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比与森家の因縁  作者: みづは
黒衣の少女
66/103

8

 どうしようもないので、車はそのままにして木村家に戻る。


 人形の入った箱は俺が抱えて来た。修司さんもその弟の木村も触れないのだから、仕方ない。正午は見るからに不機嫌そうなので、そっとして置いた。

 玄関まで迎えに来た森は訝しそうに女を見て、その後ろで靴を脱ぐ木村を軽く睨む。

 いまだに女は泣いているし、さっきは気付かなかったけど頬に擦りむいた跡があった。それだけで木村の仕業だと見抜いたのだろう。恐るべし森の眼力。


 「顔洗った方がいいわね」


 それだけ言うと女を連れて洗面所へと向かう。その後ろ姿を見送って、何となくホッとする。

 取り乱した女の宥め方なんて俺は知らない。正午はまるっと無視するだろうし、木村は耳を塞いでこれまた無視するだろう。残るは修司さんだが、やっぱり目にした死体のインパクトが強かったのか、不安そうにソワソワして挙動不審だ。つまり男連中は誰一人として使い物にならないと言う訳だ。

 玄関で突っ立っていても仕方がない。何となく全員で居間に行く。


 入る前に廊下の皿を見ると、いなり寿司が消えていた。白尾が食べたのだろう。

 それぞれ畳の上に腰を落ち着け、茶をいれる。

 ほんのりと上がる白い湯気に意味もなくホッとする。


 暫くは沈黙が流れたが、正午が困ったように溜め息をつくので、全員でそちらに注目する。


 「通報したら、どれぐらいで警察はここに到着しますか」

 「一時間ぐらい掛かるんじゃないかな」


 そう答えたのは修司さんだ。俺もそれに同意だった。

 バスに乗る時、駅前で交番を見たが、ここまでかなりの距離がある。しかも、死体はどう見ても殺されていたのだ。制服警官が一人やって来たところで意味はないだろう。鑑識やら何やらが到着して捜査が始まるまでは数時間掛かる筈だ。


 「それじゃ間に合わない」


 忌々しそうに正午が口の中でそう呟く。

 何が間に合わないと言うのか。不思議に思って見つめると、意識を切り替えたのか修司さんに向かって淡々と話し出す。


 「さっきの話では、キャンプ場に仲間があと四人いるという事でした。面倒かとは思いますが、彼らを迎えに行って貰えませんか」

 「あ……ああ、それは構わないけど」

 「急いで下さい。なるべく早い方がいい」


 正午に促され、修司さんが腰を上げる。


 「修司さんが一人で行って付いて来るかな」


 思わずそう口を挟むと、思案するように正午が腕を組む。

 いきなり見ず知らずの人間に、友達が殺されたから一緒に来いって言われて、付いて来るような奴はそういないだろ。俺だったら絶対に怪しむ。


 「キャンプ場にいる連中は仲間が死んだ事をまだ知らないんだから逃げる可能性は低いだろう。先にあの女から話を聞いた方がいい」


 人形を盗みに来たようだが、誰かに金で頼まれたらしい事も言っていた。だったら、誰に頼まれたのか。そしてキャンプ場にいる全員がグルなのか。

 あと、時間が掛かろうが何だろうが警察に通報するべきだ。何しろ、人が死んだんだ。通報しなかった事で痛くもない腹を探られても不愉快なだけだし。


 俺の言い分は筋が通っている筈なのだが、何故か正午が不服そうに唇を尖らせる。子供っぽく軽く膨らませて頬を突ついてちょっかい出してやりたくなるが、如何せん、木村兄弟の目がある。我慢がまん。

 行き場をなくした手を傍に置いた木箱の上に乗せる。中の人形が壊れているのはさっき確認したが、まっ二つに折れていたのを思い出したのだ。


 やって来た二人の男女。彼らが考えた計画について推理してみる。

 女が屋敷で騒ぎを起こし、人がいなくなった所に男が忍び込む。蔵の格子戸をこじ開け人形を盗み出した後は車で女と落ち合う。そんな所だろう。

 杜撰としか言いようがないが、この計画のためには幾つか前提条件がある。


 屋敷内のどこに蔵があるのか、その戸の材質も知らなければ破るための道具を揃えられない。それに、屋敷に何人いたのか。騒ぎを起こしたと言っても全員がそれに集中する訳ではない。二人の男女はこちらの凡その人数を知っていた筈だ。


 そして一番の問題は、どうしてこの屋敷に高価な人形があると知っていたのか。


 見た所、手入れはされているが普段は空き家なのだ。そんな所に貴重品があるとは普通なら思わないだろう。周りに人家もなく、噂になるとも考えられない。

 これら全ての問題を解決する答えは一つだ。


 二人に人形を盗み出すように言った人物はこの家の事情に詳しかった。それしかない。


 だったら男を殺したのもその人物だろうか。

 首尾良く人形を盗み出した男と口論になりカッとなって殺し、勢い余って人形まで壊してしまった……そう考えたら辻褄が合う。でも、男の死体には揉み合った形跡はなく、首をナイフで切られていただけだ。

 あそこまで深く切れるナイフを持参していたのだから、犯人は最初から男を殺すつもりだったんじゃないだろうか。


 そして壊れた人形だ。

 小さい時に見た雛人形は木箱に入れる前に何か和紙のような物で包んでいたと思う。なのに、巫女役のこの人形は剥き出しで箱に入っている。それに材質は木のようだが、落としたぐらいで折れたりするものだろうか。

 誰かが箱から取り出し、故意に破壊してまた戻した。そう考えた方が納得できる。


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