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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
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10

 言われた通り、せっせと箱を祠まで運ぶ。そう重たい物じゃないけど、丁寧に扱えって言われたから一つずつ運んでいるので、それなりに手間だ。

 祠は、まぁ何と言うか小屋のようだった。龍神って言うから神社のような物を想像していたんだけど、見事なまでに何もなかった。辛うじて雑草が抜いてあるぐらいだ。

 辺りが静かな所為もあって、耳を澄ませばどこからか水の音がする。そう言えば近くに滝があるんだったか。

 最後の一個を運ぶと、正午が壊れた人形を接着剤でくっ付けようとしていた。


 そう提案したのは俺だけど本当に試すとは思わなかった……恐ろしい子。


 「大丈夫なのか?」

 「木工用のボンドですからくっ付くと思います」


 いや、見た目じゃなくて……巫女役って言ってたけど本当は生贄の代わりなんだろ。それをボンドでくっ付けただけで龍神は許してくれるものなのか?


 「無理でしょうね」

 「やっぱり?」

 「はい。魂が入ってませんから」


 そう言うと、そっと座布団に人形を乗せる。

 どういう作りなのか分からないが、手足の関節は動くらしい。足を投げ出して座った姿はミニサイズの少女のように見える。


 「魂って?」

 「ただの人形では龍神を欺けませんよ」

 「つまり?」


 生きてるように見えても、所詮は木で作った人形。それを人間だと言い張るのは無理がある。


 「死んだ人間の魂を封じていたんですよ、ここに」

 「……幽霊?」

 「言い方によっては」


 何て事だ。

 知らなかったとは言え、この手で六個も人形を運んでしまった。六人分の幽霊……。


 「破損した事によって魂が抜けてしまったようです」

 「それって、近くに幽霊がいるって事なんじゃ?」


 俺が怯えた声を出したからか、正午が蔑むような目で答える。


 「近くにはいませんよ。もともと力が弱かったようですから散ってしまったんじゃないですか」


 あ、そうなの?

 オドオドしてた分だけホッとして息をつく。

 そう言えば、封じてたって事は、本人の意思じゃなかったんだろうから人形から出られて良かったのかも知れない。


 「だから困っているんです」


 続けられた言葉にキョトンとする。

 何で?

 死んだらあの世に逝くのが普通だろ。散ったって言ってたけど、それって成仏と何か違うのか?


 「七って数が曲者なんですよ」


 正午の言葉に俺の疑問は的外れだったと分かる。


 「どういう事だ?」

 「七は特別な数ですから。キリスト教では大罪や天使で有名ですが、仏教でも初七日や四十九日とか言うでしょう?」


 四十九日は……七の二乗か。

 まぁ、ラッキーセブンとか言うし七が特別な数字なのは何となく理解できる。


 「そして何の偶然か、求められた生贄は七人……回避するために七体の人形を用意したのでしょうけど、結果として七人みさきになっていたようです」

 「何だ、それ」

 「水害で死んだ人間の霊です。水辺に出没すると言われていて、必ず七人でいます。遭遇すると謎の高熱に見舞われ死にます」


 ちょ、会っただけで死ぬなんて物騒だな。


 「そうすると一人成仏して、取り殺された人間が新たなメンバーに加わるんです」

 「は……?」


 何で七人いなきゃいけないんだ?

 アイドルグループじゃあるまいし、どんどん成仏すればいいじゃん!


 「高田綾人が死んだから、その魂を取り込んでくれていたら良かったんですけど……そういう訳にも行かなかったようです」

 「どうしてだ」

 「龍神が望んだのは七人の娘、つまり女性だったからです」


 それって……えっと、龍神が女好きって話じゃないよな。

 生贄として求められたのは女だから、この人形に入ってたのも女の魂だった訳で。それが成仏したから新しい魂が必要で……つまり、この人形って言うか七人みさきって仕組みがこれから女を殺すって事か?


 「そんな物騒な物をばあさんは作ったのか?」


 人を殺す仕組みって……そりゃ、比与森のばあちゃんが拝み屋をしてたってのは俺だって分かっている。それで人を呪い殺した事があるってのも知っている。

 だからって、そんな……自分が死んだあとにまで発動するような殺人装置を残してたって言うのか?


 「違いますよ。本来なら人を死なせないための仕組みだったんでしょう。ここは人里離れた山の中ですから、ただでさえ貧しい土地なのに、その上、僅かな水を得るために娘を差し出したら村は全滅です。だから、成仏できずに彷徨っている霊を説き伏せて人形に封じたんだと思います。或いは最初の年だけ生贄を捧げ、その魂を人形に閉じ込めたか。この先、生贄として誰も死なずに済むように……こんな状況にならなければ一番安全な方法だったんです」


 その人形が壊れて霊は逃げた……と言うより追い出されたようなものなのか。


 「だからこそ、キャンプ場にいる人も守らなくてはいけないんです」

 「へ?」


 容疑者として捕まえとくためじゃなくて?

 まぁ……確かに今の話を聞いたらキャンプ場にいる連中が危ないってのは分かる。

 木村家にも森と池水と言った女子が二人もいるが、何と言うか……あの二人は殺しても死にそうにない。池水は無表情が過ぎて幽霊よりも不気味だし、森に至っては高笑いしながら力づくで撃退しそうだ。それに、ここには正午がいる。

 俺の知合いである二人をきっと守ろうとするだろうし、守りきるだろう。


 「この山全体が龍神のテリトリーなんです。キャンプ場にいると言う二人の女性、どちらか一人の命を取られてもおかしくない……それに状況次第では木村さんも危ない」

 「どうして木村が?」

 「戦後から何十年もずっと木村家は龍神を騙していたんです。その反動がないとは言い切れませんから」


 その言葉にゾッとする。

 そうだった、木村の両親は祭をしなかったと言うだけで殺されたんだ。それなら騙された腹いせに残っている木村兄弟だって殺されかねない。


 「どうするんだ……?」

 「今更、許しを請うても無駄でしょう。ならば騙し通すしかありません」

 「騙すってどうやって……」


 龍神って神様だろ。それを騙すって、そんなの可能なのか?

 出来る出来ないではなく、やるしかない。失敗したら木村たちが殺されるんだ。


 「いざとなったら人形に他の魂を封じます。だから大丈夫ですよ」

 「他って?」


 死んだ高田綾人の物じゃないだろう。ついさっき女でなければダメだって言ってたのは正午自身なんだから。

 だったら……もしかして花子さん……?

 浮遊霊になって好き勝手している花子さんは成仏する気配も様子もまるでない。

 そりゃ、取り憑かれている俺としてはいなくなってくれた方が助かるけど……だからって、人形に封じるってのはこっちの都合を押し付けるようで……ちょっと、何て言うか酷くないか?


 「何を考えているのか知りませんけど、僕は身内には甘いんです」


 そうなのか。でも、身内ってどこからどこまで?

 比与森だって言うなら、正午は母子家庭だから母親まで。血の繋がりなら、ギリ俺まで。


 「……だからお守りを渡したんですよ」


 そう呟くろ、形のいい眉をギュウって寄せて渋面になる。。

 お守りって、花子さん?

 え。

 正午にとって花子さんは身内なの?


 「守る気がなかったらとっくに祓ってます」


 まぁ、言われてみればそうなんだろうけどさ。

 幽霊なんてアウトオブ眼中だもんな、お前。邪魔だと思ったら夏の蚊を叩き潰すぐらいの勢いで花子さんなんてプチッとされてただろう。


 良かったな、花子さん。

 そう振り返った先には蔵の壁。はて?


 キョロキョロするが、どこにも見当たらない。

 花子さん、どこ?

 本当にどこ行ったんだ、あの幽霊は。

 浮遊霊だからって自由過ぎるだろ、もっと気合い入れて俺に取り憑けよ!


 気配を探るなんて高等な技が使える筈もなく、うぅんと首を傾げるしかできない。そんな俺の袖をクイッと正午が引っ張る。


 「何だ?」

 「心配で……」


 何が、と首を傾げる。

 人形を壊され、その上、人が殺されたんだ。不安にならない方がどうかしている。

 だけど、正午に限ってそんな事を気にするとは思えないのだ。

 喜怒哀楽を表現する事なんて殆どないし、たまに浮かぶ表情は俺をバカにする物ばかりだ。

 そんな相手に惚れるなんて、俺はマゾかアホなのか。


 そうじゃない。正午は表に出すのが下手なだけで、何も感じていない訳じゃないんだ。だって、まだ十六才なんだ。

 それなのに誰よりも冷静で、客観的に物事を捉えようとしているだけだ。

 俺はそれを手伝ってやりたいし、支えてやりたい。


 袖を摘む正午の指を掴んで軽く引き寄せる。たいした抵抗もせず、傍へ寄った華奢な肩をそっと抱き締める。あ、いい匂い。

 つい正午の髪の匂いに気を取られるが、そんな場合ではなかったと気を引き締める。何かカッコいい事言って安心させてやらないと。

 そんな俺を黙って見上げた正午が背伸びして、顔を近づけて来る。


 ムニッ、と。


 何かが口元に当たる。

 ……えっと、何でしょうか。

 突然の事だったので呆然と立ちすくむ。ゆっくりと離れた正午が何故か晴れやかに笑う。


 「浮気防止です」


 笑顔のままそう言う正午に、内容を理解するより先にコクコクと頷く。

 何でもいい、それより今のってキスなんじゃ……。


 「女子大生に誘われても拒絶して下さいね」


 あ、心配なのはそれなのね。

 俺に女っ気がないのは正午も知っている。身近にいるのは女装しているようにしか見えない森だけだ。当然ながら、森は俺の中で女にカウントされていない。

 だから、まだ見ぬ女子大生を警戒してしまったんだな。こういう分かりにくい所はズルいと思うんだよ。だって、分かった時にメチャクチャ可愛く思えるじゃん。


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