17
だいたい分かったと思う。
一緒に花火をした女の子が死んでしまい、自分だけが生き残った罪悪感から正木はその子に責められたい。だから、幽霊を呼び寄せる俺を引っ張り出したかった。
幽霊となった女の子に許されたい訳じゃない、ただ自分の犯した罪を責めて欲しい。
アホかって思う。
そんな面白い方向に歪んだナルシシズムに付き合えるほど、俺は暇人じゃない。
だいたいからして女の子は成仏してしまったんだし。花子さんが連れて来た鬼火の中にいたのかどうかは分からないけど、ここにいないって事はそういう事だろう。
どう説明したものかな。
成仏したよって言っても、きっと聞かない。これまで自分勝手な言い分で周りを振り回して来たんだ。そんな正木が俺の話なんか聞いてくれる筈がない。
でも、いないものは呼び出せないし、そもそも俺は呼び寄せたりなんかしない。アイツらは勝手に湧いて出るカビみたいな物なんだ。そんなの俺にどうか出来る訳ないだろ。
チラリと正午を見ると、顔を顰めて正木を見つめている。
その表情が困惑しているように見えて、少し意外だ。
正午の性格を思えば、アッサリと見捨てそうなものなのに。
「正木さんは司郎に降霊術をして欲しいと言うんですか」
何故か緊張した声で正午がそう問い掛け、正木がコクリと頷く。それを見て、正午が俺に顔を向ける。
「出来ますか」
出来る訳ない。
俺はたまに幽霊見ちゃうってだけで、あとは犬がいる所為で右目が疼くただの中二病なんだ。降霊術なんて出来ないし、したくもない。
他にどうしようもなくて、フルフルと首を振る。
それなのに俺の意思とは関係なく右手が上がり、正木の後ろにある窓を指差す。
何で。どうして、勝手に動いちゃってるの?
訳が分からずポカンとしていると、伸ばした人差し指の先にポッと小さな光があらわれる。蒼白く燃える炎、鬼火か?
まだ誰かいたのか、或いは新しくやって来たのか。
鬼火は俺の指先でポワポワと燃えている。熱くはない。どちらかと言えば冷たいかも知れない。
呆然と見つめる視線の先で俺の手がふんわりと動く。手のひらに鬼火を乗せ、フワンと転がす。
何する気なんだ。
俺の手だが、全くもって意図が掴めない。でも、こういう経験は何度かあるのを思い出した。犬の紫狼にからだを乗っ取られた時と同じだ。
ジッと見つめていると、頃合いを見計らって俺の手が鬼火を軽く投げる。その先にいるのは正木だ。
正木は驚いたように顔を強張らせて鬼火を見つめている。
「まさか、本当に……?」
信じられない気持ちは良く分かる。俺だって急に鬼火が出て来た事とか、俺自身がそれを動かしている事を俄には信じられないからな。
フワフワと頼りなく飛ぶ小さな蒼い炎。
それは正木にぶつかる事なく、その周辺をクラゲか何かのように漂っている。
「あ……」
正木の目に涙が滲み、口から嗚咽が漏れる。
責められたいと言っていたのだから、その念願が叶うと思ったのだろう。
だが、鬼火が言葉を発する筈もなく、ただフワフワと飛んでいるだけだ。
「ごめん……ごめんね」
そう呟くと両手で鬼火をそっと包み込む。
鼻声だし、涙の所為で眼鏡は曇ってるし。
でも、それを笑える余裕なんか俺にはなかった。
幻想的に燃える鬼火の美しさに見蕩れていたのだ。
「会いたかったんだ、ずっと……誰にも言えなくて、一人にしてごめん」
正木の言葉が届いたのか、鬼火が音もなくフンワリとその手から逃れてしまう。
慰めるように正木の目元を漂い、窓へと向かう。
「待ってくれ、一緒に行くから!」
慌てたようにそう叫んだ正木がガラスのない窓枠に足を掛ける。
死んだ子に責められたいって言ってたけど、本当は取り殺されたかったオチかよ!
「させるかよ!」
咄嗟に手を伸ばし、正木の腰を掴んで引っ張る。
俺の行動を予測していなかったのか、鬼火に夢中だったのか。意外なほど簡単に正木が倒れ込んで来る。
うわ、バカ。
そう思った時にはひっくり返った蛙のようになっていた。しかも上に正木が乗ってる。
痛いし重いし、背中打った……泣きそう。
歯を食いしばって痛みに耐えてると、正午がそんな俺たちを見下ろして口を開く。
「正木さんは許されたくないと言ってましたが、彼女は許したようですよ」
「違う、そんな筈は……」
「認めなさい。彼女は逝くべき所に旅立ったんです。邪魔をする権利は誰にもありません。あなたはこれから先もずっとその罪悪感を抱えながら生きる他ないんです」
ヒヤリとするような冷たい声だった。
それに言い返す事ができないのか、正木が黙り込む。
「帰りましょう、司郎」
正午に言われて、おそるおそる正木を離して立ち上がる。
床に座り込んだ正木はそのまま動こうとしない。このまま帰っても平気なのかな。
もしかしたら、また死のうとするんじゃないの?
「大丈夫ですよ。正木さんは生きる事で罪を償うんですから」
その言葉にふと窓を見る。
四角く切り取られた夜空。その闇に鬼火は溶けてしまったのか、音もなく星が瞬いているだけだった。




