す。
ここは龍神の結界の中なのだ。それがどんな物なのか俺には分からないけど、神って呼ばれるぐらいなんだからそれなりに強い筈だ。現に木村の両親は龍神の祟りで死んでいる。それなのに、龍神の結界……いわばテリトリーに他の幽霊が入り込めるものなのか?
「他に声を聞くか、姿を見た人は?」
正午がその場にいる全員をグルリと見回す。それに促されたように木村が「気の所為かと思ってたけど」と口を開く。
「この家に来て子供みたいな軽い足音を何度か聞いたかも」
それだけなら気の所為と思っても無理はない。森や池水の足音を聞いて、勘違いした可能性もある。
「俺、見たよ」
そう口を挟んだのはキャンプ場でグデングデンに酔っていた大学生の男だ。
「トイレ借りた時に十才ぐらいの女の子が廊下を走る後ろ姿を見たよ。髪は肩ぐらいまであってちょうちん袖のワンピースみたいなの着てた。ここの子かと思って気にしてなかったけど、違うの?」
ちょうちんって……あぁ、膨らんでる袖の事か。それって半袖なんじゃないのか。今は秋も半ばだしここは山の中だ。幾ら何でも寒い筈だ。
「修司さん」
正午がそう言って修司さんに目で問い掛ける。その内容を察したのか、戸惑ったように修司さんが答える。
「この山には他に誰もいない筈だよ。絶対とは言えないけれど、子供が一人で山にのぼるなんてないと思うし」
「そうですか」
修司さんの言葉に正午がアッサリと頷く。
「じゃ、玲也が見たのは何だったの……それにあの声、すぐ傍で耳打ちされたみたいだったのに、誰もいなかったのよ!」
「由香、落ち着いて」
楠本マナミがそう言って石井由香の肩を抱く。
「私、帰る!」
「何言ってるの。綾人が殺されたって言うのに帰れる訳ないじゃない」
「キャンプ場にいたから私、関係ないもん!」
面倒臭いな。学生証取り上げて帰らせた方が静かでいいんじゃないの?
そう思って正午を見るが、険しい顔をしたまま「無理です」と呟く。
「明日の朝までこの山から降りる事は出来ません」
「何で!」
「龍神の祭があるからです」
「そんなの知らない!帰る!」
そう叫んだ石井由香が楠本マナミを突き飛ばすようにして廊下へと駆け出す。
咄嗟に手を伸ばすが、間に合わない。訳の分からない叫び声を上げながら玄関に向かって廊下を突進して行く。
「まずい、追い掛けましょう」
龍神に捧げる生贄は女と決まっているのだ。人形が一つ壊れた現在、石井由香がその代わりになる事だってあり得るのか。
慌てて追い掛けるが、廊下の先に石井由香の姿は見当たらない。女の足だからすぐに追いつけると思ったんだけど。
玄関を改めてみると、脱ぎ散らかしたような靴が幾つか。その中から石井真美が「これ、由香の靴」とショートブーツを指差す。
「じゃ、この家のどこかにいるんじゃないの?」
俺たちの後に来た森がどうでも良さそうにそう言う。
どういう事だろうか。
靴が残っているのだから、森の言う通り石井由香は外に出た訳ではない。怯えて混乱していたようだが、裸足で飛び出すとは思えない。しかし、木村家が幾ら広いと言っても迷子になるほどではないし、何より玄関へ向かう後ろ姿を見ている。
どこかに隠れているのか、それとも……まさか消えたのか?




