5
セーラー服姿の女の子が宙に浮いている。
長く艶やかな黒髪。花子さんだ。
でも、不思議な事に俺はそんな花子さんを見下ろしている。
これは一体。
考える間もなく、宙に浮いていると言うのに花子さんはテクテクと足を動かし移動して行く。生きていた記憶がそうさせるのか。
それを思うと、ほんの少し可哀想になるが、それより問題は俺がどこにいるのかだ。
どうして花子さんを見下ろしているのか。
もしかして、俺も花子さんの仲間入りしてしまったとか?
いやぁ、そんなまさかー。
だって死んだ心当たりなんてないし……でも、俺がこれまで見て来た幽霊どもは死んだ自覚ない奴らも大勢いたし。
いやいや、そんなバカな。
幾ら何でもそんな急に死ぬなんてある筈ない。それに俺が死ぬような目にあったら、紫狼が助けてくれる筈だし。そうだ、これは夢だ。
そう思うと、何だかそんな気がして来るから不思議だ。
俺が煩悶している間に花子さんがスッと建物の中へと消えて行く。
そこで漸くここがどこなのか気がつく。
行ったばかりだから間違いない。ここは例の幽霊マンションだ。
記憶に新しいので、夢に出て来ても不思議じゃない。でも、どうして花子さんが。
フワフワと揺れる俺の視点が花子さんを追い掛ける。
流れるように移動した花子さんが何もない空間に「おいでおいで」と手招きする。それに呼ばれたように、フワリと小さな光が浮かび上がる。
最初は一つ、それが二つとなり、あっという間に数えられないほどの光が花子さんの周りに漂っている。
何だ、これ。
まるで火の玉みたいだな……そこで思い出す。
そう言えば、何日か前に花子さんが大量の鬼火を持って帰って来たな。まさか、コレだったのか?
「うへぇ」
思わずついた溜め息でハッと目が覚める。
隣には身体を丸めて眠る正午の姿。そして、天井近くには飛び起きた俺を見つめる花子さん。
どうしよう。今の夢が本当だとしたら、幽霊マンションに誰もいなかった理由に説明がついちゃうよ。
ちょっと、どういう事なの。花子さんっ!!
慌てふためく俺を見下ろして、花子さんが可笑しそうに口元を押さえる。
無邪気な仕草で可愛いんだけど、何て言うか……女の子の底意地の悪さを垣間みたような気がする。
「ん……」
欠伸のような声を漏らして正午が起き上がる。
それにもまたビックリしてしまう。
起きるなら起きるって予告してよ、もう。
そんな理不尽とも言える苦情を何とか飲み込み、正午を見ると……物凄く不機嫌そうな目で睨まれてしまった。
「原因がこんな近くにいたなんて」
恨みがましい声でそう呟かれてギクッとする。
何で分かったんだ?
「花子さんが幽霊マンションにいた人たちをここに連れて来て、それを司郎が浄霊したんですね」
え、してないけど?
俺にそんな特殊技能が備わっている筈ないだろ。ただの平凡な高校三年生だって。
確かにばあさんは拝み屋だったかも知れないけど、俺はちょっと前までそれすら知らなかったんだから。
「言ったでしょう、司郎は考えるより先に手を差し出せるんです。だから、全員を慰めたんじゃないですか」
そんな事してないよ?
俺がした事と言えば、正午に電話して……その後はひたすら怯えまくってただけだ。
もしかして、怯える俺を見てバカバカしくなって成仏したとか?
それは何て言うか、物凄く傷つく。
って言うか、そもそも何で俺が見た夢知ってるの、お前。
「紫狼が見せてくれたんですよ」
成る程。
シロウは俺と繋がってるって言うか俺の目に宿ってるんだから、夢を覗き見したとしても仕方ない。
だからって、飼い主に忠実すぎる。
「まぁ……暫くはあの廃墟も綺麗だろうし。そうなったら人間は案外聡いですからね、土地が清められたと気付いて取り壊し工事が始まるかも」
そしたら俺の大嫌いな心霊スポットが減るって事か。
だったら、終わりよければ全てよしだな。




