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しかし、そうは問屋がおろさなかった。
月曜日になって学校に行くと、朝の当番をしている筈の森が怖い顔して待ち構えていたのだ。
その手に握られているのは風紀の書類らしい。
「どうしたんだ」
「面倒な事になってるよ」
そう言うと、スタスタと風紀室へ向かう。
どうやら機嫌が悪いらしい。なので、逆らわずにその後ろ姿を追い掛ける。
風紀室で改めて書類を見ると、喧嘩が数件あったようだ。
え、まだ九時にもなってないんだが……まさか一時間かそこらでこんなにか?
不思議に思って森を見ると、ムスッとした顔で頷かれてしまう。
「他にも幾つか騒ぎがあったみたい」
一年の教室と職員室前の廊下で突如として悲鳴をあげた女子がいるらしい。それぞれ別の女子だ。
「原因は?」
「今調べてる」
道理で他の委員がいない訳だな。きっと森に命令されて、それぞれの現場に行ったのだろう。
それにしても喧嘩か。
普段は風紀に書類が回って来るほどの喧嘩は殆どない。大抵は口喧嘩に毛が生えた程度で、それも周囲が宥めてナァナァで終る。
書類が回って来たと言う事は、それで済まなかったと言う事なのだろう。
そう思って改めて書類に目を通す。詳細を読むにつれ、俺の眉間に皺が寄る。
それもその筈で、被害者は女子だった。しかも殴ったのは男子だ。
女に手を上げる男は最低だが、そこに書かれた名前を見て更に顔を顰めてしまう。
正木信者である清水だったのだ。
「何が原因だったんだ」
「どっちも興奮状態で話ができる状態じゃないって。それに女子の方は病院に連れて行かれたしね」
それほどの怪我をしたのだろうか。
少し心配になって森を見ると、肩を竦められてしまう。
「喧嘩ってなってるけど、実際は言い争いしてたらしい。それでつい手が出て突き飛ばしたそうよ。そこにたまたま教師が通り掛って大事を取って病院に連れてったって事らしいよ」
だったら、大した怪我ではないのだろう。そうホッとする。
「それで清水は?」
「職員室にいるみたいね」
まぁ、そうだろう。学校側としてはお説教したのち、家に連絡するつもりなのだろう。
他にも似たような小競り合いがあったらしい。男子が女子に突っかかったり、女子同士だったり……それを読み終えて首を傾げる。
「気の所為かも知れないが、女子が何かしたのか?」
俺がそう思ったのは、どの喧嘩も引き金は女子のように思えたからだ。
「流石に勘がいいわね」
呆れたように森がそう呟き、悲鳴騒ぎの書類を投げて来る。
それをキャッチして目を通して呆然とする。
悲鳴をあげたのは一年の女子だ。またしても女子。
そして何に怯えたのかも書いてある。
幽霊を見た、と。
一年の教室で悲鳴を上げた方は自分の手鏡に白い影が映っていたと言ったそうだが、職員室前の方は少し違う。
動物の鳴き声を聞いたと書いてある。しかも狐、と。
「狐って、どう鳴くんだ?」
純粋に疑問だったので、そう訊ねると森がバカにしたような目を向けて来る。
仕方にだろう、俺は実際に狐の鳴き声なんか聞いた事ないんだから。
でも、イメージとしてはコンコンだな。
だからって、どうして狐だと断定できたんだ?
「林は女友達いないの?」
いるか、そんなもの。
ムッとして森を睨むと、それ以上の迫力で睨み返されてしまった。
怖いですよ、森さん。
内心ビビっていると、何を思ったのか森が肩を竦めて溜め息をつく。
「まぁ、教室にも行ってないから知らなくても無理はないか」
どうでも良さそうに呟くと、「コックリさんだよ」と言う。
コックリ……って、もしかしてあのコックリさんか?
厭な予感がして森を見つめると、俺の心を読んだのか小さく頷く。
「今朝から何故か女子の間でコックリさんが大流行してるんだよ」
何と、恐ろしい。
コックリさんは降霊術の一種だ。
正木がたまにやってるから俺だって知ってる。
どうしてわざわざ幽霊を呼び出す必要があるのか、全くもって理解できない。
だって、そこら辺に普通にいるじゃん、あいつら。




