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発端は分からないが、どのクラスも朝から顔寄せ合って「コックリさんコックリさん」と言ってるらしい。
高校生にもなって勘弁してくれ。
正木たちオカルト同好会だけで手一杯だと言うのに、どうして全校生徒あげてコックリさんなんかしてんだよ。
「それが原因か?」
「多分ね。悲鳴上げたのは何かと見間違えたとか空耳とかでしょ、喧嘩は教室でそんな事してんだから常識ある人間なら注意ぐらいするでしょうね、それで言い合いになって手が出たって事じゃない?」
正木信者である清水がコックリさんを止めようとするだろうか。いや、違うな。
きっと教室でやってた女子が手順を間違えたのだ。それを見咎めて注意して喧嘩になった、そんなところだろう。
「これ以上の騒ぎはごめんだから先生に頼んでコックリさんを禁止にして貰うつもり。あとで生徒会にも同じ事を頼むけど、いいわね?」
森の口調は、許可と言うより確認だった。
俺にしても異論はないので、当然のように頷き返す。
職員室に行くと、既に清水は家に帰された後だった。
突き飛ばされた女子も特に怪我をしていた訳ではないので、注意だけで処分はなかったらしい。それを聞いてホッとして自分の教室へと向かう。
森が言っていた通り、何人かの女子がソワソワと落ち着かない様子だ。
コックリさんをして、呼んでしまったのか。
怯えたように目を泳がせているが、特に変わったものはない。
いつもと同じクラスに、いつもと同じく花子さんが混じっている。
何て言うか、花子さんに関してはもう諦めている。俺にはどうする事もできないし。
神経が尖っているのか、ソワソワしてる何人かは花子さんの気配を感じるらしく、泳いだ目がそちらへと時々向かっている。
面倒くさい。
ジッと見つめると、それに気付いた花子さんが楽しそうに俺の前に立つ。その目を見つめて、手のひらでシッシッとする。
流石に怒るかと思ったのだが、俺を見て教室を見渡して何か納得したようだ。
コクンと頷き、音もなく窓から飛び降りてしまう。
やめて、生きてないと知ってても心臓に悪い。
それにしても本当に流行っているとは。高校生にもなって何やってんだって思うが、高校生だからこそハマるのかも知れないと考え直す。
昼休みになって風紀室に顔を出すと、森がパンを齧っていた。
「どうだった?」
この質問は、コックリさんをしてたかって事だろう。
「見た訳じゃないが、やってたみたいだ」
休み時間の度に注意していたんだが、それらしい素振りを見せる女子はいなかった。
「そう。ま、コックリさんやってるの女子だけみたいだしね」
そう言って森が肩を竦める。
だったら俺じゃなくて森の管轄だな。
何故か知らないが、俺を見ると一定の割合で女子が逃げてく。しかも、キャッキャ言いながらだ。それは訳が分からないなりに、余り気分のいいものではない。
「放課後の見回りは森が行くか?」
他にも女子の委員はいるが、森が適任だろう。相手が誰だろうと怯まないし。
「一人で?」
そう問い返されて、頷くのを躊躇ってしまう。
俺の中で森は女ではない。完璧とも言える美少女ぶりだが、その完璧さが女装している男のように感じるのだ。
しかし俺がどう思おうと、森は女だ。しかも、何を仕出かすか想像するだけで恐ろしくなる気性の持ち主。つまり一人で行かせて問題が起こらないとも限らない。
「仕方ない、俺も一緒に回るか」




