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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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11

 フワフワとした気分のまま車に乗り込む。

 浮気を疑われるのは面白くないと聞くが、俺としては全くもって問題ない。ヤキモチ妬くぐらい好きって事だろ。愛されてるって事じゃん。それ何てハッピー?

 そんな訳で頭にお花畑が広がったままキャンプ場へと向かう。


 車を降りる時になって、そう言えば修司さんも無言だなとは思ったけど、殺人事件があったんだ。何を言えばいいのか分からなくて当然か。

 キャンプ場と聞いていたけど、管理棟の周りにバンガローが幾つかあるだけの素っ気ないものだった。空いている区画は自分たちでテントを張るなりするのだろう。

 修学旅行だけでなく林間にも参加した事ないので、これが一般的なキャンプ場なのかどうか俺には分からない。ただ、空いたスペースに停めてある車が不法侵入したものだと言うのは分かった。

 修司さんは先に管理棟に行き、鍵が掛かっている事を確認する。


 「これじゃ中に入れないね」


 管理棟の中には固定電話があるのだ。だが、管理人がいないのだから鍵が掛かっていて当然だ。


 「でもバス停まで行けば携帯が通じる筈だから」


 だよな。バスの中で森がアプリゲームしてたんだから、そこまで行けば通じるだろう。


 「先に大学生を回収しますか」


 そう提案すると、「そうだね」と疲れたような相槌が返って来る。

 ただでさえ祭のために家を掃除したり、俺たちを迎えに来たりと疲れているのだ。その上、盗難に殺人事件。気疲れして当然だ。


 「いや、林くんはバス停まで行って警察に連絡して下さい。大学生には私が説明しておきます」


 祭が始まるまでに木村家に戻らなければならないのだ。時間が惜しいと考え直したのだろう。


 「気を付けて」


 修司さんの言葉に送られ、記憶を頼りにバス停を目指す。

 シーズンが過ぎたからなのか、それとも元からなのか。

 何とも寂れた風景である。

 腰の高さまで伸びた雑草が茶色く煤けており、その合間に置かれたカゴ製のゴミ箱が何とも侘しい風情を醸し出している。

 中にはいつからあるのか、コンビニの袋に包まれた弁当らしき物が入っている。


 いや、いつからってついさっき捨てられたんだよな、これ。

 何となく気になってそそくさ近づき、やっぱりそうだと確信する。キャンプ場は夏しか開いてないと言ってたから少なくとも一ヶ月は放置された筈なのに、一度も雨に濡れた形跡がない。それどころか弁当の蓋に書かれた賞味期限は今日の日付だ。

 誰が捨てたんだろう。

 キャンプ場にいる大学生のグループか、はたまた他にも誰かいるのか。

 首を捻りながら再びバス停目指して歩いて行く。


 だが。

 どこまで歩いてもバス停に辿り着かない。道の先にそれらしき物すら見当たらない。


 「嘘だろ」


 そんなに遠くない筈なのだ。バス停の名前がキャンプ場前と言うぐらいなのだから目と鼻の先と言ってもいい。それなのに見当たらない。

 立ち止まって腕を組む。

 狐に化かされたか。

 山の中だから狐だっているかも知れない。だとしても、俺に憑いてる白尾が無反応なのが解せない。そう言えば、白尾の気配がないな。

 キョロキョロしていると、花子さんがスゥッと目の前に滑り込んで来る。やめて、怖いから。


 「バス停の場所分かるか?」


 ダメ元で聞いてみるが、花子さんは首を傾げるばかりだ。あちらの声が聞こえないのだから、こちらの声も聞こえないのかも知れない。その割にテレビ見たりするけど。

 どちらにせよ、花子さんは宛にならないし、これ以上、歩いてもバス停に行けるとも思えない。

 電話を掛けるだけの簡単な用事もこなせないなんて……きっと正午に怒られる。怒られるけど、辿り着けないものはしょうがない。不可抗力だ。


 トボトボ戻ると、大学生に何て説明したのか、修司さんが荷物を片付けさせているところだった。


 「電話繋がった?」

 「それが」


 バス停が見つからず、携帯も通じなかったので戻って来たと説明したら、修司さんが難しい顔をして考え込んでしまう。


 「もう少し歩いてみます」


 諦めるのが早かったかと、慌ててそう言うと「ああ、そうじゃないよ」と返される。


 「祭が近い所為かも知れないと思ってね」

 「龍神の?」

 「うん。詳しくは知らないんだけど、人を祟り殺すような神なんだから特殊な力があると思っていいんじゃないかな」


 つまり、祭の間は結界のような物が張られているかも知れないのか。


 「何にせよ、時間がない。大学生たちを連れて急いで戻ろう」


 とは言っても修司さんの車は普通のセダンだ。大学生四人と修司さんで定員になる。

 大学生が乗って来た車もあるにはあるのだが、全員がしこたま酒を飲んでいるらしく運転できる状態ではない。男二人は正体を失うほどの泥酔ぶりだ。


 「だったら俺が歩いて行きますよ」

 「大丈夫かい?」

 「一本道だから迷う事はないでしょう。それに途中で携帯が通じる場所があるかも知れませんし」


 そんな話し合いをしていると、大学生の一人が傍にやって来る。


 「私も一緒に歩いて行きたいんだけど」


 腰まである黒髪を風に靡かせてそう声を掛けて来たのは、木村家に置いて来た女とは似ていないので、恐らく楠本マナミだろう。

 一般的に見て、きっと美人の部類に入ると思う。但し、その表情は冷たい。

 ロングカーデガンにスキニー、モコモコとしたマフラーを巻いていて首もとが暖かそうだ。


 「酔っ払いと一緒に車なんて乗ったら気分悪くなりそう。いいかしら?」


 キャンプ場に不法侵入したとは言え、木村家に移動して貰うのはこちらの都合だ。余り強く言えないし、そもそも断る理由もない。

 修司さんも同じ考えだったらしく、「あの三人降ろしたら迎えに来るね」と言う。

 後部座席に押し込められた三人の男女はかなり酔っているのか、グッタリとしていて見るからに眠そうだ。これなら暴れる心配もないだろう。


 「吐きそうになったら遠慮なく降ろして下さい」


 楠本マナミの言葉に苦笑を返して修司さんが車を発進させる。

 それを見送り、「行きましょう」と声を掛ける。


 「私は楠本マナミ、君の名前教えて貰える?」

 「林司郎です」

 「そう。じゃ司郎くんって呼んでいい?」


 冷たそうな見た目に似合わず少し馴れ馴れしい。肩を竦めると、それを了承と受け取ったのか楠本マナミが俺の腕を掴んで来る。


 「ね、司郎くん。綾人が死んだって聞いたけど、それって本当なの?」

 「修司さんからどんな説明があったんですか」

 「真美と綾人が何かを盗みに行って、そこで綾人が死んだってだけ」

 「その通りですよ」


 随分と端折っているが、木村家の祭の事まで説明したとしてもあの酔っ払いどもが理解できたとも思えない。


 「真美が殺したの?」


 続けられた言葉にギョッとして足を止める。

 一緒にキャンプに来るぐらいだから、それなりに仲はいい筈だ。それなのに、アッサリと仲間うちで殺し合いをしたと思えるものなのか?


 「何か、そう考える理由があるんですか」

 「真美は綾人と付き合ってるって思ってたらしいけど、綾人はそうじゃなかったから。うちのサークルで綾人に手を出されていない女なんていないわ」


 え、と。思わず楠本マナミの顔を見つめてしまう。

 今の言葉が本当なら、この冷たそうな楠本マナミも高田綾人と関係を持ったと言う事になる。


 「何?」


 口元に薄らと嘲りを浮かべて楠本マナミが挑発するように俺を見る。


 「いえ、大学生って乱れてるなと思って」

 「司郎くんは高校生でしょ。何年生?」

 「三年です」

 「だったら大差ないじゃない」


 いやいや。少なくとも俺の周囲では、そんな乱れた関係の奴らなんていないって。


 「それに大学生だからって訳じゃなくて、私たちのモラルが低いだけだし」


 おや、そういう自覚はあるのか。

 少し意外な気がして首を傾げる。


 「大学のサークルって言ってるけど、要はヤリサーね。年中、発情期なのよ」

 「はぁ」


 何て返せばいいのか分からない。

 そりゃ男も女も性欲があるってのは分かる。それを発散させたいって思うのは普通だろう。だからって、相手が誰でもいいって言うのが理解できない。

 特に女の場合は妊娠ってリスクがあるし、取っ替え引っ替えセックスしまくってたなんて知られたら、男女関係なく後ろ指差されかねない。


 「ただ真美は少し単純な所があるから……都合のいい女扱いされても綾人に好かれてるからだって思い込んでたみたいね。そんな訳ないのに」


 それで盗みの片棒を担がされた訳か。

 俺は高田綾人の死に顔しか見てないから何とも言えないけど、女にとってはいい男の部類に入るのかも知れない。


 「だから綾人の本性を知った真美が逆上して殺したのかなって思ったんだけど」

 「たぶん違うと思います」


 高田綾人が死体で発見された時、石井真美は俺たちと一緒にいたんだ。死体を目にした時の反応は恐怖と驚愕以外の何ものでもなかった。

 あれが演技だとしたら俺だけでなく、あの強かな正午までもが騙された事になる。

 見えなくなった車を追い掛けるようにしてのんびり歩いていると、道の端で草が不自然に倒れているのが目に入る。

 何となく傍に寄り目を凝らす。草むらの中を細い筋が上へ向かって一つ。何かが通った跡だろうか。人の足ではないだろう、どちらかと言うなら自転車のような。


 「司郎くん、どうしたの?」


 背後で楠本マナミが戸惑ったように声を掛けて来る。それに首を振り、再び道を急ぐ。


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