12
少し休んで、校舎の見回りに出る。
森を待ってみたのだが、いつまで経っても戻って来やしない。頭冷やしたらバカらしくなったのだろう、サクッと帰りやがったなアイツ。もうやだ、風紀辞めたい。
トボトボと廊下を歩き二階へと向かうと、耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。悲鳴って言うか奇声だ。首を絞められた鶏の声に似ている。
慌てて声のした方に向かうと、二階の女子トイレから半泣きになった一年生が飛び出して来る。
「おい、何があった」
走る一年生を追いかけその肩を掴むと、グチャグチャになった泣き顔で俺を見る。
「助け、て」
何から何を。
そうしている間にもトイレから奇声は聞こえて来る。駆けつけて来た教師に一年生を預け、女子トイレに飛び込む。
「何だ……?」
トイレにいたのはさっきの一年生の友人らしい女子だ。
しかし、様子がおかしい。
からだを変な角度に折り曲げてピョンピョン飛んでいる。そうしながら「キッ、キィーッ」と鳴いているのだ。
「落ち着け!」
俺がな。
頭の中で冷静なもう一人の俺がそうツッコミを入れるが、それに構っている余裕はない。飛び跳ねるからだを押さえ込もうとその腕を掴むが、女子とは思えない力で振り払われてしまう。
何だ、これ。
呆然としながら、風紀としての責任感だけでからだを動かす。
「落ち着け、こら……落ち着けって!」
だから俺がな。
力任せに飛び跳ねる女子を押さえつけ、ゼェハァ息を整える。
その頃には教師が数人と野次馬らしき生徒がトイレを覗き込んでいた。
俺の下で床に押さえつけられた女子は「キェ、キィイッ」と鳴き声を上げている。その口からは涎が垂れ、目の焦点が合っていない。尋常ではなかった。
教師と一緒にその生徒を廊下に運び出し、どうすんだこれ……と途方に暮れる。
すると遠くからサイレンの音が聞こえて来る。誰が呼んだのか知らないが、救急車が来たようだ。
暴れる女子を教師に任せ、風紀委員長として続々と集まる野次馬を蹴散らす事に専念する。
鎮静剤でも打たれたのか、グッタリと意識を失った生徒を乗せ救急車が走り出す。
それを見送り、疲れた溜め息をつく。
残っていた生徒は強制的に帰らせた。そうでもしなかったら大混乱だったからだ。
その最中、ふと耳に飛び込んで来た言葉がある。
コックリさんの祟り。
頭から否定する気はないけど、そんな簡単に祟られるなら女子の殆どは祟られている事になるな。
俺も帰るか。
そう思うが、その前に行かなきゃいけない場所がある。保健室だ。
俺に助けてと言った生徒は興奮状態のため、大事を取って保健室で休ませているのだ。
ノックして中に入ると白衣姿の保険医が「お疲れさま」とねぎらって来る。
本当に疲れましたよ。でも、まだ終ってない。
緩みそうになる意識を引き締めカーテンの引かれたベッドに近づく。
「風紀だ。開けていいか」
声を掛けると、中から「はい」と弱々しい返事がある。
俺が来ると保険医に聞いていたのだろう、ベッドに腰掛けた女子が心細そうに見上げて来る。
「何があったのか話してくれ」
椅子を持って来て、そう促すと困ったように眉を寄せてボソボソと話し出す。
それによると、あの女子生徒は急に声を上げ暴れ出したと言う。
何が起こったのか分からず見つめるしか出来なかった。だが、その口から聞こえた声が男のように野太く、また内容も理解できないほどに口汚い罵りだったらしい。
訳が分からないままパニックになって逃げ出そうとしたところに俺が到着したと言う事だった。
「何かキッカケはなかったのか?」
「きっかけって言われても……お喋りしながら手を洗ってたら急にああなって」
「何の話をしていたんだ?」
「コックリさんの話を」
本当にコックリさんの祟りだとでも言うつもりか。どうして、どいつもこいつも訳の分からない幽霊に頼ろうとするんだ。
俺がムッとした顔をしたからか、目の前にいる一年生が慌てたように言葉を続ける。
「私たちはコックリさんを信じてる訳じゃなくて、ただ同じクラスの子がやってて……余りいい気はしないよねって」
コックリさんをやってた側じゃないのか。
そう気を取り直して「どうしてだ」と質問する。
「ミチカは……さっきの子なんですが。何て言うか、凄く霊感が強いんです。だから誰かがコックリさんをすると体調が悪くなって」
初耳だ。同じ学校に霊感少女がいたのか。
俺が驚いていると、保険医がやって来て「もういいかな」と言う。
「大事を取って自宅まで送る事になったんだよ。それとも委員長が送るかい?」
そんな面倒な役目はごめんだ。
無言で首を振ると、肩を竦めた保険医が一年生を促して出て行く。
ボンヤリとそれを見送り、ハッとする。俺が戸締まりしなきゃならないのか。




