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比与森家の因縁  作者: みづは
白銀の狐
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4

正木と別れて、駅まで正午を送る事にする。

本当なら久しぶりに会った感動を伝えたいのだけど、俺のイトコは素っ気ない。だから、そんな事言っても引かれるだけだと分かっているので黙るしかない。


「紫狼はどうですか」


不意にポツリと正午が問い掛けて来る。


「元気だな」


実体のない犬が元気だと言うのも変な話だが、俺の中で尻尾振りたくってるんだから元気と言っていいだろう。それに対して「そうですか」と言ったきり黙り込んでしまう。

何か沈黙が重たい。

元々お喋りなタイプではないが、今日はいつにも増して口数が少ない。いや、俺と二人になってからか。


え、まさか……俺といるのが厭だとかそういう理由?

何でだ。それはまぁ……俺は正午に対する好意を隠してないんだから、同性のしかもイトコからそんな風に思われてるのは気まずいだろうなって分かる。でも、あの正午が?

イヤな物はイヤだとハッキリ言う性格なんだから、正午は気まずいと思う前に俺を避けるだろ。でも、こうして並んで歩いてるんだから気まずい理由は他にあるって事だな。

頑張ってポジティブシンキンしてたら、俺の願いが叶ったのか、正午が「変ですよね」と口を開く。


「何がだ」

「さっきの正木さんです。幽霊が見たいから、呼び寄せる体質だと思われる司郎を連れて来た。ここまではいい……でも、どうして中に入ろうとしなかったんでしょう?」

「俺が見えないって言ったからじゃないのか」

「だからって、あのタイプの人がアッサリ引き下がるとは思えません」


短い時間だったのに正木の性格を見抜いていたらしい。

確かに正午の言う通り、さっきの正木はアッサリしていた。普段なら「少しだけ!」とか言って無理矢理、俺を中に引きずって行った筈だ。


うぅん。


信号が赤になったので腕を組んで考え込んでみるけど、そんな事で答えが見つかる筈もない。


「それにさっきの廃墟も気になります」

「何が?」

「ああいう所には普通、何かしら棲みついているものなんです。人間のそれだけじゃなくて自然霊の類いがいてもおかしくない……それなのに何もいなかった。どうしてですか」


俺に聞かれても分かる訳ない。

そもそも正午が何を気にしているのかも分からない。


「何だか……僕たちが行く直前に誰かが全部祓ったような気がするんです」

「誰かって?」

「それが分かれば、ここまで気にしません」


そりゃそうだ。

誰かが祓ったとするならそれは正午の同業者と言う事になるんだろう。だから、気になるのかな。

商売上、テリトリーがあるだろうし。比与森の家はここから電車を乗り継がないと行けないけど、そんなに遠い訳でもない。


「もし、その誰かがさっきのマンションの幽霊を全部祓ったとしたらどうするんだ?」


漫画みたいに呪術者同士の戦争になるのか?

だったら、トバッチリ喰らいそうだから逃げとくかなぁ。

だけど、正午の答えはキッパリと真逆の物だった。


「僕が手を引くだけです」

「え?」

「幽霊がいてバランスが取れている事もあるんです。それを消してしまったら、あとが面倒臭い。清浄と不浄、どちらか片方だけと言うのは自然の摂理に反しますから」


だから見て見ぬふりをするのか。

でも、手を引くって言うからにはこれまで何かしてたって事だよな。


「司郎が住んでる一帯ですから無視する訳には行かないでしょう」


それはつまり俺の為にって事ですか、正午くん。

そうかそうか。さては俺が心霊スポットに行くってのも愛の力で知ったんだな。

口では素っ気ないけど、何だかんだ言って正午は俺が心配なのか。いい事聞いた。

一人ホクホクとしてたら、正午が表情を変えずに呟く。


「正木さんの住所分かりますか」

「風紀室に行けば」

「だったら行きましょう」


説明する気はないらしく、それだけ言うとクルリと来た道を戻って行く。





そんな訳で夜の校舎だ。

とっくに下校時間を過ぎて、教師連中も残っていないらしい。

暗い中をボンヤリと光る非常灯が少し不気味だ。


玄関は鍵が掛かっているだろうし、他の出入り口や窓も同じだろう。どうやって入るのかと正午を見つめると、躊躇う様子もなく風紀室の窓へと向かう。

どうやら鍵が掛かっているらしく、ちょっと引いたぐらいでは開かない。

しかし、次の瞬間。ガタガタと窓を揺さぶり出す。


「おい、何してんだ」

「クレッセント錠でしょう、こうすれば……ほら、開いた」


振動で鍵を外したのか。空き巣か、お前は。

そう呆れるが、スルリと猫のように中へと入る正午を慌てて追い掛ける。


「どこですか」

「パソコンと紙の名簿があったような」

「探して下さい」


有無を言わせぬ口調で命令されて、それに従う。

だって、しょうがない。俺の中には、飼い主に絶対服従を誓っている犬がいるんだから。

ガサゴソとキャビネットを探って目当ての物を見つける。


「あったぞ」

「見せて下さい」


そう言って俺の手元を携帯で照らす。その小さな明かりを頼りに正木の名前を探し出す。


「この住所……部屋番号が書いてないって事は一戸建てですよね」

「ああ、たぶん?」

「卒業した中学もこの近く。と言う事は、正木さんは最近になって引っ越して来た訳ではない……」

「まぁ、そうなんだろうな。確か小学校から同じ奴がいたと思う」

「火事があったのは十年前。その時、正木さんは八才です。何か見たのかも知れませんね」

「え?」


見たって、何を。

もしかして幽霊か?




夜も更けた事だし、明日は日曜日だし。

それを理由に正午が泊まると言い出したので、コンビニに寄ってから家に帰る。

案の定、親父は今日も帰らないらしい。週末だと言うのに大変だ。過労死しないでくれよ、頼むから。

そんな事を思いながら買って来た弁当を温めると、正午が「まだいたんですか、花子さん」と今更な事を言う。

本当に今更だ。

ずっと俺の周りで好き勝手やってたのに見えてなかったのか?

ああ、お得意の無視って奴か。その技術、俺にも教えてくれ。

花子さんは幽霊だけど、慣れもあってかそれほど怖くはない。ただ、疲れる。

元々、女子と触れ合う事の少ない人生だ。俺の高校生活は、風紀の仕事に追われ、リア充なんて言葉とは程遠い。唯一の親しい女子が森なんだから推して知るべしだ。


「ずっといただろ」

「小バエが飛んでるのかと思いました」


堂々とハエ呼ばわり。幾ら幽霊でも相手は女の子なんだから、そこは蝶々ぐらいにしておけよ。

当の本人は羨ましそうに正午の持つ弁当を見てるけどさ。


「成仏しないんですか?」


照り焼きチキンを頬張りながら正午が訊ねる。けど、花子さんの目はチキンに釘付けだ。

死んでから一度として物を食べてないのだろうから、しょうがない。空腹は感じないと思うが、物足りないのだろう。何しろ、食欲は人間の三大欲求なんだから。そこは少し同情する。


「お守り、まだ持ってるんですか?」


今度は俺を見てそう訊ねて来る。

頷き返すと、信じられないとでも言うように顔を顰める。

そりゃ、俺だってこのお守りの所為で花子さんがいるんだろうなって思ってたよ。だからって、お守り捨ててこっちの都合で、はいさよならってのも何だか後味悪いし。


「そんなだから幽霊だけじゃなくて生きてる人間にまでつけ込まれるんですよ」


悪かったな、お人好しで。

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