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でも、生きてる人間って誰だ。正木の事か?
「正木さんが司郎を連れ出した目的は単に幽霊を見たかったからって訳じゃないと思いますよ」
「どうして」
寝床をどうしようかと悩んでいたら正午が思いついたように呟くので、律儀に返してしまう。
「あの廃墟は心霊スポットとして有名なんでしょう。だったら元々出やすい、そういう場所なんじゃないですか」
「でも、何もいなかったじゃないか」
「そうなんですよね……」
奥歯に物が挟まったように黙り込む。
それを無視して、エアコンの温度を確認する。まだ寒いとは言えない季節だし、雑魚寝でいいか。
予備のタオルケットを出してやると、それを広げずに抱えたまま正午再び口を開く。
「廃墟に限らず、見捨てられた場所には溜まりやすい筈なんです」
「何が?」
「良くない物です」
それはアレか。幽霊とかそういう類いか。
確かにその通りだと思う。
人通りの少ない踏切や交差点には必ずと言っていいほど奴らはいるし、花子さんだって使っていない旧校舎にずっといたんだ。
何か理由があるのだろうとは思うが、そこまでは俺だって分からない。
ただ経験から、そういう場所にはいるとだけ分かる。
だから、正午の言葉も理解はできる。だからって、いない物はいないのだ。どうしようもないだろう。
「さっきも言ったけど、誰かが全部祓ったとか?」
「それならそうと僕の耳に入っている筈です」
何なに、霊能者の組合でもあるのか。それは何だか近づきたくないなぁ。
「拝み屋、占い師、霊能者。何と呼ばれても、その本質は同じです」
「本質って?」
「過去の因縁を探ると言う事です」
うん、まぁそれは必要だと思う。
何が起こったのか分からなかったら手出しのしようがないもんな。
「過去というのは土地の歴史でもあります。だから自然と縄張りのような物が出来てしまうんですよ。基本的にこの仕事をしている人たちは他人の縄張りに手を出そうとはしません」
「揉めるから?」
「いいえ。面倒だからです」
あとあと、人間関係がこじれて面倒になるって事か?
「人間の寿命なんてたかが知れてます。でも、土地はずっとそこにあり続けるんです。人や動物が入れ替わっても、土地の性質は変わりません。風通しの悪い所は空気が澱み、水はけの悪い場所は濁ります。そういう所は色んな物が溜まりやすい、これは分かりますよね?」
「まぁ、何となく」
「そこにわざわざ首を突っ込んで引っ掻き回すとどうなると思いますか」
「……風通しが良くなる?」
「はい、一カ所に集まっていた物が分散します。そうなると、面倒な事になるんです」
「どうしてだ?」
「ハッキリと分かるように水銀が落ちていたら誰も近づきません。でも、空気中に微量の水銀が漂っていたらどうですか。分からないまま、それを吸い込んでしまいます。そういう事です」
ピンと来ないけど、だいたいは分かった。
汚れているように見えなくても掃除したら案外ホコリだらけって事はある。
つまり、そこにあると意識すれば避けられるけど、分からなかったら避けようがない訳だな。
でも、疑問は残る。
「排除する事はできないのか」
「無駄です。あのマンションは廃墟となった建物を壊してそれこそ風通しを良くすれば土地も変わるかも知れませんが、大抵の場合はすぐにまた溜まりますよ」
本気で祓うつもりなら、建物ごと壊すしかないのか。それは確かに面倒だ。
パジャマ代わりにTシャツを渡すと、タオルケットを置いてその場で着替え出す。
俺がいるとか、恥ずかしいとか、一切ないんだろうな。
思い切りよく脱ぐので、つい目が釘付けになってしまう。
タンクトップの襟元から見える鎖骨がまるで誘っているようだ。無意識のまま手を伸ばして、そこを指で辿る。
細くて硬いけど、この感触は好きだ。
仰け反るように正午が顔を上げるので、そのまま首筋を撫でてみる。
ここは柔らかいんだな、あと暖かくてスベスベしてる。
そのまま首の後ろに手を当てて引き寄せる。すると、突き刺さるような視線を感じてハッとする。
長い睫毛の奥から正午が俺を見ている。冴え冴えとしているその目に見つめられ、途端に居心地が悪くなる。
いや、その前に。
この姿勢、この近さ。まるでキスしようとしてたみたいなんですけど!
いやぁ、俺ってば何してんの!!
そりゃ、好きだって言ったし、色々やりたいとは思ってるよ!
でも、それは飽くまで妄想だから!
本当にやったら、ヤバいって分かってるだろ、俺!!
「あ……ぅ、悪ぃ」
「いえ」
正午が素っ気なく答えてTシャツを被る。頑張ってそれから目を逸らすと、隅っこで座り込んでいる花子さんに気がつく。
両手で目を隠して、その隙間からこっちを見ている。
この女……覗いてやがったのか。
睨み返すと、目に当てていた手を頬に当ててクネクネ踊り出す。その口元は楽しいと言わんばかりにニヨニヨしてるし、何なんだ。どうして喜んでるんだか、俺にはサッパリ分からん。




