12
太陽が沈み、暗くなった校舎を後にする。
保健室の戸締まりを終え、それを職員室に報告しに行ったら相変わらずの大騒ぎだったのだ。
生徒が救急車で運ばれたんだ。保護者に説明しなくてはならないのだが、どう説明すればいいのか分からないのだろう。
学年担当と一緒に慌てふためく校長のハゲ頭にグッドラックと念を送ったのだが、届いたかどうか。
「司郎」
自宅までの道程の途中、名前を呼ばれて振り返ると正午がそこに立っていた。ワンコがまた知らせたのかな。
「何かあったんですか」
救急車を見たのだろう。隠す理由もないので、一年生の女子が運ばれた詳細を歩きながら話す。
「コックリさんですか」
そう呟いた正午の顔には、面倒臭いと思っているのがアリアリと浮かんでいる。
俺だって面倒臭いよ。
「たぶん女子の半分はやってるんだろうな」
「そうなんでしょうね、空気がかなり淀んでいましたから」
それを聞いて、幽霊マンションと同じかと納得する。
幽霊の有無は問題ではないのだ。そこにいる人間が「何かあるに違いない」と思うだけで風通しが悪くなって空気は淀む。
「それにしても、感受性の高い人ですね」
「誰がだ?」
不思議に思って問い返すと、正午がアッサリと「運ばれた人ですよ」と言う。
「霊感少女だったらしいから」
「嘘でしょう、それは。もし本当に霊感少女だったなら、司郎に憑いてるモノも見えていた筈ですよ」
う……そう言えばそうなのかも知れない。
何しろ俺は三つもくっ付けて歩いてるんだ。犬と狐は隠れているらしいからいいとして、花子さんは自由だ。セーラー服姿の花子さんを見て、霊感少女が騒がないのはおかしい。
「自分でも霊感があると思い込んでいるんでしょう。だから今回のコックリさんでも過敏に反応してしまったんですよ」
「つまり、どういう事だ?」
「ヒステリーです」
やっぱり、そういうオチなのか。
どうして自分で自分を追い込むかな。霊感があるとか、コックリさんがいるとか。そういう思い込みをしなければ何にもなかったのに。
「狐憑きだと言われる殆どの症例はヒステリーで説明がつくんですよ」
「成る程な」
「でも、それが分かったところで解決しません」
その通りだ。
さっきの一年生がヒステリーだったからと言って、コックリさんの流行が終る訳ではない。どうすればいい……そう言えば、ヤマダ(仮)といたサチとか言う女子は佐久間って奴からコックリさんのやり方を聞いたんだったな。
じゃ、その佐久間ってのは誰から聞いたんだ。
「流行り出したのは今朝からなんですよね。だったら、出所を辿れるんじゃないですか」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
残念ながら俺は佐久間という生徒と面識がない。風紀のお世話になるような奴じゃないのだろう。
まだ校舎に残っているだろう、生徒会長に連絡して佐久間なる人物について訊ねる。
幸いな事に生徒会長は同じクラスらしく「佐久間がどうかしたのか」と返して来る。
コックリさんの出所を探ってると告げると、風紀と同じく迷惑を蒙っているのだろう。生徒会長の盛大な溜め息が返って来る。
「面倒臭いよなぁ」
皆して面倒臭い言ってるな。うちの学校には横着者しかないのだろうか。
いやいや、それだけ面倒くさい事態になったと言う事だ。
「で、佐久間だっけ。あんまりそういうの好きなようには見えないけど」
「どんな奴なんだ」
「ガリ勉」
短く返された言葉にキョトンとする。
俺が想像していたのは、さっきの一年生みたいな霊感少女だったんだが。
「勉強しかやる事ないし、興味ないって感じだな」
「指輪してるんじゃないのか?」
「ん……ああ、してたしてた。集中力がどうのとかパワーストーンとか何とか言ってたような気がする」
お洒落で付けていたんじゃなくて、お守りみたいな感じだったのか。
「あと、そうだな。正木を目の敵にしてたな」
「え……」
どうしてここで正木の名前が出て来るんだ。
いや、オカルトの話題だから別におかしくはないのか?
それに正木信者の一年生が朝に問題起こしていたし……どうも繋がりがよく分からないな。
取りあえずメールで佐久間の連絡先を送って貰う。
何はともあれ、佐久間に話を聞くしかない。
その場で電話してみると、驚いた事に佐久間は男だった。
ガリ勉だって聞いたけど、俺の脳内では不思議ちゃんのイメージだったのに。
そんな事は置いといて、コックリさんについて訊ねる。
「誰にコックリさんを聞いたのかって言われても」
ただでさえ電話で聞き取りづらいって言うのに、佐久間はモゴモゴと口の中で言葉を濁らせる。
「コックリさん試してみたら指輪が見つかったんだろ?」
「はぁ、まあ……」
何なんだ、この煮え切らない答えは。
面倒臭いを通り越してイライラして来る。
そんな俺に正午が耳打ちして来る。内緒話するように手を当てて、俺に顔を近づけてる。可愛い。
でも、ちゃんと聞かないと後が怖い。
「大切な指輪だったんだろ?」
正午が耳打ちして来た通り電話で訊ねると、「まぁね」と自慢そうな声が返って来る。
「誰かのプレゼントか?」
重ねてそう問い掛けると、さっきまでのシドロモドロはどこへやら。ふふんと鼻で笑いやがった、コイツ。
「森さんに貰ったんだよ」
出て来た名前にキョトンとする。
森って、あの森か?
俺と同じ風紀の……?
「勉強頑張ってって言って、わざわざ僕のために石を選んでくれたんだって」
うわぁ。コイツ今絶対に鼻の穴膨らましてるな。
生徒会長の話によると、勉強ばかりのガリ勉って事だから今まで女子との交流がなかったんだろう。おまけに森は顔だけ見たら美少女だ。但し性格を知らなければだけど。
「へぇ……そう」
「パワーストーンとか詳しいみたいでさぁ、僕が指輪なくしたって知っておまじないを教えてくれたんだよねぇ」
「それって、もしかして森がコックリさんのやり方を教えたのか?」
「違うよぉ、僕が聞いたのはエンジェルさんだよ」
同じだろうが、ボケ。
どういう事だ。森がコックリさんを広めた張本人だったのか?
だったら校内でコックリさんが流行って満足だろうよ。でも、森の態度はそう見えなかった。
「いや、おかしいな」
佐久間の話を信じるなら、森が教えたのはエンジェルさんだ。
内容はコックリさんと同じだが、名称が違う。どうして、「エンジェルさん」ではなく「コックリさん」が流行ったんだ?
適当に話を切り上げて、再び生徒会長に連絡を取る。顔の広い奴ならもしかしてと思ったけど、大当たりだ。
コックリさんのやり方を聞いたと言うSNSに入っていやがった。四の五の言わせず招待状を送らせ、サクッと登録する。
生徒会長の友人一覧からサチという名前を見つけ出しメッセージを送ると、一分と間を置かずに返事が来た。
佐久間から来たと言うメッセージを転送して貰ったのだ。そこには間違いなく「コックリさん」と書かれている。
どこで名前が変わったんだ。
学校でコックリさんが流行って、たった一日で問題になっているんだ。佐久間だってエンジェルさんとコックリさんの類似に気付いていただろう。だから、煮え切らない返事だったのだ。
だが、佐久間はあれを「エンジェルさん」と呼んでいた。もし、佐久間が広めたなら「コックリさん」に変える理由がある筈だ。
携帯を睨んだまま考え込む俺の肩を正午がツンツンと突ついて来る。
「そのサチって人の友人に佐久間っていませんか?」
言われて探してみたら確かにサクマという人物がいる。
「友達登録していなかったらメッセージも送れないみたいだから当然だな」
「だったら、そのサクマなる人物にメッセージ送ってみて下さい」
どうして。佐久間の連絡先は既に入手しているんだ。直接、電話を掛けた方が早いだろ。
怪訝に思うが、逆らう事はできず友人登録希望のメッセージを送る。
返事はない。
そりゃそうだ。
佐久間がいつSNSにログインするか分からないんだし、そもそも俺からのメッセージに返信するとも限らない。
「管理画面に戻って」
何がしたいのか分からないが、言われた通りにすると、友人数が3に増えてる。
二人は分かっていた。招待して貰った生徒会長とたサチ。そして、もう一人。
登録希望のメッセージを送ったサクマだ。
「いやいや、当たり前だろ。俺が登録してくれってメッセージ送ったんだから」
タイミングよくログインして、俺のメッセージを見たからポチッとしただけだろ。
それなのに正午は「そうでしょうか?」と首を傾げる。
「サクマの友人一覧を見て下さい」
その通りにすると、ズラッと女子の名前が並んでいる。
リアルでは女子に免疫ない癖に生意気な。
そうムカムカする俺を無視して、正午が「やっぱり」と呟く。
「何がやっぱりなんだ?」
「そのサクマって人は佐久間さんじゃありませんよ」
「え?」
「佐久間さん以外の誰かがサクマってアカウントを作ったんでしょう」
「でも、佐久間は指輪がある場所をコックリさんに教えて貰ったって」
「コックリさんではなく、エンジェルさんです」
「そうだけど……」
名前は違うけど、同じだろう。
だから、サクマが佐久間本人でないとしたら残る可能性は森しかいない。
森が佐久間に指輪を渡して、それを隠した。そしてエンジェルさんを教えてやらせた。その後にSNSでコックリさんを広めたんじゃないのか?




